「今更聞こう、気候変動」 Part2: 温室効果ガスはどこから排出されているのか?ネットゼロへのシナリオは?
前回、温室効果ガス排出のバジェットは残り少なく、2050年までにCO2排出をネットゼロに、その他のガスを2065年までにネットゼロにする必要がある、という話をしました。そして重要なスタート地点の数字は50Gt (50Bt)。これが現在、世界で毎年排出している温室効果ガスの総量です。
年間の排出量約50Gtをネットゼロにするには、具体的にどこでどれくらい排出されているのか、を把握した方が良いですよね。小分けにしないとソリューションが出てきません。そこで、まずは国・地域別、その後産業セクター別にみてみたいと思います。
温室効果ガス排出量上位の国・地域
2019年時点でのTop 10は、中国、アメリカ、インド、EU、インドネシア、ロシア、ブラジル、日本、イラン、カナダになります。この10国・地域で全体の約7割を占めるというパレートの状況です。日本は8位で1Gt級、世界の総年間排出量の2%強を占めます。
中国やインドは2000年代に入って経済成長に伴い急増しており、他にじわじわ上がってきているところもありますが、多くは停滞、微減というトレンドです。
一方、これまでの累計で見ると、いわゆる先進国が軒並みトップとなります。下のデータはCO2だけですが、順位はGHG全体でも同様でしょう。日本は歴代6位です。
経済が成長し、より多くの人の生活が改善することは非常に良いことです。先進国は自国の排出量削減に早期に取り組み、且つ、これまでの経緯を踏まえ、発展途上の成長を阻まず、しかし排出量を抑えながら進められるように支援していく必要があるかと思います。
温室効果ガス排出量のセクター内訳
ではセクターごとに見てみましょう。セクターの切り分け方には色々やり方があり、それに応じて割合が多少異なりますが、私が一番わかりやすいと思う切り分けはこちら。
我々の生活に関わる様々な材料・物を作ることがトップで31%、その次発電が27%です。続いて食べ物を生産する農業・畜産が来て、交通、冷暖と続きます。こうしてみると、我々の生活全てに関わっていることがわかるかと思います。
EVなどのモビリティが話題になることが多かったり、飛行機のカーボンフットプリントが大きいという話を聞くことも多いので、交通がもっと多いと思った方もいらっしゃるかもしれません。国土が広く車社会のアメリカではこの部分の割合はより大きいです。後述しますが、もちろんEV化は重要です。が、それだけでネットゼロには到達できないのは明らかです。
また自然のイメージが強い農業・畜産の排出量の多さは意外かもしれません。約7Gtです。CO2以外の主な温室効果ガスである、亜酸化窒素(N2O)、メタン(CH4)の排出の殆どがこのセクターです。この分類には森林・土地利用も含みますので、農地開拓等による森林伐採の影響もカウントされます。
あれ?もっとエネルギーが多いと思った、という方はいらっしゃいますか?製造プロセス内での排出もセメントなどでは得にありますが、大半は要する熱や電気ですし、農業もトラクターや畜産施設などにエネルギー使いますし、交通も殆どは燃料です。ですのでそういう切り分けで見ると、エネルギーは70%強を占めます。
それを表したのが、こちらの図。かなりごちゃっとしてますが、一応視覚化のためにあげておきます。
なので、やはりエネルギーの影響は非常に大きいと言えます。このエネルギーについてもう少し深く見てみましょう。
下図は米国でのエネルギーの入出、いわば需要と供給を示しています。左側がエネルギーのソースで、それが何に使われているかというのが右側になります。
この比率は各国かなり異なりますが、何がどこに、ということは共通しています。(各国のを知りたい方はこちらを参照して下さい)
まず一番下の濃い緑が石油です。この使い道は2つ。車やトラック、飛行機の燃料として、そしてもう一つはインダストリアルでプラスチックなどの製造に使われます。
そして、その他のエネルギーの殆どは発電に使われます。ソーラーや風力の値段は格段に下がり使用は伸びていますが、まだまだ割合としては小さいです。
石炭の使用はアメリカではかなり少なくなりましたが、それに取って代わったのが、天然ガスです。「天然」ガスというとクリーンに聞こえるかもしれませんが、石炭・石油より排出量は少ないものの、同じく化石燃料であり、主な原料はメタンです。この天然ガスは発電以外に直接ガスとして家や商業ビルの暖房、湯沸かしやキッチンに、そして産業には鉄鋼など製造に高温を必要とするプロセスに熱として提供されています。
(ちなみに一番右端にある、Energy ServicesとRejected Energyですが、どちらもプロセスに使われるエネルギーなのですが、後者は廃棄されて外に出るものです。例えば車のガソリンのうち、車輪を動かすのに使われるエネルギーは前者、熱をトランスファーしてラジエーターから放出されるものは後者になります。かなり無駄があるように見えますよね。)
ネットゼロへのシナリオ
これをみると、やらなければいけないことが、より明確になってきます。この段階では詳細を敢えて省き、ざっくりとフレームワークを提示します。
まずはあらゆるシステム・デバイスを化石燃料を必要としないものに変えることです。言い換えれば電化です。車も、キッチンも、ヒーターも次に買うときは電気で動かせるものにする必要があります。モノ自体が石油やガスでしか動かなければ、供給を止めることができません。
そしてその電力の供給を化石燃料から再エネ・原子力等のクリーンエネルギーにシフトすることです。
これでかなりの化石燃料線が消え、排出量が下げられます。
3.そして飛行機や長距離トラック、船、重厚長大産業プロセスなど、電化が難しいものには、低炭素あるいはネットゼロの燃料を開発・適用していくこと。また、プラスチックなどの石油代替も必要でしょう。
4. 更に、森林の伐採を防ぎ、我々の食生活を変え、食べ物の生産や廃棄処理を変えていく必要があります。
詳細には追って触れていきますが、まずは大体の感覚を掴んで頂けたでしょうか?
前回「ネットゼロ」には二つのレバーがあるという話をしました。バスタブの例です。特にこの3と4は新規排出をゼロにするのが難しい領域です。ですので新規排出量を50Gtから10Gtに削減し、残りの10Gtは、大気中に溜まったGHGを除去することでネットゼロに達するというのが、現在の2050年目標です。
Covid-19でよく認識できたのは、如何に世界が繋がっているかということです。どの国から排出されようとも影響は全世界に及びます。そして、その国での排出が必ずしもその国民向けでないことも認識する必要があります。例えば世界各国で使う材料や製品の多くは中国で生産されており、それは中国の排出量として出ますし、あらゆる食品などに含まれるパーム油の生産の多くはインドネシアで、それにより排出量上位に上がっているなどです。
よって、自国の排出を削減することは勿論ですが、需要・消費という観点でも考える必要があります。これは世界全体で取り組む必要がある問題なのです。
ここまでは問題の理解を深めてきましたが、次回は、GHG除去の話も含めたソリューション側の話をしたいと思います。
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