日本経済最前線

消費税の基本的な仕組みが変わることの大きな影響

 ヨーロッパの付加価値税では、前段階税額控除の仕組みとしてインボイスが使われている。このため、税の転嫁が容易になり、合理的な税となっている。
 ところが、日本の消費税には、これまでインボイスがなかった。その代わりに、免税や簡易課税という特例が存在した。
 今回の消費税税率引き上げに伴い、これが変わり、最終的にはインボイスが導入される。これは、日本の商取引に多大の影響を与えるだろう。

◇インボイス方式:ヨーロッパの付加価値税の仕組み
 EU諸国などで導入されている付加価値税は、流通の各段階で、取引のたびに課税する。これによる税の累積を避けるため、前段階で課税された消費税を控除する。これを「前段階税額控除」という。これは、仕入れに含まれている消費税を控除することなので、「仕入れ税額控除」とも呼ばれる。
 前段階税額控除は、取引事業者間でやりとりされる「インボイス」によってが行われる。これは、取引対象である商品ごとに、取引内容、税率、税額、取引金額などの法定事項を記載した書類だ。
 インボイスに基づかずに前段階税額控除を行うと、税務調査があった場合に否認される。

 「インボイスは金券のようなものだ」と考えると、この仕組みが理解しやすい。仕入れ業者から見ると、課税による仕入れ価格の上昇は、それと同額の金券を得られるために、完全に打ち消される。つまり消費税がかかっていない商品を仕入れるのと同じことになるわけだ。
 そして、自分の段階での付加価値を加えた額に消費税率をかけて算出される消費税額を納付する。これによって、その段階の付加価値に課税されることとなる。

◇帳簿・請求書方式:日本の消費税の仕組み
 これに対して、日本の消費税では、前段階税額控除は、これまで「帳簿および請求書等」で行われていた。
 その計算方法は、大まかにいえば、「仕入に含まれている消費税額を帳簿や請求書等から算出し、これを売上に係る消費税額から控除する」ということだ(実際には、課税売上、課税仕入れなどの区別をする必要があるのだが、その詳細は省略する)。
 このため、課税仕入れの事実を記録した帳簿及び請求書等を保存しなければならないとされている。

◇免税業者、簡易課税業者という特例的制
 以上が本則であるが、日本の消費税では、免税業者、簡易課税業者という特例的制度がある。それに加え、公的医療、住宅家賃などが非課税とされている。
 免税事業者(基準期間の課税売上高が1,000万円以下の事業者)には、納税の義務はない。ただし、仕入税額控除を申告することもできない。
 簡易課税業者(基準期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者)は、売上高に係る消費税額にみなし仕入率を乗じることにより、仕入控除税額が算出できる。簡易課税の場合には、実際に仕入れ先に支払った消費税額よりも控除額の方が大きくなってしまうことがあり得る。これは、「益税」と呼ばれる現象である。
 非課税の場合、前段階の税は控除できないため、課税の累積が発生する。

 日本の請求書等保存方式とヨーロッパのインボイス方式の決定的な違いは、つぎの点だ。
 インボイス方式では、免税事業者はインボイスを発行することができない。他方、日本では、免税事業者も請求書を発行することができる。仕入側も、免税事業者から仕入れた商品に関して仕入税額控除を行える。

◇インボイスが導入されると免税業者が排除される
 2019年10月1日から2023年9月30日までの4年間、仕入税額控除の方式について現行の「請求書等保存方式」に代り「区分記載請求書等保存方式」が実施される。
 2023年10月1日以降は、仕入税額控除の方式として「適格請求書等保存方式」(「インボイス制度」)が実施される。
https://www.mof.go.jp/public_relations/finance/201808/201808c.html

 インボイスを導入すれば、前段階税額控除は正確に行われる。
 ただし、問題もある。
 第1は、中間段階の免税業者が排除されることだ。こうなる理由は、つぎのとおりだ。
 既述のとおり、免税業者はインボイスを発行することができない。仕入側から見ると、免税事業者から仕入れた商品は、仕入税額控除の対象とならない。その結果、仕入れに含まれる消費税は仕入側の負担となり、同じ商品を課税事業者から仕入れた場合よりも利益が減る
 こうして、免税業者から仕入れる人がいなくなるわけだ。これは、「免税業者は、インボイスという金券を発行できないから排除されるのだ」と考えると、分かりやすい。

 簡易課税業者の場合には、このような問題は生じない。インボイスを発行できるからである。
 なお、インボイスに移行した場合、簡易課税業者がそれまで得ていた益税がなくなる可能性がある。しかし、これは、不当な利益がなくなるだけのことだ。

 免税業者が最終小売業者である場合、前段階税額控除を受けられないので、競争上不利になって排除されることがある。
 ただし、中間段階では、インボイスが導入された場合には、税の転嫁が確実にできるようになるわけだから、免税業者になるメリットはない。そこで、課税事業者を選択する可能性が高い。現在では、農家のほとんどが免税事業者であると思われるが、これらが課税業者に移行する可能性が高い。
 最終段階の場合にも、消費者への転嫁が確実にできれば、課税業者となって前段階税額控除受ける方が有利である。

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