詩 碇
碇
灯が壁に影をつくる
ふらっと揺らめいたその角が
私の現を照らす月
水銀に呑まれてみたい
海底よりも深くを往きたい
空飛ぶ凡てが足元に墜ちてくれば好い
貴方の差し出した左手は
柔く開かれた細い指は
米を咥えた雀でも乗せる様な掌は
裏を見初めてかつ綺麗だと覚える
重く惹かれる大地の音に
五感の外側で感じる揺れに
浮かぶ心をぶくぶくと沈める
泡が抜けて其の儘ただただ
私はそれをしかと見つめる
動かすのは辞めにせよ
高い空に近づこうと願うのも
外を眺めて糸瓜になるのも
辞めて辞めてその後で
朽ちて
さびて
忘れて
忘れられて
目を瞑って
生まれる前の自我として
ひたすらに
消えゆく泡はここで
碇
雪屋双喜
それでもまだ、目指す場所はその姿すら見せない。
私は心を碇としてこの海原に何時かを想って沈めている。
切り離された碇が言葉としてのみ水底に残り誰かを待つのである。
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