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【※ネタバレ含】フェティシズムをくすぐるラブロマンスー映画「ボクたちはみんな大人になれなかった」

 映画「ボクたちはみんな大人になれなかった」。NETFLIXが手掛けた本作は、完全新作としてNETFLIX・劇場で上映されている。新聞で紹介されているのを見て、市内のミニシアターで上映されていることを知り、時間があったので見に行ってきた。燃え殻(←著者のペンネームらしい)の小説が原作のラブロマンスで、森山未來、伊藤沙莉主演である。

 映画の感想を一言でまとめると、「一生に出会う映画うちの、ベスト10にきっとはいるだろう!」。なぜなら本作の描く世界観は、私が22歳を迎えた今見たかったものであり、私のフェティシズムにがっちり、ぴったり合致しているものだったからだ。この映画は46歳の主人公の終わらない青春を描いている。私は気づけば、そこに描かれる人生にくぎ付けになっていた。

 映画の舞台は東京。新型コロナウイルスが世界を襲った2020年に始まる。主人公はテレビの美術製作会社に勤めている。シーンはまもなく時間を遡りはじめ、2016年、1999年、1997年…と1995年~2020年の25年間を映し出していく。

 この映画の面白いところは、最初のシーンで深夜の繁華街に登場した「酔っぱらいのおじさん」の過去を遡るにつれ、「おじさん」の人生の深み・重みがどんなものなのか詳らかにさていくところだ。感覚としては、「道端で出会った見知らぬおじさんの昔話を聞くうちに、彼の人柄や思い出に共感し、いつしか彼に興味惹かれるようになっていく」ような感覚である。

 主人公の人生を遡るにつれて、忘れられない青春の「重み」を私たちは追体験する。そうすることで「彼が抱えているもの」に対する謎が解けていく。その追体験はリアルで、物語の最後で私たちが彼の「現在」に戻ってくるとき、私たちは、彼の一挙手一投足に共感せざるを得ない。

 私は22歳であるが、仕事と恋愛の両立、忘れられない初恋の感覚、こういったものの感覚や難しさを、大人たちから語られることがある。20代以降の人生を経験したことがない私は、その人生の深みを知る由もない。これは当然のことである。

 しかし私はこの映画を通してそれらを少し体験し、共感できた気がする。もしこの物語のシーンが、時系列順に並べられていたならば、大人たちの話に取り残されるのと同様に、私は途中から主人公に共感できなくなっただろう。しかし、逆接の方向でボトムアップ的に物語が語られることにより、「主人公がなぜ今、そんな心情を抱いているのか」が丁寧に説明されているのだ。初恋や人生の転機という青春がはじまっておわり、また次の転機が訪れて、、という繰り返しを、自分も経験してゆくのだろうか、そんなことを考えながら見ていた。

 またこの作品に詰め込まれた要素は、私のフェティシズムをくすぐるものだった。90年代という時代や、小沢健二、ベンチャーとして起業し発展してゆく美術製作会社、煙草、思い出の古いラブホテル、ゲイバーのママ…そういった舞台設定は、都会的で人生の悲哀が詰まっており、エロチックだった。

 ネットやSNSが広がりを見せる前、昭和の香りを残した90年代という時代は、99年生まれの私にとってあこがれの時代である。令和の時代を迎えてから、平成の時代がノスタルジックに描かれるようになってきた。そういった変化から、私もまだ若いながらに時代の移り変わっていくのを感じる。この作品はそういった意味で、私自身が青春を送る「この時代」を代表する作品でもあるだろう。

 この作品はきっと、私の20代・30代に影響を与えていくのだろう。25年後に見たときには、また見え方が変わっているのだろうか。



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