見出し画像

【終わり悪ければすべて悪し?】2023 J3 第11節 松本山雅×鹿児島ユナイテッドFC マッチレビュー

スタメン

信州ダービーで手痛い敗戦を喫してしまい、直近のリーグ戦は1勝4敗と調子を落としている松本。2週間の中断期間でチームの設計図を再認識し、メンタル的にも切り替えることが出来たか。今節はまさに試金石と呼べる一戦となる。

前節からは先発4名変更。ベンチ外が続いていた藤谷壮と下川陽太の両サイドバックが復帰し、右サイドには負傷した榎本樹に代わって村越凱光、渡邉千真が2トップの一角に名を連ねた。大きく変わったのはベンチの面々で、住田将が帰ってきて、新加入のルーカスヒアンはリーグ戦初のベンチ入り。ここまでドリブラーをチームに組み込めていなかったが、どう融合していくか?という点も注目される。

一方の鹿児島は松本とは正反対に絶好調。直近リーグ5試合は3勝2分と負け無し、しかも3試合連続クリーンシートを記録するなど上向き調子である。また、オフには前線を中心に大型補強を行ったが、現在は福田・山口・圓道・山本・武など若手が序列を上げていることも興味深いメンバー構成となっている。


原点回帰で見せた理想形

風下に立たされて苦戦する鹿児島に対し、松本は強烈なプレッシングをかけて自由を奪っていく。中断期間を経てプレッシングは整理したようで、4-4-2の形を維持しながら、ボランチの1枚が上がってきて加担することでマンツーマン気味の状況を作り出す。

ポイントはサイドハーフの立ち回りだろう。
これまでは、2トップ+ボールサイドのサイドハーフで3枚のプレッシング部隊を形成することが多かったが、この日のサイドハーフは自重気味。あくまで前線から追い回すのは2トップの役回りで、鹿児島のGKとセンターバックの3枚を監視するタスクだった。ビルドアップのサポート役として木村が降りていくが、そこにはボランチの安東輝が付いていくお約束。途中、木村があえてGKと並ぶくらいに下がっていく駆け引きをしていたが、さすがに深追いはしなかったけども。

4バック+木村にバチッとプレッシングがハマっていたので、鹿児島としてはGKに下げてロングボールを蹴るくらいしか選択肢がなかった。プレッシングをロングボールでひっくり返される展開は、ここ数試合松本が苦戦していたパターンであるが、ここに対しても一定の解決策を用意してきていた。

解決策といっても、安東輝が機動力を生かしてカバーするというものであるが。プレッシングの際は木村の監視役として前線に出て行くが、ひとたびロングボールを蹴られると全力で中盤深くに戻ってきて、セカンドボール回収争いに参戦する。いつもはボランチが1枚出ていく分、セカンドボール争いで人数が足りず、相手に回収されて逆襲を食らうというのがお決まりだった。
だいぶ脳筋な解決策ではあるが、安東輝が走り回ることで中盤の数的不利を埋めようとしていて、実際にうまく回っていた。

前半の鹿児島は強烈な向かい風を受けていて、ロングボールの飛距離が伸びなかったことも松本には幸いした。前線から整ったプレッシングを掛けて、鹿児島が苦し紛れに蹴ったロングボールに競り勝ち、セカンドボールを回収して再び押し込んでいく。正のサイクルを回し続けられていたので、前半20分くらいまでワンサイドゲームに近い様相を保てていたと思う。

松本がうまくいっていた要因として見逃せないのは、”プレッシングが整っていた”ということ。前述の通りサイドハーフの動き方が変わったのだが、バイネームで言うならば菊井悠介の振る舞い方が大きく影響していた。

ここ数試合、左サイドハーフないし左ウィングに入った時の菊井悠介は、かなりフリーダムだった。攻撃時は右サイドまで出張して崩しの局面に加勢したり、守備時はGKまでプレッシングに行ったり。技術・運動量・創造性を併せ持つ彼は、たしかに崩しの局面では欠かせないピースなのだが、すべての場面に関わろうとするあまり全体のバランスを崩してしまっていたことも否めない。本来トップ下の鈴木国友が、自由を謳歌する菊井悠介のフォロー役として左サイドのスペースを埋めている場面が象徴的だ。

まさに神出鬼没な動きをしていたわけだが、それは相手に対してだけでなく、味方に対しても同様。ピッチ上の全員が共通の設計図を描こうとしたときに、常に菊井悠介だけは隠しキャラのようにどこにいるか分からない状態は健全ではない。できれば、設計図が頭に入っていれば首を振って周囲を確認しなくても誰がどこにいるかわかる状態が望ましい。
そういう意味では、この試合において菊井悠介が出張する機会はほとんどなく、全員が4-4-2の立ち位置を綺麗に守りながらプレーし続けていた。
だからこそ、最近見られなかったダイレクトプレーやサイドバックの攻撃参加など、開幕戦のような迫力が出せていたのだと思っている。


理想を体現した先制点

攻守のサイクルを敵陣で回しながら良い展開を作っていた松本。体現していた理想を先制点という形で結実させる。

起点となったのは常田克人のサイドチェンジ。右大外で村越凱光が受けると、藤谷壮のインナーラップをフェイクに切り返して低いクロスをペナルティエリア内へ供給。GKがファンブルしたところを小松蓮が押し込んでネットを揺らした。

まず常田克人のサイドチェンジが素晴らしかった。左利きの選手を左センターバックに置いているメリットを感じさせる美しい軌道を描いたフィードで、局面を大きく変えることに成功する。
一連のシーンで特筆すべきは藤谷壮のランニングだろう。常田克人が蹴る瞬間にはスタートを切っていた感度の良さ、村越凱光に対して後方サポートではなくインナーラップを仕掛けた選択も良かった。藤谷壮のランニングにより、村越凱光に対して2対1を作ろうとしていた福田を引き剥がすことに成功し、カットインという選択肢を生み出した。
村越凱光がDFとGKの間に低いクロスを入れた判断も功を奏した。この日の松山は少しキャッチングが不安定だったことを考慮してかは分からないが、GKにとっては処理の難しいボールだったことは間違いない。
最後に小松蓮が詰めているのだが、フィニッシャーとして2トップがペナルティエリア内に入れていること、加えて逆サイドバックの下川陽太も入ってきていることを褒めるべきだ。

大きなサイドチェンジ、サイドハーフないしウィングに対してサイドバックがインナーラップを仕掛けてポケットを取る動き、フィニッシャーとなるべき選手を複数ペナルティエリア内に配置する構造。
どこを切り取っても、キャンプから継続して積み重ねてきた霜田スタイルそのもの。開幕戦から試合を重ねるごとに迷走していた感は否めなかったが、中断期間にリマインドしたことでスタイルの原点に立ち返ることが出来たのではないだろうか。


分水嶺となった安東輝の負傷

かなり良い試合運びを見せていた松本だが、結果的に前半26分に起こった安東輝の負傷交代を機に潮目が変わってしまった。決して安東輝を責めるような意図はないが。
松本にとって泣きっ面に蜂だったのは、鹿児島が試合の流れを通じて優位に立てるポイントを複数見つけ出していたことだった。安東輝が抜けたことによる影響と併せて見ていく。

前半立ち上がりの鹿児島は、松本のプレッシングに手を焼いていて自陣から抜け出すことすら困難になっていた。その状態を打破できそうなポイントとして、鹿児島が見つけ出したものを2つ、松本が引き起こしたものを1つ挙げていく。

まず鹿児島が見つけたのは、サイドバックの持ち運びによるプレッシング回避。たしかに松本のプレッシングは人対人でうまくハマっていたが、野嶽・渡邉にドリブルで対面の菊井悠介・村越凱光を剥がされる場面が時間経過とともに増えていく。ここはチームとしての仕組みがどうこうではなく、純粋に個人スキルの部分。前向きの矢印で寄せていくところまでは素晴らしいのだけど、寄せた際に適切な距離感で止まってかわされないというプレーに難があった。せっかくハメているのにもったいないやつ。

次も個人の部分になるが、左サイド福田の質的優位。何度かの1対1を経て、福田と藤谷壮のマッチアップでは福田がやや優位であると気づき始めていた。おそらく藤谷壮のコンディションが万全ではなく、単純な走り合いで負けていたり、切り返しについていけなかったりといった場面がちらほらと。
そしてこの質的優位を最大限活かしたのが鹿児島の1点目。左サイドバックの渡邉は、あえて藤谷壮の背後へ落とすようなパスを出しており、福田との走り合いに持ち込ませたい感がビンビンに伝わってきた。

そして最後、これは安東輝が離脱したことで発生した、中盤のセカンドボール争いでの優位性である。プレッシングを掛けた際にロングボールを蹴られてこぼれ球を拾われるという流れは松本にとって課題だった部分。そこを安東輝という個の力で解決していたのが、この日の序盤の好循環につながっていたところまでは前述の通り。
そして肝になっていた安東輝を失った中、再び課題が再発してしまった。代わって入った住田将も木村をマークするという役割はこなせていた。一方で、ロングボールを蹴られた際にセカンドボール争いに加勢できるように戻ってくる部分でややキツイところがあったと思う。断じて住田将の能力不足を叩きたいわけではなく、もともと安東輝の機動力だからこそカバーできていた部分なので人が入れ替われば破綻するのは当たり前、つまり設計の問題だ。

とはいえ、セカンドボール争いで後手を踏むであろうことは霜田監督も重々承知のはず。安易に修正できないのは、チームコンセプトの軸である前線からのプレッシングの裏返しとして起こっている課題であるが故だろう。セカンドボール争いに持ち込まれないようにプレッシングを止めてブロックを組む判断は、すなわちキャンプから積み上げてきたスタイルにNOを突きつけることになる。
プレッシングの掛け方を整理して改善の兆しが見える中、スタイルを曲げてまで手をいれるべきなのか?
おそらく答えは、リスクを受け入れるだったのだと思う。


議論の余地がある残り20分の振る舞い

野々村鷹人が首の力を見せつけたゴールでリードして試合を折り返すも、後半早々に福田にゴラッソを沈められて同点とされてしまう。ただ、この日は試合の主導権を鹿児島に渡すことなく、風下に立たされた後半も互角以上に渡り合えていた。

それだけに後半22分の2枚替え、後半34分の2枚替えで試合を壊してしまった感が強い。何度も書いているように、この試合がうまくいっていた背景には松本が全体のバランスを整理できていたことがある。プレッシングで誰が誰を捕まえるのか、攻撃時にサイドハーフがどういった振る舞いをするのか、全員が同じ設計図を描けていたからこそハマっていた。

ところが、より攻撃にギアを入れようとして選手交代をした結果、ピッチ上の選手たちが適正なバランスを見失ってしまい自滅してしまったと思っている。選手交代をするにしても、できるだけ全体のバランスを失わないように、疲れにより強度が落ちている箇所を手当するくらいにとどめておいたほうが良かったかもしれない。それこそ霜田監督がこれまで見せていたような選手交代策の方が…。

このあたり、パワープレーを好まず、試合終盤になっても自分たちのスタイルを貫き通す霜田監督らしくないベンチワーク。試合後の監督会見でも『内容よりも結果が取りたかった』と語っていたことからも、同点に追いつかれた展開で焦りがあったのかなと推測している。

結果的に致命傷となった3失点目も、向かい風の中で放り込んだロングボールのこぼれ球を回収された流れから圓道にクロスまで持ち込まれている。住田将が判断に迷ってしまったことは事実だが、今季の考え方に則るなら、そもそもゴール前で判断ミスが起こるようなシチュエーションを作られていること自体に問題がある。
風で押し戻されるにも関わらずロングボールを連発していたこと、中盤のセカンドボール争いで数的不利になっていたこと。同点で迎えた終盤、全員で意思統一してゴールに向かうことが出来ていたか?と考えると疑問符が付くし、この部分についてはピッチに迷いを与えるようなベンチワークをしてしまった霜田監督にも一定責任があると思う。

自ら手放した試合の主導権が再び松本の手に戻ることはなく、アディショナルタイムに4点目を取られて万事休す。リーグ戦2連敗となった。


総括

残り5分で2失点という終わり方が最悪だったので偏った印象になりがちだが、90分通してみると悪くない出来だったと思う。特に安東輝が負傷交代するまでの時間帯は、アルウィンの強烈な風に文字通り背中を押されながら今季ベストに近いプレッシングを披露できていた。
それ以外の部分でも、好調の鹿児島相手にがっぷりよつで互角以上のスタッツを残せていることは間違いなく評価されるべきだ。

結果だけを見て試合全体に失敗の烙印を押すのは甚だおかしいし、霜田監督の解任に紐づけるのは短絡的すぎる。
むしろ、キャンプから積み上げてきたスタイルを見失いかけていたチームが中断期間を経て本来あるべき姿に戻ったと見るべき。

同じところをグルグル回っていた悪い時期から脱し、もう一度正しく積み上げていくためには次が本当に大事になってくる。この敗戦を受けて疑心暗鬼になって再び何も生み出さない不毛な期間を過ごすのか、目指すところを再認識し次のステップに進むのか。

完成されたチームではないので悪いところに目をつけて批判することは簡単だが、かえって選手スタッフ・チーム・クラブの歩みを遅くする足かせになっていないか僕も含めて自分の胸に手を当てて問い直してみたいところ。

高ければ高い壁の方が、登った時気持ちいいもんな

と歌っていたバンドがあったけれど、どうせなら勇敢にチャレンジする選手たちに伴走し、壁にぶつかることすらも越えた先にある未来をイメージして楽しむスタンスでいたいものである。


俺達は常に挑戦者


Twitterはこちら。よければフォローお願いします。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?