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詩 #25

段ボールが届いた
玄関の前に置かれたそれは
たぶんだけど私宛だ

白く小さな段ボールは
普段届く実家からの大きなバナナ箱とは違っていて
いったいどこからだろうと私は首を傾げる

玄関の扉を開けて
段ボールはわが家へと入る
お邪魔しますと小さく呟いたかもしれない

配達のいつものお兄さんは
私が留守にしているときは
玄関の前にこうして荷物を置いていく

私も彼も
時間の大切さを知っているのだ
時間は箱の中身よりも得難い

白く小さい箱をとりあえずで床に置く
宛名書きのあの長方形の紙には
あの人の名前が記されていた

懐かしいなあ
そう口から零れて
その響きに少し驚く

そうか
私はもうあの頃を
懐かしんでいるのか

箱の中身は何だろう
気を取り直して考えてみる
たぶんだけど美味しいものだ

私の勘はよく当たる
ときどき大きく外すけれど
そのことも含めて私は信頼している

びりべりと音を立てながら
私は箱を閉じたテープをはがす
テープは段ボールの表面を掴んだままにはがれていく

少し手にくっつきそうになって
私はあわてた
このびりべりは楽しいけど怖くもある

またまた気を取り直して
箱を開けてみる
私はいつの間にか正座をしていた

箱の中にはいっぱいに薄いオレンジ色の花びらと
同じ色の一つの小さな花と
それから一枚の筆書きが入っていた

「久しぶりですね、花が咲きました。美しかったのですが
写真を撮ろうとカメラを探しているうちに散ってしまいました。
勿体ないことをしたと思いましたが、ほころび始めた一輪を見つけて」

変わらないなあ
花を掌で転がしてみる
すっかり開ききる前の一輪は名前も知らないけれど

きっと私はこの小さな薄いオレンジ色の花を大切にする
なんとなく思った
今日のことはたぶんだけど忘れない

たまには返事を書いてみよう
どっかにポストカードでもあったっけ
足元に花びらが舞った



2022.1.21

Hello Especially スキマスイッチに敬意をこめて

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