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【安永玲央の衝撃】2023 J3第19節 松本山雅vsヴァンラーレ八戸 マッチレビュー


スタメン

リーグ戦2連敗中、しかも2試合連続で終盤に試合をひっくり返されるというショッキングな展開で敗戦。仕切り直しとなる一戦に対して霜田監督は大胆な采配を見せる。
火曜日にチームに合流したばかりの安永玲央をいきなりスタメンに抜擢。さらに体調不良でメンバー外となった小松蓮に代わって、鈴木国友を今季初めてセンターフォワードの位置で起用してきた。

対する八戸は前節からメンバー変更なし。今季ここまでアウェイで5勝2分2敗とかなり戦績が良い。石崎監督のチームらしく、身体を張るべきところは張るという手堅いチームを作り上げてきている印象だ。


松本対策を逆手に取る

立ち上がりから主導権を握ったのは松本。主体的にボールを動かし、八戸陣内に押し込んでいく。
八戸は松本のビルドアップを相当研究してきていたようで、抑えるべきポイントは正しく抑えられていた。抑えるべきポイントとは、ボランチとサイドバック。センターバックのサポートに入るボランチは基本的に並行関係でいることが多いので、ボランチへのパスコースを消しながらマークしているのが原則。また、高い位置を取るサイドバックにはマンマークで人を付けて前を向かせなければ怖くない。この形は対松本として確立されつつある。

当然八戸も対松本の定石に則ってプレーしてきたのだが、それがかえって裏目に出てしまう。というのもこの日の松本はサイドバックを通常よりも低い位置に下げてビルドアップに参加させていた。通常ならセンターバックだけが残る2バックのような形になるところ、この日はちゃんと4バックだった。
八戸側として計算が狂った箇所はウィングバックの移動距離が伸びてしまったこと。サイドバックが高い位置を取っている時は、八戸ウィングバックの目の前に来た選手をマークしていれば良いだけなのに、低い位置を取られると、その分寄せなければいけない。移動が長くなる分、松本サイドバックには時間とスペースの自由が与えられることになり、藤谷壮のスペシャリティであるドリブル突破が活きる展開に繋がっていく。

八戸にとってもう1つ誤算だったのは、松本ボランチを捕まえられなかったこと。研究対象としていたボランチはビルドアップにおいて「静」なタイプで、背中で消すことも難しくなかった。ところがこの日メンバーに名を連ねていた「動」なボランチの存在が八戸の計算を狂わせていく。

そう、安永玲央だ。

安永玲央は常に首を振って敵味方の位置をインプットすることを惜しまない。ピッチ上で誰がどこに位置していて、どんなプレーをしようとしているかを正確に把握しているので、次にボールがどこへ移るかの予測精度が高い。「相手を見てプレーできる」と評される一因だ。

ビルドアップの局面でも、最初は安東輝と並列でサポートしているが、佐々木がセンターバックにプレッシングに出て、佐藤が安東輝に気を取られていると見るやいなや、するするとポジションを移動して八戸2トップの間に顔を出す。野々村鷹人からの縦パスを引き出して前を向き、八戸のプレスを無効化してカウンターに繋げてしまう。
これまで比較的動かないか、動くとしても横の動きが多かった松本のボランチにおいて、横だけでなく縦にも動きを加えられる安永玲央は新鮮だ。彼の動きこそ、ベンチが開幕当初から口酸っぱく住田将に言い続けていたボールを受けるための動き直し。

2トップでボランチを消せると踏んでいた八戸にとって、縦横無尽に動き回り、時に神出鬼没な動きをする安永玲央の存在は厄介だったに違いない。


安永玲央がもたらしたもの

上述のように安永玲央の巧みな動き直しとポジショニングで、ここ最近苦しんでいた松本のビルドアップは大幅に改善された。

そしてビルドアップの改善は副次的な効果も生み出すことになる。
象徴的だったのは菊井悠介のポジショニング。これまでビルドアップのサポート役として最終ライン付近まで降りてくることもあった菊井悠介だが、この試合では本来いるべきアンカー脇のスペースに居続けることがでていた。
前半45分だけでも、何度アンカー脇・インサイドハーフの背後でボールを引き出してカウンターの起点になっていたことか。八戸がプレッシングで前がかりになればなるほど、松本のカウンターの威力が増していく時間帯すらもあった。

攻撃の中心としてプレーすべき菊井悠介をビルドアップのタスクから開放できたこと。これも安永玲央が入ったことで生まれた副次的だが、見過ごすことのできない大きな効果である。
カウンターの局面で小松蓮が孤立してしまい、必死に身体を張ったポストプレーでファウルをもらったり、滝裕太が無理な仕掛けをしてロストしてしまうシーンが目立っていたこれまで。サポートに入るべき選手が自由を得たことで、攻撃がうまく回り始めたということである。

それにしても安永玲央がセンセーショナルなデビューだった。
川崎の下部組織育ちらしい正確な止める・蹴るの基礎技術、常時繰り返す首振りとドリブルでの力強い持ち運びは横浜FCの下部組織で培ったものだろうと思わされる。解説者を務めているお父さん譲りか、相手を冷静に分析し、ゲームの流れを読むセンスもある。
そして加入して間もないというにも関わらず、味方に対してパスを要求し、身振り手振りを交えながらポジショニングの修正を求める。そんなメンタルの強さは、中村俊輔・松井大輔・カズなど錚々たる選手とプレーしてきた横浜FCでのプロ経験がもたらしているのかもしれない。
球際での強さは富山でJ3を経験して逞しさが増したのだろうか。

彼のプレーを見ていると、「ああ、これまで経験してきたことが活きているんだろうな」と思わされる点が多くて、ちょっと泣きそうになった。自分ちょろすぎる。

そしてこれは後天的に身につけることは難しいのではと思うのだけど、安永玲央が纏っているカリスマ性にやられてしまったサポーターも多かったはずだ。僕もその一人。
この選手のポテンシャルに賭けてみよう、成長していく姿が見てみたい、この選手を観るためにスタジアムに足を運んでみたい。
プレーだけでそう思わせてくれる、最高に魅力的な選手。

彼のプレーは横浜FCでデビューした頃からちょこちょこ追いかけているが、課題は間違いなく「継続性」
最大出力はJ1でも通用するレベルであると証明しているのだけど、いかんせんシーズンを通してみた時の波が大きくて、定位置を掴みきれない感じ。
ただ、その波も最近は落ち着いてきて、コンスタントに高いパフォーマンスを見せられるようになってきている。
ぜひ松本に家をプレゼントしたくなるような活躍で、チームを引き上げてほしい。


総括

書いていたら安永玲央特集みたいになってしまった。笑
まあそれくらいインパクトが大きかったということで。

スコアも3-0、鈴木国友と渡邉千真にもゴールが生まれ、後半戦に向けて良い締めくくりができたことは間違いない。

あえて課題を挙げるとすれば、八戸がプレッシングを修正してきた後半の振る舞い方。松本がいつもと違う入りをしたので混乱していた前半とは打って変わって、ハーフタイムに修正した八戸のプレスはよくハマっていたし、松本は2列目の選手が降りてきてしまう悪癖が顕在化してしまっていた。
自陣でバッチリプレスをハメられた時に、ピッチ内でどれだけ早く適応できるかは引き続き課題である。このあたりは安永玲央・菊井悠介・喜山康平といった選手たちの腕の見せ所でもある。

先ほど安永玲央の課題として継続性を挙げたが、それは今季の松本も同じ。
良い試合をしたとしても、相手の状況が変わると再び悪い時の自分たちに戻ってしまうサイクルを何度か繰り返してしまっている。当然毎試合相手は変わるし、シーズンが折り返して2周目に入って違う戦い方をしてくるチームも出てくるだろう。そういった時に、いかに相手に惑わされずに自分たちのやるべきサッカーを貫けるか。
この試合の前半のように、相手を無理やりにでも自分たちの土俵に引きずり込むような気迫が見たい。


俺たちは常に挑戦者


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