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『中国が世界を攪乱する』全文公開:第1章の1

中国が世界を攪乱する』が東洋経済新報社から刊行されます。

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これは、第1章の1全文公開です。

第Ⅰ部 米中経済戦争の進展
【第1章】新型コロナウイルスは経済活動をどの程度落ち込ませるか?

1 リーマン・ショック以来の経済危機

国際機関などの対応
2020年1月、中国で発生した新型コロナウイルスによる新型肺炎が全世界に広がり、大混乱をもたらした。
 G7(主要7カ国、財務相・中央銀行総裁会議)は、2020年3月3日夜、緊急の電話会議を開き、すべての適切な政策手段を用いて世界経済の下振れリスクから守るとの共同声明を発表した。
 米連邦公開市場委員会(FOMC)は、3日に臨時会合を開催し、0・5ポイントの緊急利下げを決定した。
 経済協力開発機構(OECD)は、3月2日、「経済見通し中間報告」を発表し、世界は、金融危機以来最も深刻な危機に直面しているとした。
 2020年の世界経済の成長率(実質GDP伸び率)を、2019年11月に発表した見通しから0・5%ポイント下方修正し、2・4%とした。中国の成長率は0・8ポイント減の4・9%だ。日本は、0・4ポイント減の0・2%。
 しかし、アジア太平洋地域と先進諸国全体で、中国で起きているような感染拡大が見られると、2020年の世界経済の成長率は1・5%まで下落する可能性があり、日本やユーロ圏では不況に転じる恐れがあるとした。
 OECDは、以上を詳細なレポートで分析している(本章の3参照)。
 これに先立つ2月22日、国際通貨基金(IMF)のゲオルギエワ専務理事は、サウジアラビアのリヤドで開催されたG20(財務相・中央銀行総裁会議)で、新型コロナウイルスの影響によって、2020年の世界経済成長率見通しを1月時点から0・1ポイント程度下方修正し、約3・2%にするとした。これは、世界経済への影響については、「比較的軽微で、かつ短期的となるだろう」との見通しだ。
 中国は、0・4ポイント低い5・6%だ。これは、1990年(3・9%)以来、30年ぶりの低成長になる。
 しかし、この程度で済むかどうかについては、疑問の声が多かった。この予測は、「公表された政策が実行され、中国経済が第2四半期(4~6月)に正常化する」という仮定に基づいているが、そうなるかどうかが問題だ。
 2003年に大流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)が中国のGDP成長率に及ぼした打撃は、マイナス1%ポイント程度だったとされている。しかし、新型コロナウイルスの影響は、それより大きいと考えられている。
 中国のエコノミストの間では、流行が4月までに収束しても、1~3月の成長率は5%を割り、通年でも5%台の成長にとどまると予測されていた。
 後で紹介する世界銀行のモデルも、IMFの予測よりは厳しい見通しを裏付ける。

中国の経済活動が大きく落ち込んでいる
 新型コロナウイルスは、中国経済に大きな影響を与えた。まず、各種サービスや小売、航空、保険など多くの業種が、感染の拡大と政府の対応の影響を受けた。
 製造業への影響も大きい。武漢は、世界の自動車産業の製造拠点で、日本のホンダなど自動車大手や関連の部品メーカーが集積している。そして、生産が大きな影響を受けた。
 以上の状況は、統計の数字にも表れている。
 景況感を示すPMI(購買担当者景気指数)は、ウイルスの影響が織り込まれる前の段階で、すでに下落の傾向を示していたが、その後、大きく低下した。
 2020年2月29日に発表された2月の中国製造業のPMIは、前月の50・0から、35・7に下落した。リーマン・ショックで大きく落ち込んだ2008年11月(38・8)をも下回り、統計を遡れる05年1月以降で最低の記録だ。
 注目すべきは、非製造業のPMIが大きく悪化したことだ。1月の54・1を大きく下回る29・6となり、過去最低となった。

中国の影響力は大きくなっている
 SARSが流行した2003年と現在を比べてみると、世界経済に与える中国の影響は桁違いに大きくなっている。
 2003年当時、中国のGDPの世界経済に対するシェアは4%程度だった。しかし、2018年には約16%と拡大した。2019年の訪日中国人は約960万人と、03年の21倍超だ。巨大市場中国の成長減速で、世界経済の需要が減少する影響も深刻だ。
 中国工場の閉鎖は海外企業に混乱をもたらしており、アップルは中国国内での生産を一時的に停止した。中国のサプライヤーに依存している多くの企業が、部品調達の困難に直面した。
 自動車部品の供給拠点である武漢での生産停止で世界の自動車メーカーの供給網が遮断され、部品が手に入らないことによる完成車の減産が生じた。 
 コロナウイルスの影響で中国からの旅行者が減少するので、日本の関連産業も大きな痛手を受ける。さらに中国の生産活動が停滞すると、日本の産業に重大な影響が及ぶ。日本の対中国輸出額は、2003年から19年の間に約3倍に増加している。
 以上のような状況を反映して、2020年2月20日以降、世界的な株安が進行した。
 また、世界経済が減速することへの懸念から、原油価格が下落した。同時に、円高が進行した。


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