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『中国が世界を攪乱する』はじめに(その1)

中国が世界を攪乱する』が東洋経済新報社から刊行されます。

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これは、はじめに全文公開(その1)です。

はじめに(その1)

 2018年から始まった米中貿易戦争によって、世界経済が大きな影響を受けた。米中間の貿易が減少し、中国経済は大きな痛手を受けた。日本の輸出も減少し、日本企業の利益も落ち込んだ。

 それに加え、2019年12月に中国で新型コロナウイルスによる新型肺炎が発生し、日本をはじめとする世界各国に感染が広がった。これは、とくに中国経済に大きな影響を与えた。本書執筆時点では、この問題がどのようになるのか、まったく見通しがつかない。2020年3月時点では、ヨーロッパとアメリカで感染が拡大し、経済活動に大きな影響を与えている。
 しかし、遅くとも2021年には、世界経済も中国経済も、長期的な趨勢に戻ると期待することができるだろう。
 コロナウイルスは、極めて重大な問題でありうる。たぶん、第二次世界大戦以降最大のショックだろう。そして、それがわれわれに突きつける問題は、本書で論じている問題と重なっている。中国が今後どのような国になっていくかこそが、世界が直面している長期的な問題の本質だ。

 本書はこのような観点から、中国の問題を、長期的な視点から把握することを試みた。経済問題を中心にしているが、技術や国家体制に関しての議論も行っている。
 長期的に見れば、中国が今後も経済発展を続けることは、間違いない。
 中国は、2040年頃に、GDPの規模でアメリカを抜いて世界一の経済大国になるだろう。そして、1人あたりGDPでも、日本の半分くらいの水準に達するだろう。世界経済に対する中国の影響力が拡大するのは、確実だ。

 人類の長い歴史において、中国は世界の最先端にいた。しかし、16世紀頃からこの状態が変わり、とくにアヘン戦争以後は、衰退の極みに達していた。
 ところが、最近の中国の躍進ぶりを見ていると、昔の歴史が復活してきたように見える。これは、超長期的な観点から世界史を見た場合の、「歴史の正常化」なのだろうか?
 基本的な問題は、中国の理念なり国家運営の基本原理が、世界をリードし、世界の標準になるかどうかだ。つまり、未来の世界において、中国が覇権国になれるかどうかだ。これが、本書の基本的な問題意識だ。

 こうした観点から人類の歴史を眺めると、つぎの2つの大きな潮流を指摘できる。
 第1は、古代ローマ共和国に始まり、アメリカに引き継がれてきた流れだ。自由を重視し、他民族に対して寛容な政策をとる。
 もう1つの潮流が、中国の官僚国家だ。中華思想の下で、異民族に対して非寛容な政策をとる。
 われわれは、経済発展や生活の豊かさは、人々が自由な考えを持ち、自由な交易を行う社会においてこそ実現されると考えてきた。経済的には計画経済ではなく市場経済によって、政治体制としては独裁制ではなく民主主義によってこそ、社会が発展すると考えてきた。
 そして、中国が経済成長すれば、やがて西側諸国と同じようなモデルに収束していくと考えていた。しかし、ここ数年の動きを見ていると、そうならないのではないかと考えざるをえなくなってきている。中国の発展は、われわれがこれまで信じてきた理念への基本的な挑戦なのかもしれない。
 歴史の正常化とは、単に中国が大国化するというだけでなく、社会の基本原理に関する対立が復活することなのかもしれない。分権的で自由な社会を作るのか、それとも、集権的で管理された社会を作るのかが、問われているのだ。
 そう考えれば、米中経済戦争の本質は、未来社会の基本原理をめぐる戦いだと捉えることができる。われわれは、いま、歴史の重要な分岐点にいる。





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