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『ブロックチェーン革命[新版]    分散自律型社会の出現』終章(その3)

ブロックチェーン革命[新版] 分散自律型社会の出現』が、日経ビジネス人文庫から刊行されました。

・8月5日(水)から全国の書店で発売されています。

これは、終章全文公開(その3)です。

終章(その3)
2 フラットで、信頼を必要としない社会を実現できる

フラットにならなかったのは、なぜか
 世界がフラットにならなかったのはなぜか? なぜ大組織と小組織や個人の差が解消しないのか? 組織の中の階層構造はなぜ消滅しないのか?
 その理由として、つぎのようなことが考えられる。第1に、大組織は事業を大規模に展開できるので、コストを引き下げられる。また、店舗の場合、大企業であれば、資金力があるから豊富な品ぞろえができる。アマゾンは大量の在庫を抱えることができるので、零細書店よりも明らかに有利だ。
 また、事業の規模が大きくなれば、ネットワーク効果が働く。これは、提供されている製品やサービスは同じであるにもかかわらず、利用するユーザーが増えると、製品やサービスの価値が高まるという効果だ。電話では、明らかにこの効果が働く。この効果は、規模の拡大に伴って比例的に増加するのでなく、規模が一定の水準を超えると、急激に増加する。このため、「ひとり勝ち」(Winner takes all)といわれる現象が発生するのである。
 さらに、最近では、人々の需要を誘導する「リコメンデーション」という操作が行なわれるようになって、大組織の優位性がさらに高まった。ビッグデータとAIの時代になると、こうした傾向が加速する可能性がある。ビッグデータを収集できるのは、アップル、グーグル、フェイスブックなど、世界でもごく一握りの企業だけになる。彼らは、それを駆使して、リコメンデーションを進歩させ、新しい需要を開拓して、さらに優位な立場に立つ。AIとビックデータの時代には、超巨大組織が世界を支配する可能性が強い。

重要な要素が欠けていたから
 右に指摘した要素は重要なものだ。しかし、われわれが約束の地に到達し得ない最も本質的な理由は、これまでのインターネットに何か重要なものが欠けていたことだ。
 それこそが、序章の最初で述べたことである。つまり、インターネットの世界では経済的な価値を簡単に送ることができないのだ。だから、送金コストの点で、大規模事業が圧倒的に有利になる。そして、インターネットの世界では、真正性の証明ができない。このために、大組織だけが信頼を獲得できるのだ。
 しかし、その欠けているものを、われわれはいまブロックチェーンの活用によって手にしようとしている。
 エセリウムのようなプラットフォームが登場しているので、零細企業も個人も、スマートコントラクトをこの上に乗せて、資金調達や事業を展開することができる。今後、エセリウムをプラットフォームとして、さまざまな新しいアイデアが実現されていくだろう。これによって、社会のさまざまな主体が、第三者を介せず、直接に取引を行なうことが可能になるだろう。
 ブロックチェーンによれば、情報と同じように経済的な価値も仲介者なしで送ることができる。その結果、需要者と供給者が直接に結び付くので、組織の大きさによる不公平は発生しない。
 政府や大組織の決めたルールにただひたすら従うしかない世界、組織が、進歩ではなく存続だけを目的にする世界。そのような世界からの脱却が可能となった。
IT革命は、ブロックチェーンによって完成されることになる。

命令系統のないフラットな組織が可能
 階層構造を持った大組織の多くは淘汰され、組織はフラット化するだろう。
 第8章の2で述べた Colony のように、ブロックチェーンを用いたクラウドソーシングが広く使われるようになれば、人々はより柔軟に、高い自由度で働くことができるようになるだろう。
 個人の独創性が否定され、協調性だけが望まれるような組織や、たまたま上司になった人の覚えが悪いために不幸な人生を送る羽目になるような組織しかない世界から脱却できる。才能がある人は、それに応じて可能性を追求できるだろう。そして、自分の都合に合わせた契約を選択できる自由度を獲得できるだろう。
 もちろん、すべての組織でハイラーキー(階層)構造が消滅するわけではない。現在の企業が行なっていることのすべてをスマートコントラクトで代替できるわけではないからだ。しかし、かなりの仕事はルーチンワークである。その実行のために膨大な労力が費やされている。それらがブロックチェーンで代替される。これらは、たいへん重要で、大きな変化だ。
 そして、零細企業でも信頼を確立できる。管理者がいなければ、管理者と平社員の賃金格差が生じることもない。完全にフラットになるかどうかは分からないが、格差は成果に対する寄与に応じて生ずることになるだろう。



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