一枚の油絵

島木健作の『一枚の油絵』(の抜粋)を読んだ。これを読むのは3回目くらいで、読むたびに感銘を受けて全文を読みたくなり、去年ついにこれが収録されている全集を買ったが、未だ全文を読めていなかった。さすがに読むべきだと思い、読むことにした。今日はこれを読んでから寝る。


あらすじ

主人公は小学生の頃、作文と絵を得意とし、(おそらく)学業も優秀で、学級長を務めていた。しかし、転入生の櫻田もいは、作文においても、絵においても「私」が脱帽するほどの才能を発揮し、他の学科も人並み以上。主人公は敵愾心と賞賛・尊敬の念とを同時に抱き、劣等感に苦しむ。15年後、主人公は上京し、高い志を抱いて高みを目指して苦闘する。しかし次第に疲れ、傷つき、日々を無為に過ごしていた。そんなときに、偶然目にした新聞に載っていた展覧会の入選者の中に、櫻田もいの名前を発見する。主人公は小学生の頃の思い出が蘇り、展覧会へ足を運ぶ。そこで目にした櫻田の一枚の油絵を見て、「優れた芸術作品だけが与えてくれる喜び」を感じ、絵の中に「画家の生活への愛情」「芸術家の生活に立ち向かう姿」を見出す。さらに櫻田の様々な境遇、ひたむきに絵に取り組み才能を伸ばしてきた十五年間に思いを馳せ、啓示のようなものを得る。


感想

なぜだかわからないが、私はこれを読むと泣きそうになる。主人公の苦しみや葛藤、櫻田という一個の才能に対する、芸術家に対する真摯な敬意、そして櫻田の厳しい境遇の中でも生活への愛情を持ち続け、ひたむきに絵を描き続けた姿。この2人が同時に描かれているからこその感動がある。櫻田に対する主人公の眼差しに、切実なものを感じ取らずにいられない。主人公の目を通して描かれる櫻田でなければ、ここまでの感銘はないだろう。そしてこの2人の人物の生き方を描くことで、芸術に真摯に向き合う人間の生き方の切実な美しさを見事に描いた作者の表現力に、賞賛の気持ちを感じずにいられない。

そしてまた、どうしようもなく描きたい気持ちが湧き上がってくる。仕事に追われ、資格の勉強も本格化してきた時期だが、それでも描かねばならない、と思う。やはり人間は習慣の生き物で、感受性は使わないとどんどん目が曇ってゆくようだ。最近絵垢をフォローしてくれた人から、「絵の実物が見たいです」と言われた。暫く悩んだあと、展覧会に出すのでよかったら見に来てください、と背水の陣を敷くつもりで返答した。今年は見送ろうかという気持ちになっていた矢先だった。あと3週間、わざわざ私の絵を目当てに来てくれるかもしれない人の気持ちに応えるために、相応の絵を描きたい。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?