草々

手元に降りた光陰を捉えるために拳をつくる
水底の砂を蹴飛ばして回る地球の影に隠れる
月を五感の外で感じる
水銀に呑まれる日々の閑々
端を折ったカーテンの向こうに見えた景色を
明日の朝も覚えている手向け
ふらっと揺らぐ不安な炎が照らした顔も私の外見
焼けるような匂いの中で夏を待つ部屋の隅
戸を風が無作法に開けて他人の振りして誑かす
私たちは兄弟だった
本物の兄弟だけを殺して生きる小食家
床に残る思い出を記憶して
ひっくり返ったプリントを諳んじる試み
到底上手くは死ねないのなら拳の中の光陰を
確かめもせずにそのままぐっと
逃げ足の速い月だから私は捉えて泳がせる
泳ぐ光に溺れた不如帰
草々

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