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『中国が世界を攪乱する』全文公開:第1章の3

中国が世界を攪乱する』が東洋経済新報社から刊行されます。

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これは、第1章の3全文公開です

3 コロナウイルスの影響──OECDによる予測

2020年に世界GDPが0・5%落ち込むが、21年に長期的趨勢を取り戻す
 前述した世界銀行の研究は、過去のパンデミックに関するものだ。では、今回の新型コロナウイルスは、経済活動にどの程度の影響を及ぼすか?
 その概要は本章の1で述べた。詳細は、OECDが2020年3月3日に発表したつぎのレポート "Coronavirus: The world economy at risk," March 2, 2020にある。
 ここには、(1)コロナウイルスが抑え込まれるという「最良シナリオ」と、(2)感染が広がるという「ドミノシナリオ」が計算されている。 (1)の結果は、図表1‐3に示されている。

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 全世界の実質GDP成長率の2020年の見通しは、2019年11月に発表した見通しである2・9%から0・5%ポイント下方修正し、2・4%になる。2021年には、緩やかに上昇して3・3%になる。
 中国の経済成長率は、2019年は6・1%だったが、2020年には、前回予測から0・8ポイント低い4・9%になる。
 日本の2020年の経済成長率は0・4ポイント、韓国は0・3ポイント低下する。
 つまり、「2020年にはかなりの影響があるが、21年には長期的趨勢を取り戻す」ということだ。長期的に見た場合の中国の成長には影響しない。
 (1)のシミュレーションの仮定は、「中国で感染が第1四半期にピークとなり、それ以降は徐々に収まる」というものだ。
 これは仮定であって、こうなるという予測ではない。

ドミノシナリオ
 (2)の「ドミノシナリオ」では、新型コロナウイルスの影響が長期化し、感染がアジア太平洋地域、欧州、北米にも広がる場合を想定した。
 この場合には、2020年の世界経済の成長率は2019年11月に発表した2020年の見通しから1・5%ポイント低下して、1・5%程度になる。
 日本やユーロ圏を含む一部の国・地域では不況に転じる恐れがある。
 ただし、この場合にも、2021年には収まる。
 現在のところ、医療体制は後れをとっている。検査も、特効薬も、ワクチンもない。
 しかし、いずれ開発されると期待してよいだろう。

スペイン風邪の場合、死亡者が7000万人でGDPはマイナス3%
 過去の大流行を見ても、GDPに対する影響は意外に小さい。
 SARSの場合、中国のGDPに対する影響はマイナス1%程度だったとされる。
 ただし、2003年当時には、まだアップルの世界分業も始まっていなかった。世界的な水平分業の展開はなかった。したがって、今回の方が遙かに影響が大きいだろう。
 スペイン風邪の場合、終息までに2年間かかったが、これは、ウイルスの存在も知られていなかった時代で、参考にならない。しかも、第一次世界大戦中だった。
 その場合においても、GDPに対する影響は3%程度だ。犠牲はあるが、経済の基本は変わらない。
 2020年が大きく攪乱されることは避けられないだろうが、長期的に考えれば、本書でこれから論じるようなことが重要になる。

事態は予断を許さない
 以上で紹介したOECDの予測は2020年3月初めの時点のものだが、その後、事態は急変した。
 欧米諸国で爆発的な感染拡大が生じたのだ。とりわけ、イタリア、スペインでの状況は深刻で、医療体制の崩壊と言えるような事態に陥った。イタリアの死亡者数は、中国のそれを超えた。
 また、アメリカでも感染が拡大し、感染者数が世界一となった。
 前で、「死亡者が7000万人でGDPはマイナス3%」と述べたが、これは、「経済に対する影響が小さい」という意味ではない。
 今回の場合、人々の行動が制限され、企業や事業者の売上が急減していることから、深刻な問題が生じる可能性は十分にある。
 また、仮に感染が終息したとしても、「国家のあり方」などに関する基本的な問題がわれわれに突きつけられたことは否定できない。
 この問題については、終章で論じることとする。



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