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あの雨の日、とびっきりの笑顔で階段を駆け上がっていった君に

時間が合うときは、応援するチームの公開練習に足を運んでいます。

この選手の調子がどうだとか、あの戦術練習の意図はどうだとか、そういったことはよくわかりません。ただ、ときには笑い声が響くいい雰囲気の中で真剣に取り組む選手たちの姿には、試合で見るのとはまた違った魅力があって。スタジアムと同様、何度でも来たい大好きな場所です。


その日は練習開始前から冷たい雨が降っていました。あいにくの天気のせいか見学者は珍しくまばらで。

毎回だいたい決まった位置で見学するのですが、その日はすいていたこともあっていつもとは違うところで見ることにしました。グラウンドとクラブハウスをつなぐ階段のそば。行き帰りで階段を通る選手をすぐ横から見ることができるところです。


熱の入った全体練習が終わり、締めのあいさつのあと、グラウンドでは居残り練習が始まりました。居残りなし、または短時間で切り上げた選手たちが、階段を上がってクラブハウスに戻っていきます。

初めて間近で見る、練習終わりの選手たち。どの選手も、疲労と充実感が入り混じったような表情をしていて。ああみんないい顔してるなと思いながら見ていました。「お疲れ様です」って声をかけてくれる選手もいて、うれしかった。

ややうつむきながら階段を上ってきたのは私の推し選手。その視線がこちらを向くことはなかったけど、美しく精悍な横顔を見れただけでもうじゅうぶん。お疲れ様ですと小さく言いながら見送りました。

いつもは推し選手がクラブハウスに戻るタイミングで自分も練習場を後にすることが多いのですが、なんだか最後の選手まで見送りたくなって。冷たい雨と風の中、その後も居残り練習を見ていました。


グラウンドに残っている選手がだいぶ少なくなってきた頃。ある高卒新人選手が、それはもうにっこにこの笑顔で、小走りに階段を上ってきたんです。

なななんだこの若さのかたまりは!って思いました。紅潮した顔に浮かぶ、楽しくてたまらないといった表情。コーチとみっちり居残り練習していたはずなのに、その足取りはとても軽やかで。

雨に濡れた推し選手の横顔にうっとりしていた数十分前の乙女モードはどこへやら。ルーキーのはずむ背中を見送る私は、完全におかんか近所のおばちゃんでした。

階段を上る直前に他の選手と言葉をかわしていたので、何かおもしろいことでも言われたのかもしれません。それでもその笑顔と足取りの軽さから、彼もまた手ごたえのある練習ができたんだろうなって感じました。きっとあの後は、にっこにこの笑顔のまま、昼ごはんをもりもり食べたんだろうな。


大型新人として期待を集める18歳。あのとびきりの笑顔を、ホームスタジアムで、さらにその先の舞台で、見ることができる日が今から楽しみです。

世界の舞台で活躍し今や時の人となったあの先輩たちのように、いつかこの場所から羽ばたいていくのかもしれません。

そのとき私はきっと、あの雨の練習日のことを思い出すのでしょう。例によっておかんか近所のおばちゃんと化し、「あんなにあどけなかったのに、立派になったねえ」って。

大きな頼もしさとともに、寂しさも少し感じたりするのかな。


寒かったけど来てよかった。最後までいてよかった。通えるかぎり通うと決めた場所でできた、私だけの大事な思い出です。



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