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4 日本でのビッグデータ利用

 『データ資本主義』が2019年9月18日に日本経済新聞出版社から刊行されます。これは、その第1章の4です。

4 日本でのビッグデータ利用
◇コンビニエンスストアのポイントカード

日本でのビッグデータの利用状況はどうだろうか?
日本は、ビッグデータの入手の点で、アメリカや中国に比べてかなり遅れている。ただし、利用の実例がなかったわけではない。その例としてあげられるのが、コンビニエンスストアでのポイントカードで集められるデータだ。
これまでも、コンビニエンスストアはPOSシステム(商品につけられたバーコードをレジのスキャナーで読み取る仕組み)のデータで売り上げを把握し、在庫管理や納品管理、そして複数の店舗の販売比較などに用いていた。しかし、このデータでは、商品を誰が買ったかまではつかめなかった。
それに対してポイントカードでは、年齢や住所などを登録するため、個人を特定できる。その人がいつ何を買ったのか、繰り返し買う商品は何か、などが分かるのである。このため、コンビニエンスストアのポイントカードがビッグデータとして使われ、商品の品揃えなどに使われるようになった。
コンビニ・チェーンのローソンは、4000万人が利用する「Ponta(ポンタ)カード」から得られるデータをマーケティングに使っている。ポイントは、従来は顧客の囲い込みを目的とするものだったが、いまでは、顧客の個人情報の収集のための手段になっている。コンビニエンスストアでは売り場面積に強い制約があるので、商品陳列の最適化は重要な課題だ。
また、ソフトバンクは、他社のスマートフォンを利用しているが契約更新が必要そうなユーザーに対して、重点的に広告を出すことで効果を上げてきたという。
さらに、損害保険におけるテレマティックス保険も導入されている。
また、音声認識機能を用いて企業のコールセンターを自動化する試みもなされている。


◇ ビッグデータ利用元年?
『2019年版情報通信白書』の第2章「ビッグデータ利活用元年の到来」は、日本におけるビッグデータ利活用元年に向けた環境整備が進みつつあるとしている。
ただし、そこで述べられているのは、「官民データ活用推進基本法」の制定や「改正個人情報保護法」の全面施行などといった法整備だ。
個人情報保護はたしかに重要な課題だが、第3章の1で述べるように、ビッグデータのプロファイリングで問題になるのは、個人情報保護法ではコントロールできないものである。
白書では、データ流通量の拡大などのデータは示されているが、肝心の「ビッグデータ利活用」がどうなっているのかについての具体例はあまり示されていない。
つぎのようなサービスが紹介されているものの、サービスの概要だけで、実際にどの程度利用されているかは示されていない。

・NTTドコモ「モバイル空間統計」(NTTドコモの携帯電話を保有する個人の位置情報を、事業者や地方自治体などに提供するサービス)
・トヨタ自動車のテレマティクスサービス(車両の位置や速度、走行状況などの情報を交通流改善や地図情報の提供、防災対策などに活用できるサービス)
・ソニー損保のテレマティクス保険
・ドコモ・ヘルスケア「ムーヴバンド3」やオムロン・ヘルスケア「Wellness LINK」(ウェアラブル端末をつけている個人から移動距離、睡眠時間などや身長・体重などのデータを収集、分析するサービス)
・日立製作所の「金融API連携サービス」(ネットバンキングの契約者の口座情報の参照・管理)

◇ 5Gでの日本の立ち後れ
第5世代移動通信規格の「5G」は、現行のサービスと比べて実効速度が100倍だ。スマートフォンなどの性能が向上し、ビッグデータにも新しい可能性を開いていくといわれている。
アメリカや韓国の一部では、2018年末からの商用サービスが始まった。ところが、日本で5G商用サービスが本格化するのは、2020年の東京オリンピックの頃とされている。
遅れだけが問題ではない。5Gの通信インフラ分野で日本は世界に後れをとっている。
この分野で躍進が目覚ましいのが中国企業だ。基地局ベンダーの売上高シェア(2018年)で、中国の大手通信機器メーカー・華為技術(ファーウェイ)は、スウェーデンのエリクソンについで世界第2位になった。全世界市場規模213億ドルのうち、エリクソンが29・0%、ファーウェイが26・0%、ノキアが23・4%のシェアを占めている。ファーウェイは、5G関連の技術で世界をリードする存在になっている。
それに対して、NECと富士通を合わせても世界シェアは2%に満たず、NTTドコモ向けのビジネスでやっと生き延びている状況だ。
ところで、5Gの通信インフラを中国メーカーが握れば、機器を通じて機密情報が漏洩する恐れが生じるとされ、5Gは米中摩擦の焦点の一つになっている。
アメリカ政府は、中国企業を通じてアメリカの軍・政府、企業の情報が中国に漏洩するリスクを懸念して中国メーカーの排除に乗り出した。そして、同調するよう各国に働きかけを強めている。
日本の携帯大手3社は、5Gを現行の4Gネットワークと連携して導入するため、仮に日本政府が中国企業排除の方針を打ち出すとなれば、大きな影響を受ける。場合によってはネットワーク機器の入れ替えが必要となるため、5Gインフラの展開の遅れにつながる恐れがあるといわれる。将来のビッグデータに大きな影響を与える5Gがこのような状態なのだ。
日本が弱いのはソフトの分野であって、ハードでは強いのだと、長らくいわれてきた。しかし、いまやハード面のモノづくりでも、このような状況になっている。



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