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【突き付けられた現在地】2023 J3 第8節 松本山雅×カターレ富山 マッチレビュー

スタメン

松本は前節、今季初黒星を喫してしまい開幕から続いていた無敗が6試合でストップ。2週間の中断を挟み、もう一度キャンプで取り組んできたことを復習する時間があったのはポジティブに働いているはずで、どんな点を修正してきたかが注目ポイントだった。

メンバー選考に関しては、ビクトル・藤谷壮・鈴木国友がベンチに下がり、村山智彦・下川陽太・村越凱光が先発復帰。GKについては足元の技術とコーチングを買っているようなので、ボールを持たされる展開を予想してかもしれない。開幕時点のメンバーに近くしてきたのは、やはり菊井悠介をトップ下に据える形が現在のチームの基本陣形ということなのだろう。滝裕太は負傷明けなのでベンチスタートは致し方ないとして、山本龍平は序列をひっくり返して左サイドバックの一番手に躍り出たのだと思う。

対する富山は2枚変更。左サイドバックの大森・センターバックの下堂に代わって、古巣対戦となる柳下と今瀬をスタメンに起用してきた。GKの田川は横浜FMから育成型期限付き移籍で加入した若手有望株。足元の技術に優れており、直近の試合を観てもビルドアップに積極的に関わっていた。

ホームで無敗を継続している富山とアウェイで無敗の松本という対象的な戦績の対戦であることも豆知識として書き残しておく。


主導権を握れた理由は?

序盤から富山を押し込み、松本が試合の主導権を握れていた。

中断期間中に明確に修正してきたことが観て取れたのはビルドアップ。直近数試合は、プレッシングを掛けられた際に脆さを見せてしまい、ビルドアップが不安定であるがゆえにリズムが生まれない展開が続いていた。

この試合での修正点は「選手間の距離を広めに取ること」。
ボランチ(この試合ではパウリーニョ)が野々村鷹人と常田克人の間に降りるところまでは従来どおりだが、3人の距離を広めに設定したことで、富山の安藤と高橋のプレッシャーを軽減できていた。いわゆるプレス隊2枚でビルドアップ隊3枚を監視できてしまう状況からの脱出だ。

選手間幅を取ることで副次的なメリットも発生する。
野々村鷹人・常田克人の両センターバックが幅を取ることで、自然にサイドバックを高い位置へ押し上げることができる。これまではサイドバックが下がってサポートに張ったほうが良い気がするけど、セオリーに従うと下がれない…という迷いを含んだ立ち位置だったが、この日はごくごく自然にセオリーに沿った立ち位置が取れていた。

富山は比較的マンツーマン気味の人を捕まえるプレッシングを行うのだが、サイドバックが高い位置を取ることで監視役のサイドハーフをピン留めし、2トップと引き剥がすことができるのもメリット。
松岡や吉平は、数的不利になっている2トップのプレッシングに加勢したいがサイドバックを捨てるわけにもいかずもどかしい時間が続いたことだろう。
加えて、サイドバックがタッチライン際に立つので、松岡と吉平のポジショニングも難しくなっていた。サイドバックを追いかけてタッチライン際に寄っていくと、ボランチとの距離が離れてしまい、ハーフスペースに立つ村越凱光や榎本樹に対して野々村鷹人や常田克人が縦パスを通すコースを空けてしまう。とはいえ、縦パスを警戒して中に絞りすぎるとサイドバックに悠々と持ち運ぶ余裕を与えてしまう。究極の2択とも言える選択肢を突き付けられたのは、元をたどるとセンターバックとパウリーニョが幅を取っているが故だ。


富山の修正

前述のようなビルドアップの形を整理したことで松本が主導権を握れていたのはせいぜい前半30分くらいまで。富山がプレッシングに修正を施してきたことで一転して松本は苦境に立たされることになる。

明確に修正したのは「サイドの縦ズレ」。
野々村鷹人・パウリーニョ・常田克人に対して2トップでプレッシングを掛けて数的不利になっていたところに、ボールサイドのサイドハーフを押し上げて3枚でのプレッシングに修正してきたのだ。
下図は松本が左から右にボールを運んだ場合のプレッシング。左サイドハーフの吉平を上げて、吉平が監視していた下川陽太をサイドバックの柳下が一列上がってマークする。富山の最終ラインは全体的に左側にずれていくイメージだ。
昨季名波監督のもとで松本がチャレンジしていたプレッシングの形に近い。

こうなると富山のプレッシングに対して松本が数的優位を作れていたポイントは消されたと言っていい。ここ数試合苦戦していた数的同数のプレッシングを受ける形。

修正後の富山のプレッシング

富山の修正が早かったことは事実。
ただ、遅かれ早かれ相手にアジャストされることは想定内であるはず。ここからどのような振る舞いを見せるか注目していた。
結論としては、松本は有効な対抗策を示すことは出来なかった。その結果が40分の失点に繋がってしまっている。

失点シーンを少し前から見ていくと、常田克人から村山智彦へのバックパスで富山のプレッシングのスイッチが入っている。高橋が村山智彦の右側から常田克人へのパスコースを切りながら寄せていく。同時に安藤はプレスバックしてパウリーニョをマーク。村山智彦の正面へのパスコースを消した。すると必然的に開いている野々村鷹人へ横パスをつなぎ、野々村鷹人が下川陽太へパスを付けるのだが、この時点で松本のビルドアップは詰んでいる。
富山左サイドの縦ズレにより、柳下が下川陽太に寄せてきており、野々村鷹人へパスを返すのが精一杯。吉平のプレッシャーを受けた野々村鷹人は苦し紛れに菊井悠介へロングボールを蹴り込むが、今瀬に狙われておりロスト。最後は高橋のゴラッソを叩き込まれる結果となった。

前半40分の失点シーン

試合後のコメントで今瀬は、菊井悠介へのボールを狙っていたと語っていたが、上の図を見てもらえれば野々村鷹人の出し所は菊井悠介しかなかったことが分かる。小松蓮まで蹴っ飛ばせば良いとも考えられるが、強烈な向かい風によりハーフラインまで飛ばすのは正直困難だったと思う。

富山の人を捕まえるプレッシングにハマっていたのは明らかだったので、松本としては自滅、富山としてはしてやったりの得点だった。


浮き彫りになった現在地

序盤~富山の修正~失点シーンまでを少し引いた目線で考えてみる。

松本は自分たちが準備してきたことをしっかりと発揮し、富山に主導権を握らせなかった。ハーフタイムを待たずに富山が修正を施し、松本の優位性が消えてしまった。松本は次なる一手を打つことが出来ず失点してしまった。

大枠を捉えるとこんな感じになると思う。
ポイントは富山の変化に対して、松本が変化しなかったこと。いや、変化できなかったと表現するほうが適切かもしれない。
事実として、ハーフタイムを挟んで松本はビルドアップの形を変えている。パウリーニョをセンターバックの間に落とすことを止め、センターバック2枚でビルドアップするようにしたのだ。
ハーフタイムを挟んでの変化が効果的だったかどうかはさておき、ハーフタイムを挟まないと変化を施せなかった点が重要だと思っている。

予めビルドアップ時の立ち位置を整理し、スムーズにボールを回せるようになるというところまでが基礎基本。試合中に相手の出方を観察し、状況を整理して打ち手を考えて、実行に移すのは、ハッキリ言って応用編だ。
試合前にトレーニングしてきた部分は出来たので、基本編は概ねクリア。ところが、この日の富山のように変化を加えてきた相手に対してベンチからの指示なく対応するのは難しい。ここが現在地だと言えるだろう。

応用編へのステップアップが難しいのは、ビルドアップを担当している選手のキャラクターも関わっている。センターバックとボランチの4人は、最終ラインからビルドアップするようなスタイルでプレーしてきた選手ではない。新しいスタイルに適応しようとしている最中で、むしろ良く吸収していると思う。

今すぐに応用編も出来るようにするなら、もう人を変えるしかない。現に、この試合でも霜田監督は奥の手として菊井悠介をボランチに下げている。昨季もベンチに提言している場面があったように、菊井悠介はピッチ上で起こっている事象を整理して自ら解決策を出せる選手。ボランチに入った菊井悠介は何かしらの変化をつけようともがいていた。ただ、敵陣の密集にドリブルで突っかけて行ったり、味方と描いているイメージが合わなかったり、あまり準備していない形であることは垣間見えた。

何より菊井悠介をボランチに下げてしまうと、プレッシングの旗振り役が不在になるし、チームとしてアタッキングサードでの怖さが半減してしまうデメリットが大きい。基本戦術として仕込むには、菊井悠介の代わりにトップ下を務める選手が出てくることも必要だし、何より時間が必要だろう。

試合では常に応用編が繰り広げられている中で、チームはまだ基礎基本を反復練習している段階。ここのギャップに苦しめられている気がする。
言い換えれば、目の前の結果を出すためには応用編を何とかしてクリアしないといけないが、しっかりとスタイルを浸透させるなら多少の犠牲を払ってでも公式戦の緊張感の中で基礎基本をやり続けるのが早い。
昇格という結果と新スタイルの浸透という二兎を追っているが故の大きな壁に直面している。


総括

2失点目は明らかにファウルだし、3失点目はリスクをかけて攻めに出ていたので仕方ない。
サイドバックが高い位置を取るのも、ウィングやトップ下がポケットを取るのも、全てはビルドアップから始まっている。地盤が不安定では、上にどんな建物を建てようとも脆いままだ。

個人的には地盤を固める事を優先してほしいと思う。中途半端に二兎を追うと、シーズン折り返したあたりで「結果も付いてきてないし、スタイルの浸透度も微妙」という最悪の状態を招きかねない。

まだ10試合終わっただけ。チームは発展途上で、伸びしろを多く残している。
監督解任?もっての外だろう。
0-3の敗戦と授業料としては高くついたが、松本の現在地を認識するには良い機会だったと捉えるしかない。
現実を受け入れなければ、さらなる進歩もない。

俺達はまだまだ挑戦者なのだから。


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