もののけ姫における思想の潮流

「人間は物語の形で物事を考える。ファシズムの物語と共産主義の物語と自由主義の物語だ。ファシズムの物語は歴史を国家間の闘争として歴史を説明し、一つの集団が世界を支配することを思い描いた。共産主義の物語は階級闘争で歴史を説明し、自由よりも平等を求め、中央集権化された制度によりそれをなそうとした。自由主義の物語は、自由と圧政の闘争として歴史を説明し、平等を犠牲にしても中央の統制を最小限に留めようとした。」(「21lessons」)

 では、この3つの思想はもののけ姫において何にあたるのかについて考えていこう。
 まず、一つ目のファシズムであるが、もののけ姫の時代設定は室町時代であり、まだファシズムが主流となる時代ではない。しかしながら戦国時代の始まりを垣間見る部分はあった。たたら場を襲った野武士たちである。この野武士たちの背後には浅野公方がおり、国家が資源を求めて、弱小のたたら場を奪いに来るという構図である。これは、一つの集団が隣国を滅ぼし大きな力を得てまとめて統治していこうとするファシズムの走りである。
 次の共産主義はまさにこの物語の舞台であるたたら場である。₁ たたら場の人々はみな社会から追い出された弱者たちである。戦争で奴隷となり売り飛ばされた女たち、ハンセン病で居場所を失った人たち、またエボシも明国に売り飛ばされた過去のある人物である。エボシは明国において、遊女として買われたのち、賊の親玉の妻として生きていたが、あるとき夫を殺し石火矢を奪って日本にわたってきた。そんなエボシの営む村は自由より平等を求め中央集権化された制度により成り立っている共産主義社会であるといえる。
 3つ目の自由主義の物語はまだこの時代では未発達である。その中でも自由主義の鱗片を垣間見るシーンはある。それは、アシタカが都でコメを買おうとしたとき、蝦夷の村から持ってきた砂金の大粒を出したところ通貨を要求されるというシーンだ。単にコメを買うだけだとそれが市場経済だとわかりにくいが、アシタカが砂金を出したことから、蝦夷の村では物々交換を中心とした小さなコミュニティーによる縄文時代の経済であることが推測され対比となっている。

現代社会の複雑な問題は先史時代に形成された本能と有史の時代に獲得した技術(特に、農耕、産業革命、情報革命)によって人の行動や価値観がどのように推移してきたために起こったのかを考えることで理解することができる。しかしながら、いきなりそのような思考をしてみるのは難易度が高いので、ぜひもののけ姫でやってみてほしい。室町の時代の問題は人間のどのような本能に、どのような技術を獲得した結果できた価値観の対立になっているのか。もののけ姫はそのようないいトレーニングの教材となりうる。

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1)もののけ姫の作者である宮崎駿はやや共産主義に寄っているので往々にして美化して書きがちである。

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