見出し画像

『ブロックチェーン革命[新版]    分散自律型社会の出現』序章(その4)

ブロックチェーン革命[新版] 分散自律型社会の出現』が、日経ビジネス人文庫から刊行されました。

・8月5日(水)から全国の書店で発売されています。

これは、序章(その4)全文公開です。

序章(その4)
スマートコントラクトの実行とIoTへの応用

 ブロックチェーンがインターネットの世界でできるもう一つのことは、スマートコントラクトの実行である。
 「スマートコントラクト」とは、コンピューターが理解できる形で書くことができる契約である。人間の判断を要せず、あらかじめ決められたルールにしたがって自動的に実行できる契約だ(こうした契約は「ドライな契約」と呼ばれることもある)。
 金融取引は数字で表されるので、その他のサービスのように品質などに関する主観的評価があまり必要ない。したがって、スマートコントラクトになじみやすいのである。ブロックチェーンの応用がまず金融業界で進んだのは、このためだ。しかし、金融だけでなく、さまざまな対象に応用することが可能である。
 第7章で述べるように、スマートコントラクトの実行に向けてのさまざまな試みが行なわれている。実物財の取引への拡張は、「スマートプロパティ」と呼ばれることもある。これによって、たとえば、レンタカーの賃貸も簡単になる。一定の時間だけ所有権が移るような契約にすればよいからだ。
 ブロックチェーン技術は、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)でも重要な技術となる。IoTとは、さまざまな機器やデバイスをインターネットで接続しようとする試みだ。日本でもIoTに対する関心が高まっている。
 しかし、ここには、運営コストの問題がある。これまでのIoTの対象は、電力システムの管理など、運営コストがかさんでもかまわない付加価値の高い活動が中心であった。しかし、ホームオートメーションのような分野にIoTを導入しようとすれば、運営コストが高くては実用にならない。
 現在考えられているIoTシステムの多くは、センサーから得られる情報をクラウドに送信し、そこで中央集権的にコントロールするものだ。しかし、このような方法では将来、コスト面で限界が出てくるだろう。そこで、ブロックチェーンを用いてシステムを運用することによって、コストを引き下げるアイデアが提案されている。IoTの普及には、ブロックチェーン技術の応用が不可欠だ。この問題は、第7章で述べる。

経営者のいない組織が動き出している
 ブロックチェーン技術の影響は、以上にとどまらない。さらに広い応用可能性を持ち、社会の仕組みを大きく変えようとしている。
 第8章と第9章では、企業組織や政治・行政への適用を紹介する。なお、これら金融以外への応用は、「ブロックチェーン2・0」と呼ばれることもある。
 まず、企業の経営を、ブロックチェーンを用いて自動的に行なおうというきわめて野心的な構想がある。これは、DAO(Decentralized Autonomous Organization:分散化された自律組織)と呼ばれるものだ。
 その結果出来上がる組織は、これまである組織とは、かなり異質のものになる。これについては、第8章で述べる。
 DAOは、人を介在させずに自動的にビジネスを行なうための仕組みである。究極的には、ウェブ上のショップはすべてブロックチェーンによって運営される自動運転企業になる可能性がある。少なくとも、既存企業における組織の一部が自動化されるだろう。また、資金の出し手と受け手が直接に結び付き、これまでの形の金融機関を不要にしてしまうかもしれない。
 ロボットは、主として人間の肉体労働を代替するものだ。しかし、ブロックチェーンの応用によって、経営者の機能を自動化することが可能になるのだ。
 インターネットの世界では信頼性が確立されておらず、そのため現実の世界において大組織の優位性が高まっていた。しかし、DAOの場合には、組織を信頼する必要はなくなる。この問題は、第9章で詳しく論じる。
 世界は、ブロックチェーンの潜在力に、いま気付いた。
 この1年程度の間に、ブロックチェーンを用いる新しいプロジェクトが、奔流のようにあふれ出している。本書で紹介するのは、それら多数のプロジェクトのうち、広く注目を集めているものだけであり、全体から見ればごく一部にすぎない。
 世界はいま、ブロックチェーンという新しい技術の潜在力に気付いた。そしてそれが、未来のビジネスチャンスの宝庫であることに気付いた。それだけではなく、この技術が社会と経済を根底から変えてしまうことを認識したのだ。これは、インターネットの黎明期と同じような状況だ。
 それが用いられる分野も、金融関係だけではなく、IoTやサプライチェーン、そして医療や教育などにも及んでいる。第8章の1で述べるように、プロジェクトの多くはエセリウム(Ethereum)をプラットフォームとしているのだが、そのプロジェクト集のページだけを見ても、すでに300近いプロジェクトが掲載されている。また、新しいプロジェクトを紹介するウェブのページもいくつもある。
 これらの中には、もちろん失敗するものもあるだろう。しかし、いくつかのプロジェクトは成功して成長し、われわれの生活と社会のあり方を大きく変えていくに違いない。
 問題は、これらの中に日本発のものがほとんど見られないことだ。日本は、世界の潮流からまったく取り残されてしまっている。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?