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『超「超」勉強法』 潜在力を引き出す プリンキピア  第2章の2  全文公開

『超「超」勉強法』 (プレジデント社)が3月31日に刊行されました。
これは、第2章の2全文公開です。

2 世の中は不均質 2:8の法則

2割を制する者は天下を制する

    多くの場合において、重要なことは全体の2割の部分に含まれています。それが8割の重要性を占めています。だから、(やや大げさに言えば)「2割を制すれば8割を制し、8割を制すれば天下を制する」ことになります。これを「2:8の法則」と呼ぶことにしましょう(このような性質を持つ確率分布を定式化した統計学者の名をとって、「パレートの法則」と呼ばれることもあります)。
 よくできる学生は、さまざまな事項を平板に勉強しているのでなく、重要である「2割」を重点的に勉強しています。本質的な部分を見出し、そこに集中しているのです。幹と枝を区別しています。
 実は、勉強は、「2:8の法則」を応用できる典型的な対象なのです。
 世の中に「ハウツー」や「ノウハウ」と称する方法は、山ほどあります。しかし、単なる思いつきや、「たまたま私の場合には成功した」というようなものも、多く見受けられます。そうした方法には汎用性がありません。
 それに対して、「2:8の法則」は、さまざまな事象について観測される普遍的なものです。したがって、「重要である2割を見出し、それに努力を集中せよ」という方法論は、応用範囲が広く、かつ強力なものなのです。
「2:8の法則」に従うとは、「要領がよい」ということなのですが、こう表現すると「こすからい」という印象を与えるかもしれません。しかし、そうではなく、「適切な方法で勉強している」ということです。
 なお、「2:8の法則」と述べましたが、すべての場合について、文字通り厳密に「2割で8割」ということではありません。「1割で9割」の場合もあるでしょうし、「3割で7割」の場合もあるでしょう。具体的な数字は、場合によって異なります。「重要なことは、全体から見れば一部でしかないところに固まっている。だから、その部分を最優先に扱え」ということです。

成果は努力に比例しない

 いま一度繰り返しましょう。重要なもの、成果を左右するもの、全体の動向を決めるものは、全体の一部です。したがって、投入、原因、努力のわずかな部分が、産出、結果、報酬の大部分をもたらすのです。
 重要なものを重点的に扱えば、効率は飛躍的に向上します。ポイントをつかむ、大事なことを先にする、コツをつかむ、要点を押さえる、枝葉末節にこだわらない、ということです。
 逆に言えば、この法則を知らずに努力しても、焦点が合っていないため、満足な成果は得られません。努力すれば、それに見合う報酬が得られるかといえば、必ずしもそうではないのです。間違ったところに努力を傾注しても、効率が悪い。無暗に努力してもだめなのです。
 方向を正しくすることによって、少ない努力で大きな結果を生み出すことができます。選択して集中することが必要なのです。
 日本人には、「長い時間、真面目に働くことこそ重要」と考えている人が多いように見受けられます。しかし、長い時間働くことではなく、価値のある重要な仕事に絞って、短い時間で大きな結果を生み出すことが重要です。こうした観点から、日常生活や仕事の習慣を見直す必要があります
 2:8の法則は、さまざまな現象について成立します。
 例えば、外国語も、旅行者の場合であれば、少しの単語を知っているだけで足ります。多くの人は、たくさんの単語や表現を覚えなければならないと思っています。それは大変なので、尻込みして何も勉強しない。ところが、行きの飛行機の中で覚えられるようなものだけでも勉強しておくと、大いに役立ちます。
 スポーツにも、コツがあります。重要な勘所です。「ツボ」といわれるものも同じなのでしょう。このように、「重要なことに集中する」という方法論は、勉強や仕事、そして日常生活のさまざまな分野で応用できるものです。

スマートフォンやPCを使い切る必要はない

 2:8の法則は、PC(パソコン)やスマートフォンなどの利用には重要なことです。
 PCやスマートフォンにはさまざまな機能があります。しかし、すべての機能が同じような重要性を持っているのではなく、重要な機能とそうでないものがあります。
 この場合にも、重要である2割の機能を習得すれば、8割の事態に対処することができます。8割の事態に対処できれば、多くの場合に大丈夫だと考えてよいでしょう。機能のすべてを使い切る必要はありません。機械にできることであっても、使う必要がないものは多いのです。
 だから、すべての機能についてまんべんなく使い方を習得するのではなく、重要な機能を完全に使えるように訓練するほうがよいのです。
 PCについて言えば、私が日常的に使うのは、ワープロ機能(テキスト・エディタ)とインターネット、それに表計算程度のものです。これら3機能は、PCの全機能のうちでは2割にもならないでしょう。しかし、私の使用頻度では、それがほぼ8割になります。これらをマスターすれば、PCの機能の8割を使ったことになります。
 PCやスマートフォンに初めて接した人が恐怖心を持つのは、機能があまりに多く、すべてを習得できないと思うからでしょう。しかし、すべてをマスターする必要はないのです。それより、頻繁に使う操作や機能に慣れるほうが重要です。
 アプリケーションソフトを使う際にも、同じことが言えます。重要な2割の機能を習得してしまえば、実際に使用する機能の8割をカバーできます。例えば、Word には、さまざまな機能があります。しかし、それらを全部習得する必要はありません。まずは、文章を入力し、修正し、保存するという操作ができればよいでしょう。
 Excel(エクセル)という表計算ソフトにも、実にさまざまな機能があります。しかし、そのうちよく使う機能は一部です。全体の機能の2割にもならないでしょう。
 PCやスマートフォンを使いこなすとは、あらゆる機能に習熟することではありません。重要な機能に絞って習熟することです。
 それにもかかわらず、解説書の多くは、機能を中心に考えており、仕事の内容とは無関係に、機能の使い方を説明しています。そして、「PCの能力を最大限に引き出そう」とか「120%使おう」などと言うのです。しかし、これは本末転倒です。「PCやスマートフォンを使い切ろうとは思わない」ことこそ重要です。

2割の部品の故障が8割

 2:8の法則は、古くから知られていました。そして、実際の仕事において、応用されてきました。その具体的な例として、自動車部品の故障対策があります。
 自動車は多数の部品からできていますが、すべての部品が同じような頻度で故障するのではありません。頻繁に故障するのは一部の部品であり、それらが故障件数の大半を占めているのです。実際には、2割程度の部品の故障が総故障件数の8割程度になる場合が多いといわれます。つまり、文字通り、2:8の法則が成立するのです。
 このため、修理工場は、すべての部品を同数ずつ準備するのでなく、重要な部品を重点的に備えています。そうすることによって、ほとんどの事故に対応することができます。
 数の上では2割のものが重要度では8割を占めるという2:8の法則は、品質管理の分野で重要な法則として意識され、積極的に活用されるようになりました。
 自動車の部品以外にも、いくつかの例を挙げることができます。例えば、ある製品に対するクレームを品質別に順に並べると、上位に来る約2割の品質に関するクレームが、すべてのクレームの約8割を占めるといわれます。これらに対処すれば、クレームの8割をなくすことができます。これは、効率化のための非常に強力な方法です。
 あるいは、売れ筋商品といわれるものは全体の2割くらいで、それが全体の売り上げの8割程度を占めるといわれます。顧客のうち重要なのは2割程度で、その人たちの購入が売り上げの8割程度を占めます。
 交通事故が起こりやすい交差点と、そうでない交差点があります。仮に、ある町の交差点のうち、2割の交差点での事故件数が全体の8割を占めるなら、その交差点での事故対策を重点的に行なうことによって、交通事故の8割をなくすことができます。
 2:8の法則は、日常生活にも適用できます。今日やるべきことを10件書き出してみましょう。このうち、優先順位の高い2件をまず処理します。すると、今日の仕事の8割は片づくことになる場合が多いのです。また、一日のうち約2割の時間が、8割程度の価値を生み出しているともいわれます。多くの作業において、重要な仕事時間は、その仕事に使っている総時間の2割くらいなのです。

本の2割に8割の情報

 2:8の法則は、読書の場合にも有効です。
 10章からなる書籍を考えましょう。各章の長さはそれぞれ1であるとします。各章に含まれている重要な情報は、第1章と第10章ではそれぞれ4あり、他の章では、1章あたり0・25であるとします。この場合、第1章と第10章は、分量から言えば全体の2割ですが、重要度から言えば全体の8割を占めていることになります。
 ここで、各章を読むのに要する時間は1時間であり、読書に当てられる総時間は5時間しかないとしましょう。
 第1章から順に読んでいった場合には、得られる重要な情報は、第1章から4、第2、3、4、5章から1ですから、全部で5になります。
 他方、まず第1章と第10章を読み、次に2、3、4章を読む場合には、重要な情報は第1章と第10章から8得られ、2、3、4章から0・75得られます。したがって、全体としては8・75の重要な情報が得られることになります。つまり平板に読むのではなく、重点的に読めば、得られる8.75÷5 =1・75倍に増えることになります。
 執筆者の立場からも、同様のことが言えます。第1章と第10章ができれば、分量では2割ですが、実質的には8割くらいできたことになります。
 なお、ここで述べている書籍は、仕事や勉強での参考文献のことです。小説については、「重要な部分だけ読めばよい」とは言えません。つまらないところがあるからこそ、全体が生きるのです。ですから、最初から順に、飛ばさずに読む必要があります。
 では、本書は小説ではないので、2割読めばよいと言えるでしょうか? これは、誠に難しい質問と言わざるをえません。
 右に述べたのは1冊の本についての読み方ですが、異なる本についても、同様のことが言えます。
 私の場合、仕事の参考のため、大量の本や文献に目を通す必要があります。しかし、関連する文献の最初から最後までを丹念に読んでいるわけではありません。そうしたいのはやまやまですが、とてもそれだけの時間が取れません。
 そこで、つぎのようにしています。ある事柄を調べたいときに、それに関する参考文献が
10冊あるとします。それらをすべて読む必要はありません。その中で優れたものを2冊読めばよいのです。それによって、問題の8割程度は理解できます。参考文献には大体同じ内容のことが書いてあるので、これは当然とも言えるでしょう。
 新聞の場合には、「2割程度読めばよい」という法則は、確実に成立します。あらゆる面を隅から隅まで読むのは、非効率です。
「購読料を払ったのだから全部読まないと損だ」などと考えてはいけません。役に立たない記事を読む時間のコストのほうが、購読料より高いでしょう。一般紙にさまざまな記事が出ているのは、読者の範囲を広げ、コストを下げるためなのです。

重要なものを取り出しやすいように収納するには?

 「重要なものを大事に扱え」という原則からすると、よく読む本を容易に見出せるように書棚に収納しておくことが必要です。
 しかし、実際にはそうなっていない場合が多いでしょう。書棚に秩序正しく収納されているのは、あまり読まない本であり、重要な本は机の上に山積みだったり、床に置かれたりしていて、必要なときにすぐには見出せない場合が多いはずです。
 このことは、本に限りません。きちんと整理されている書類は重要でないものであり、頻繁に見る書類は、乱雑に置かれているのではないでしょうか?
 道具もそうでしょうし、文房具もそうでしょう。重要なものを取り出しやすいように収納すべきなのですが、そうなっていないことが多いのです。
 探し物をしていて、「余計なものがこんなにきちんと整理されているのに、どうしてよりによって必要なものが見つからないのか!」と、しばしば思います。これは、整理について2:8の法則を適用するのが難しいことを示しています。部屋を掃除し整理したつもりでも、整理された大部分は、使わないものなのです。その半面で、頻繁に使うものが適切に処理されていません。

押し出しファイリングの思想

 書類について、重要なものを取り出しやすいように収納するにはどうしたらよいか? これが『「超」整理法』(中公新書、1993年)で提案した方法(押し出しファイリング)です。
 これは、紙の書類をある程度まとめて角2の封筒に格納し、簡単なタイトルをつけて、書棚に並べるという方式です。新着の書類も参照した書類も、左端に入れます。こうすると、使わなかった書類(=重要度の低い書類)が右に押し出され、左端近くにあるのが重要な書類になります。このようにして、書類が重要度の順に自動的に整理されることになります。
 ここで重要なのは、書類の内容についての分類を一切せず、すべての書類を同じ場所に格納することです。しかし、多くの人は「書類は分類しなければならない」という固定観念に凝り固まっているため、なかなか「押し出しファイリング」の本質を理解してくれません。
 コンピュータ・サイエンティストのブライアン・クリスチャンとトム・グリフィスは、『アルゴリズム思考術 問題解決の最強ツール』(早川書房、2017年)の中で、「押し出しファインリング」の思想は、コンピュータのキャッシュメモリの設計思想と同じであり、「数学的に見て最適な方法である」と評価してくれました。
 なお、データをクラウドに保存することによって個々のファイルにリンクをつけることが可能になり、資料を分類して保存することが可能になりました。これについては、『「超」メモ革命 個人用クラウドで、仕事と生活を一変させる』(中公新書ラクレ、2021年)を参照してください。


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