あなたは、8月の鯨を持っているか?
「8月の鯨」(The Whales of August)は、1987年のアメリカ映画。
アメリカ東海岸メイン州の海岸にある別荘に、年老いた姉妹が住んでいる。
2人とも夫をなくしている。2人は、フィラデルフィアの裕福な家(多分、銀行家)の生まれ。
彼女たちが話しているのは、上流階級の英語だ。大工のジョシュアが話している英語との対比で、はっきりわかる。
姉のリビー・ストロングは、白内障で目が見えなくなった。妹のサラ・ウェッバーは、看護婦の資格をもっている。
別荘を相続したのはサラ。だから、姉のリビーはここに居候していることになる。
リビーは、金融資産を相続したようだ。したがって、相当の金持ちで、生活費は多分彼女が払っている。
リビーには娘がいるのだが、どういうわけか同居するつもりはない。目が見えなくなったこともあり、頑固で意地っ張りになっている。
妹のサラの夫は、結婚してまもなく第一次大戦で戦死した。サラは、毎年結婚記念日を1人で祝っている。ドレスアップしてワインを開ける。毎朝の掃除、洗濯、そして庭の手入れ。
リビーはベティー・デイヴィス(上の写真の右)。彼女は、キャサリーン・ヘップバーンに匹敵する伝説的大女優だ。若い時に2回、オスカーを獲得している。
サラはリリアン・ギッシュ(上の写真の左)。サイレント時代からの名女優。
撮影当時、リリアン・ギッシュは93歳、ベティ・デイヴィスは79歳だった。
映画は、何の驚きもない2人の1日半を、淡々と描いていく。
わずかにストーリーらしきものといえば、次の2つ。
まず、居間の壁を改修して大きな窓にしたいというサラの提案を、リビーは頑として受け入れない。しかし、映画の最後では、受け入れる。
もう一つは、亡命ロシア貴族だというミスター・マラノフ(ヴィンセント・プライス)の訪問。朝、海岸で釣った魚を、姉妹に贈る。そしてディナーに呼ばれる。本当の魂胆は、この別荘に転がり込んで姉妹と一緒に住もうということだ。それを見抜いたリビーは、ディナーの後で断固として拒否する。マラノフは、ほうほうの体で退散。
マラノフが本当に貴族だったのかどうか、映画では何の説明もない。私はそうだと思っている。理由:ディナーに招待されたので、花を摘んできた。リビーが部屋に現れると立ち上がって、彼女が座るまで座らない。
手を叩きたくなるような洒落た会話があるわけではない。
ベートーベンが聞こえてくるわけでもないし、レオナルドの絵が登場するわけでもない。
しかし、映画を見ていて、あくびが出ることはない。それどころか、この世界に引き入れられて、何度も見たくなるだろう。
この映画を見ると、誰もが「羨ましい」と感じる。
では、何に「羨ましい」と感じるのか?
経済的な心配がないことか?そして、海岸の素晴らしい自然の中に別荘を持っていることか?
こうしたことはもちろんある。
彼女たちの生活は、決して豪勢ではないが、貧しくはない。室内はきちんと整理されていて、立派な食器がきれいに置かれている。ディナーの時にはドレスアップする。
庭の花を大事にする。薔薇を咲かせる(そして、部屋にテレビ受像機という醜悪なものがない)。
リビーの目が不自由になったのは確かに気の毒だが、献身的な妹がついていてくれる。
しかし、これらだけなら、この映画が人に感動を与えることはなかったろう。
我々が羨ましいと感じるのは、2人がある思い出を共有しているからだ。
若く希望に溢れていた頃、8月には岬に鯨が現れた。2人は、友人のティシャとともにそれを見にいった。
だから、いまでも2人で見に行く。
いまは、鯨は現れない(潜水艦が追っ払ってしまった?)。それは2人もよく知っている。人生とは、そのようなものなのである。
それでも2人は岬に行く。
では、あなたが持っている8月の鯨は何か?
Image Credits
ディナー
https://media.baselineresearch.com/images/271381/271381_full.jpg
2人で
http://i.ebayimg.com/00/s/NzcyWDEwMjI=/z/IMUAAOSwTA9X51qB/$_57.JPG?set_id=8800005007
https://i.ytimg.com/vi/veUx5rDFn8w/maxresdefault.jpg
デイビス
https://s-i.huffpost.com/gen/1070348/images/o-BETTE-DAVIS-PHOTO-facebook.jpg
ギッシュ
http://stuffnobodycaresabout.com/wp-content/uploads/2017/11/Lillian-Gish-October-1925.jpg