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西の魔女との毎日

「西の魔女」が不自由な身体から脱出して、タマシイがわたしのまわりをふわふわしているのは知っていた。
「知っていた」というのも変だが、ペンやメモ帳など「いつも使い慣れているものがなくなってしったり、ポトリと落ちてしまうから。ああ、いたずらしてんだな」と思っていた。
「わたし、どこにも行ってないよ、ここにいるよ」
それが西の魔女のメッセージを受け止めていたし、怖いとか悲しいとかもなかった。そして、後悔もなかった。
西の魔女は、今はわたしの近くにいてくれる、そう思うのは、ちょっとした安心感でもあったけれど、きっと誰も信じてくれないので、兄にも誰にも教えてあげなかった。

西の魔女の姉妹がいうには「魔女は、ここ数年は性格が変わったように楽しく生きていた」そうだ。
「悪い人じゃなかったけれど、ぴしっとしてたよね。でも。だんだんそうじゃなくなってきた。ここ2年くらいはすごく楽しそうだったよね」。
家の近くに「デイサービス」なるものができて、自費利用でそこに通っていた。
そこはギャルメイクの女の子や、髪をポニーテールにした男の子がスタッフで、運動をしたり、みんなでドライブに行ったり、友達を作ったりしてた。
「ぴしゃっとしていなくて心地よくって、いい具合のバラけてる世界」を西の魔女が愛していたんだなと思った。

西の魔女がいなくなってしばらくして、わたしは「ふっと思いついて」 ムスメとふたりで夜に山道に蛍を見に行った。
何度か道に迷った。真っ暗な狭い山道をなんどかUターンした。そしてようやく蛍のいる公園。真っ暗な川の中洲の木々にたどり着いた。
木々には蛍が点滅してた。天然のクリスマスツリー。
ああ、きれいだなあ、そう言ったら、遠くで「ほんと、きれいよね」と聞こえたような気がした。

それからわたしは、毎日車をドライブしていろんなところに行った。
知らないお店で高いシュークリームを買ってみたり。
魔女とよく通ったカフェに「いつものメニュー」を食べに行ったり。
山沿いの雑貨ショップで無駄買いしてみたり。
家にいるのがもったいないみたいに、ほんとにいろんなところにドライブをした。
おいしいものを食べること、知らないところをドライブしてみること。
西の魔女が大好きだったことを「ねえ、もっとやろうよ」と袖をひっぱられるような気がして、わたしはそんな毎日を送った。

山奥のお寺まで紫陽花も見にいった。
以前に西の魔女と来たことがあるけれど、足の悪い魔女は傾斜を歩くことができず、そのときは駐車場から全景を眺めたのみだった。

不自由な身体から自由になった西の魔女は、山奥も蛍の里もどんどん自由に飛び回る。
そして喜ぶ。

わたしは改めて、身体以上に自由だった、西の魔女のタマシイを今も感じている次第だ。



※ 6月8日。それまで元気だったハハが急逝しました。わたしはとくに後悔することもなく、今もまだハハの魂と遊んでいる気分です。


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