郷土の名工 青龍軒盛俊
FBの思い出機能で、初めて日本刀鑑賞講座に参加した時の投稿がTLに上がってきました。
数年前の話ですが、その後の活動が濃すぎて?!実際にはもっと年数が経っているような気がしました。
初めて日本刀の中心を握ってから数年間に、刀職者の方々とお知り合いになったり、展示会を観に行ったり、実際に刀を購入したりと、どっぷりと刀沼にはまってしまっています。
どの刀も縁あって我が家にお迎えし、それぞれの経緯を書いてきたので、今回は一番最近お迎えすることになった刀について書いてみます。
我が家には、山口県ならではの一派「二王」の「清貞」がある。
今でも郷土の刀工を色々調べていて、ウェブ上で二王の刀はいくつか見かけていた。
二王光清、方清(まさきよ)、直清、藤原清重などなど。
二王以外では、実家に近い岩国市の刀工、吉川氏お抱え鍛冶「青龍軒盛俊」の存在を知った。
まずは時代ごとの二王優先で、盛俊さんはいつかお迎えできたらいいなぁくらいに思っていた。
この人は新々刀期の刀工なので、二王よりは情報量も多かった。
ざっと調べたところによると・・・
本名は岩本清左衛門、享和二年周防国岩国の生まれ。
周防国岩国藩の吉川家の抱鍛冶で、長運斎綱俊の門人。その後固山宗次の門下に入る。
号は青龍子、その後青龍軒。
師匠の長運斎綱俊は息子の二代綱俊を盛俊に預けて修行させていたとのことで、鍛刀技術のみならず人としても信頼していたようだ。
それからしばらく期間があいて、隣町で刀剣市が開催されるのを知った。
たまたま仕事が休みの日が開催初日だった。
行っても多分買えないしなぁと直前まで迷っていたが、どうせ家にいてもダラダラ過ごしてしまうからと、思い切って出かけることにした。
刀剣市というもの自体、覗くのは初めてだったが、色んな刀を見比べるのも楽しいかな?と思った。
いざ会場入りして、周防の刀があれば見たいという話をしたところ、スタッフの方がざーっと店内をチェックして「岩国の盛俊があります」とのこと。
まさか周防の刀、それも最近気になっていた盛俊があるとは思っていなかったので驚いた。
刀を扱ったことがあるかを最初に確認され、家にありますと答えると、盛俊の前に案内されて「さぁ!どうぞお手に取って見てあげて!」と言われた。
いつも出会いというのは突然やってくるものだ。
第一印象は「覇気がある」。
江戸末期の刀は豪壮であまり反っていないイメージがあったのだが、その盛俊はえらく反っているように見えた。
聞けば反り2.9cm、まぁまぁ反っているほうだろう。
身幅あり重ねも厚く、頑丈そうな刀だった。
その時代の代表的な刀の姿とは異なっているらしく、何かの写しか?と思えども当てはまるものがないらしい。
弘化の作も似た姿をしているので、もしかしたら岩国近辺に独自の剣術があり、その需要に応えた姿かもしれないとのことだった。
そのあたりを調べても面白いかもしれない。
中心は私好みの長めで、中心尻には幕末にあった控え目釘穴があいていた。
中心には、二字銘「盛俊」と「天保甲辰春三月」と切ってあった。
刀身の地鉄は精美で、刃文は「涛乱刃」とのことで、所々飛び焼きのような丸い模様が両面に複数ある。
家にある刀が全て直刃なので、とても躍動感に溢れて見えた。
刃文の抑揚は見ていて心地よく、丸い模様が、まるで今にも草から飛び立とうと伏せている蛍のようで、とても可愛らしく感じた。
仕事柄、アンチコリジョンライトを点滅させた離陸前のヘリコプターが並んでいるようにも見えた。
自分にとって気に入らない点が皆無の刀だった。
もう目が釘付けになるとともに、その刀の前から離れられなくなった。
常連さんもその刀の前に来て、じっくり観察していた。
スタッフも常連さんも、この人の作でいまいちなのは見たことがない、と言っていたので、有名刀工でなくても技量の高い人なのだろう。
地元にそんなすごい人がいたことを嬉しく思った。
自分にとってはかなりの金額だったが、どうしても我が家にお迎えしたいと考えた。
盛俊の刀はウェブ上でもいくつか見かけるが、どれも売却済の情報で買えるものがないし、稀にあったとしても、もっと高額だった。
色々見た記憶と比べても、今回出会った刀が一番好みだった。
おそらく今日逃したら二度と会えない気がしたので、とりあえず購入の意思表示をした。
後日、店舗にお迎えに行った。
改めて刀を観ると、本当に覇気のある豪壮な刀で、見ていると自然と背筋が伸びる。
たまたま刀鍛冶の方が訪ねていらして、刀を見て「この人は人格者だったそうだよ」とおっしゃった。
盛俊さんがどんな人だったのか、益々興味が湧いた。
作者が人格者であったとのことで、自分もそれに恥じない人間で在らなければと感じた。
岩国の博物館には、盛俊さんが作刀のために工夫したことなどを記した書物があるらしい。
次に帰省した際は、博物館にお邪魔して盛俊さんのことを聞いてみたいと思っている。
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