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詩『妄信』


小窓のすきまから吹く息が

ゆらしたカーテンの足は

壁に立てかけたギターを弾いている

強い朝日に無力な首を振らない扇風機

町のいくつかのアラームがいっせいに作動して

そのうちひとつが

あの三階建ての家から聞こえる

しっぽの長い貨物列車は低い音の余韻を残して

そうして蝉のまだ起きないこの時間に

今日の産声があがる

今日の名前をつけてもらいに

今日も君に

会いにいこうか


 
料理を運んでくるチャイナドレスの似合う女

伝票をあの名前のわからぬ透明の筒にいれて

そのまま手を伸ばし

ぼくの手を握って言う
 


蝉の声が孤独から逃れる足音

蛍の光が孤独を急かす黄色信号であるなら

わたしは蛍のわびしさをえらぶ

だからおねがい

蝉には決してならないで
 
ギターの弦を一本ずつ切って

強すぎる日差しに嫌気がさして

小窓のカーテンを閉める

ベッドに倒れ込んだら

下からカーテンのなかを

少しだけ覗けた

先の景色がもっと見たくなって

めくろうとしたけど

女のスカートをめくる時のような

変な気持ちになったからやめた

わずかに覗けたのは

真っ青なパンティだった!

真っ白で大きな入道雲を期待していたぼくは

パンティに勝手に

巨大入道雲をひとつ描いた

隣にもうふたつ

細い巻雲をつけたそうとしたら

窓の外から車のクラクションが鳴った

なぜか蝉の鳴き声が乏しい

ある猛暑日のこと

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