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スターバックスは、こうやって「感情価値」を提供する。柳井弘幸氏に訊く

こんにちは、世界へボカンの徳田祐希と申します。弊社は、英語圏の越境ECに特化したWebマーケティングを得意とする会社です。
 
今回はボシュロム・スターバックス・P&Gなど名だたる外資系企業に28年間勤務、スターバックスではマーケティング事業部長もされていた柳井弘幸氏に「ウィズコロナ時代のグローバルな戦い方」について伺いたいと思います。

数字が出ないと、上司がいなくなる

徳田 まず、柳井さんの現在のお仕事について伺えますでしょうか。
 
柳井 3年前に会社を起こしまして、今年で4期目です。会社員時代は2年間複業して3年目に独立、売上は毎年2億5,000万~3億円ほどです。

現在の仕事は、講座ビジネスですね。集客やセールス、商品作りを教える講座、会社員の複業を進める小さなビジネス塾、それから「40歳からの大人の復業チャンネル」というYouTubeチャンネルも運営しています。
 
徳田 ありがとうございます。外資系企業の特徴、特有のものってどういう部分でしょうか?
 
柳井 そうですね、日本企業を知らずに言うと怒られるかもしれせんが、結果重視ですね。数字が出ないと、有無を言わさず上司がいなくなることがありました。私を採用してくれたマーケティング部長に、「今日でいなくなるからよろしく」みたいに言われたり。
 
徳田 外資系企業の日本法人でも、コントラクト(契約)自体は海外のコントラクトなんですね。
 
柳井 会社にもよりますけど、例えば社長やマーケティング部長、取締役レベルは本社から来ます。その人たちが変わると、ソリが合わなくなってすぐクビになる、みたいなことはありましたね。

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ファクトがないと、納得してもらえない

徳田 柳井さん自身は、日本向けローカライズのマーケティングをやられてたんですね? 
 
柳井 そうですね。アメリカなどで成功した商品や、新しい商品のコンセプトを日本にどうやってアダプテーション(適応)させるか、という業務が中心でした。

徳田 マーケティングを行なう上で、グローバルとローカルの戦略はどのように使い分けていくのがベストなのでしょうか? 
 
柳井 グローバルのリソースを使うためには、やはり「データで示す」ことですね。日本向けなら日本市場がどうなっているか、消費者にどういう志向があるか、ライフスタイルはどう変化しているか。

数字で伝えきれないところは、信頼を勝ち取る。ある程度結果出して信頼を勝ち取り、だんだんと発言権が増していく部分はあります。ただ、基本はファクトベース。データをしっかり見せないと、納得させられないですね。

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徳田 ということは、リサーチはかなり力を入れてやっておられると。
 
柳井 そうですね。消費者リサーチはしっかりやります。業界の矢野経済さんとか富士経済さんを見たら、そういうデータはやっぱり基本使っていますね。二次データも使いますし、自分たちで消費者調査して、毎年同じ調査を繰り返して定点観測したり。
 
徳田 グローバルマーケティングに13年携わらせていただいてますが、日本企業の海外進出にありがちなのが「英語圏」で一括りにしてしまうこと、楽観視してファクトをおろそかにしてしまうこと。アメリカだけでも所得の高い方と低い方いますし、州によっても違います。

柳井 すごくわかります。なんのために調査をやるかっていうと、仮説検証なんですよね。仮説をちゃんと設定した上でやらないと、アクションに結びつかない。
 
もちろん「Usage and Attitude調査」(使用実態調査)みたいに市場全体の動向とか、カテゴリの商品の使い方、使用頻度、使ってるブランド、認知経路とか、そういう基本的な調査は別です。けど、本当に答えを求めたい調査だったら仮説がないと何もならないですよね。

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スターバックスを構成する3つの要素

柳井 スターバックスは、3つの要素でブランドが構成されているという見方ができます。
 
1つ目はお店。空間であったりデザイン。2つ目は商品、コーヒーやフラペチーノなど。3つ目は人、サービスするバリスタですね。この3つの要素で、ブランドが作られているという見方ができます。

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お店の空間に関しては狭さなど日本特有の事情があり、アメリカと同じようにはいかない部分はあります。が、基本的にお店にはブランドリソースを最大限に使っています。
 
チェーン店ですが、多種多様のテンプレート・デザインフォーマットがあるんです。それらを組み合わせ、「一店舗たりとも同じようにしない」を基本にしています。お客さんからみたら同じように感じる部分があるかもしれませんが、デザインリソースはかなりあるんですね。
 
徳田 私も京都にコンサルしに行った時に感じましたが、京都のスターバックスは雰囲気が違ってすごく良かったですね。

柳井 店舗のデザインも、膨大なパターンがあります。アダプトする時は、現地の文化をリスペクトし、大胆に取り入れることもあります。京都のお店だったら、日本文化をかなり取り入れているでしょうね。
 
杓子定規にグローバルにはしないんです。例えば某フードチェーン店さんとか、割と画一的な店舗デザインに見えてしまう。それが良さでもありますが、カフェの場合だとお客様にフィットしないんですね。

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徳田 空間自体もサービスの一つですもんね。
 
柳井 そうです。スターバックスが提供するのは、カフェ業界におけるディズニーランドさんみたいなもの。体験価値なんですね。お店の空間と商品、バリスタのサービス、どれか一つではなく総合的にお客さんに感情的な価値を得ていただく。
 
(スターバックスに行って)1日、少し気分良くなったという感覚をどう感じてもらうか。それが全てなんですよね。

言葉は、ローカルに任せるしかない

徳田 ローカライズは、商品の味やコピーライティングについてもそうだったのでしょうか。
 
柳井 そうですね、スターバックスの場合、例えばフラペチーノやラテですね。アメリカのやつって、すごく甘いんですよ(笑)。甘すぎて、日本人はそのままでは飲めない。
 
そういうものはローカルで提案して、日本の味や文化、思考をリスペクトし、認めてもらう必要があります。フラペチーノなんて7、8割は日本のオリジナルなんですよ。
 
徳田 そうなんですね。
 
柳井 コピーについてもそう。言葉って、文化そのものじゃないですか。英語と日本語で全く直訳で一緒のものってほぼないですし。コピーって「感情をどう揺さぶるか」「琴線にどう触れるか」が全てだと思うので、外国人では絶対できないんです。

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徳田 そこのローカライズの部分に関しては日本人が担当するなど、うまく住み分けてるんですね。グローバルの良さは活かしつつ。
 
柳井 そうですね。ブランドのメッセージとか提供する価値、ブランドの約束は1ミリも変えないんですけど、伝える言葉の使い方はもうローカルに任せるしかないです。

アカウンタビリティ(説明責任)を果たす

徳田 僕らもアメリカやヨーロッパ、アジアなどいろいろな国に対してグローバルの戦略を立てる時、まず大きな戦略は変えないんですね。
 
「どういった価値を提供するか」は変わらないですが、ローカライズする部分はコピーもそうですし、ライティングも変えます。国によって売れるものも違うので、データに基づいてプロモーションする商品を変えたり、社内のネイティブスタッフが訴求内容のチェックしています。その辺の小回りが利かないと、厳しいですね。

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柳井 そうですね。私はどちらかと言うと本国からのアメリカ人に使われる側だったので、上が理解して任せてくれないとやりづらいし、結果も出づらいと思います。 
 
使われる側としては、どう本社の信頼を得ていくか。本社の理解する姿勢は大事ですが、われわれもアカウンタビリティ(説明責任)を果たすこと。データで示す、約束した結果を出す、そうすればだんだん聞いてくれるようになります。
 
徳田 しかし、グローバルの目標はかなり高そうですね。
 
柳井 そうですね。なんで? って思うときがありました(苦笑)。株価の問題があって、スターバックスの場合四半期で既存店の売上が下がるとすぐ株価に直結するんです。なかなか厳しいんですよね。
 
徳田 今はコロナもあってお店に足を運ぶ人も少ないから、大変な時期だと思います。グローバルに展開している会社も撤退してしまったり。方針を変えて、いろいろやってかなきゃいけないなと思います。
 
柳井 そうですね。今、店舗ビジネスは難しいと思います。
 
徳田 コカ・コーラは「Coke ON」(コークオン)アプリで、自宅で1,000歩動いたら計100万名にドリンクチケットを配布したり。各国グローバル企業、国内企業も含めてUberEatsを取り入れたりEC始めたり、消費を止めないような工夫をいろいろな企業が行なっていますね。
 
柳井 日本企業も頑張んなきゃですね。
 
徳田 顧客を観察していると、今は可処分時間がほとんどインターネットに使われています。その時に、企業に何ができるか。観察して、考えて、行動することが必須だなと感じますね。
  
柳井 感じますね。やっぱり「オンラインで何とかビジネスをしたい」っていう需要は本当に大きくなっています。

<後編に続く>


柳井 弘幸 氏(やなぎい・ひろゆき)
元スターバックス コーヒー ジャパン株式会社
マーケティング部 部長 
スタバ、P&Gなど27年のマーケティング部長の経験で、副業、起業コンサルタントとして起業1年目から2億5千万円の売上達成。会社員の副業、起業、集客ノウハウを解説する大人の副業大学を運営する。

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世界へボカン株式会社は、海外専門のWEBマーケティング会社として多くのBtoBマーケティングプロジェクトに取り組む事で、海外販路拡大時のほとんどの課題に対し、打ち手を持っています。


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