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読書記録 肖像彫刻家


篠田節子さん著 新潮社 2019年


◎はじめに
 私は篠田節子さんが好きで、「女たちのジハード」以来何冊か読んでいます。私からすると社会派的推理小説で、ちょっとミステリーなところもあり、毎回読み始めると先が気になってしまいます。

 今回はそんな私が図書館で吸い寄せられるように篠田先生のコーナーに行って、もう既読のものもある中、選んだ一冊です。

 装丁も山脈を見渡す田園地帯に立つ彫刻家を見て、私の恩師で海を見渡す丘の上で陶芸家をしている先生を思い出してしまいました。

◎あらすじ
 彫刻家の高山正道は、中年に差し掛かった。美大をでて大学の講師をしながら結婚したが、両親と同居して暮らしと作品製作に打ち込む生計を立てていた。

しかし高校の美術教師をしながら家庭を支えてきた妻はある時、息子を連れて家を出てしまった。


そして、正道は、イタリアに留学する。

「モノになるまで、帰ってくるな」

の父のことばどおり、8年間イタリアの彫刻家マリオ.ブッチ師について、ブロンズ彫刻を学び、工房のスタッフとして働いてきた。


8年後、空港で正道を待っていた実姉は元ヤンキーで、芸術家ではあっても生活力のない正道を、まず両親の墓に連れていき土下座させる。



そんな姉貴だが、両親の遺産配分は、ほぼ法廷相続分弟に渡し、しかも彫刻をつづけるための、場所まで親戚のツテをたどって準備してくれた。


そして正道は、八ヶ岳を臨む、山梨県のある町にアトリエ兼家を構える。



そこで正道は、肖像彫刻を依頼主の思いに応えようと、イタリア修行時代に学んだものを出し尽くし「魂が宿る彫刻」を作ると、評判になっていく。


依頼主と彫像のご本人との関係が、時に見え隠れしてくる。



著名な学者でも高齢になり、介護が必要な状態になると、ヘルパーさん任せで、親に数分しか顔を見せない子ども。生前の業績をたたえようと、肖像彫刻を作るが、、、



著名な建築家が、恋人だった新体操のアスリートの肖像を依頼してくるが、完成まもなく制作者の正道に返してくる。作品の出来とは別に引き取れない事情が、、、

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◎感想
正道の作品が素晴らしく、依頼主の希望以上に肖像をリアルにでき、まるで生きているようらしい。それを見てみたいと、思う。

 依頼主と彫像主(彫像になった人物)の関係性が浮き彫りにされる、彫像完成後の各章の展開が読み応えがある。

このお話全体で感じたのは、

もっといい暮らしをしたい、世の中で認められたいという欲望を追い求めることも必要かもしれない、そういう時期は誰にもある。

けれど、それとは違う、誰かと一緒に美しいものを見たり、美味しいものを食べたり、笑いあい、語り合うなんて普通のことがしたい。

人生で大切なものは何だろう、改めて立ち止まって考えてみようか。


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◎今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました😊

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