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【刺すか刺されるか】J3 第28節 松本山雅×藤枝MYFC マッチレビュー

スタメン


2試合未勝利と停滞感が否めない松本は、メンバーに変更を加えてきた。コンディションが万全ではないと思われた横山歩夢は引き続き先発。2トップの相方には数試合不動だったルカオではなく小松蓮を起用。これは対藤枝を考えるとプレッシングが肝になることと、前回対戦で彼自身に良いイメージがあるからだろう。

ベンチメンバーでは、安東輝が負傷離脱から復帰。田中パウロ淳一がベンチ入り、彼も藤枝との前回対戦で好調だった選手、意外とこういったジンクスも気にしているのかも。
他には、ベンチには入らないが住田将が帯同していたとの情報も頂いた。山雅はウォーミングアップ中の負傷などに備えて常に1名帯同させている。

対する藤枝は7試合無敗と絶好調。特にホームでは3連勝中とノッている。
懸念点があすとすれば、不動のボランチ杉田が出場停止であること。その影響もあってか、この試合は中盤逆三角形の3-5-2で臨んできた。

最前線に君臨する渡邉りょうは警戒すべき選手。移籍後10試合連続スタメンで3得点と、数字だけを見ると物足りなく感じるが、彼が出場している試合の成績を見れば存在感は明らかだ。彼が出場した11試合で8勝2分1敗と圧倒的な成績。チームの終盤戦にかけての躍進の原動力になっていることは間違いない。


藤枝の誘いに乗ってはいけない

2試合連続で不甲斐ない戦いをしてしまった記憶を振り払うかのように、立ち上がりからアグレッシブに入った松本。メンタルをしっかりと立て直し、この試合に懸ける気持ちが感じられた。攻守の切り替えが早く、セカンドボールへの反応も良かった。そのため、まずはボールを落ち着かせたい藤枝にペースを握らせることなく、立ち上がり15分ほどはトランジションが頻発するゲーム展開に。欲を言えば、この時間帯に先制点を取りたかった。

しっかりと準備されていたのはメンタル面だけではなくピッチ上での振る舞いも。顕著だったのは守備時にプレッシングを自重していた2トップの動き。ボールの扱いに長けていてチームとして最終ラインからのビルドアップも確立されている藤枝に対して、不用意にプレッシングを掛けるのは悪手。センターバックに多少ボールを持たせたとしても、2トップはアンカーを消すことを強く意識していた。佐藤和弘と菊井悠介は、藤枝のインサイドハーフを監視しつつ、左右のセンターバックの持ち運びを牽制する役目も担っている。ここの絶妙なさじ加減は選手に任されていたと思う。

自重するプレッシング

巧妙な誘い

藤枝が他のチームと決定的に異なるのは、こうしたプレッシングに出てこない相手に対しての解決策を持っていることだろう。プレッシングに出てこないのであれば、出てこざるを得ない、もしくは出てきたくなるような状況を作り出してくる。

キーマンとなるのはGKの内山。最終ラインがボールを持つと、彼はペナルティエリアを出てビルドアップに加わってくる。最も守るべきゴールをガラ空きにする決断は早々できるものではない。ミスったら終わりなのだから。
それでも、内山がビルドアップに加わるメリットは大きい。

まず、内山がビルドアップに加わることで、藤枝の3バックは内山を入れて擬似的に4バックのようになる。左右のセンターバックがタッチラインまで目一杯広がってくるのが一番厄介。なぜなら佐藤和弘と菊井悠介のカバー範囲が広がってしまうからだ。藤枝のインサイドハーフを監視しながら左右のセンターバックにプレスを掛けると言うのは簡単だが、センターバックにタッチライン際に立たれると、移動距離も長くなってしまうので簡単にプレスに出ることもできなくなる。つまりは、佐藤和弘と菊井悠介がこなすべきタスクの難易度がグッと上がってしまうことになる。

難易度が上がるのは2トップも同じで、元々はアンカー河上とセンターバック川島の二人を監視していればよかったのに、監視対象にGK内山も入ってくる。2対2の構図から2対3になってしまうので、「俺って誰を見ればいいんだっけ?」「この場面ってプレス行っていいのかな?」というような迷いを生んでいく。

2トップには藤枝のプレッシングを誘発する仕掛けに乗らず、我慢することが求められていたはずだ。なぜなら、プレッシングを掛ける松本は10人であるのに対して、藤枝はGKを含めて11人でビルドアップしているので、どう考えても勝ち目がないから。出ていけばピッチの何処かでフリーな選手が生まれてしまう。プレッシングに行きたい気持ちを抑えてアンカーを監視し続けるが正解だった。

横山歩夢と小松蓮は、いつもに比べればとても我慢していたと思う。それでも我慢しきれなかった場面があり、彼らの判断ミスがピッチ全体にズレを生んでしまうこともあった。

迷いの生まれるプレッシング

判断ミスが生んだ致命傷

ズレが出てしまった例として17:32~のシーンを取り上げたい。藤枝右サイドのスローインから、鈴木翔太がピッチ中央でボールを持つ。ここに横山歩夢が猛然とプレスを掛け、鈴木が川島に横パスを出すと、呼応するように小松蓮は川島にプレッシング。川島は右サイドの秋山にパスを繋ぐのだが、ここでズレが生じている。菊井悠介がアンカーの河上と秋山の二人を見なければいけなくなっており、迷った末に秋山にプレスを掛ける。秋山は完全フリーとなった河上に難なく繋いでプレスをかいくぐり、ここから藤枝の攻撃はスピードアップ。最終的に松本ペナルティエリア内まで侵入されてしまっている。

まずかったプレッシング

このシーンで言うと、まず横山歩夢はプレスに出ていはいけなかった。彼のプレッシングによって、ドミノ倒しのように小松蓮と菊井悠介もプレスに行かざるを得なくなってしまい、ズレを生んでいる。
こういった場面は今季何度も見られており、横山歩夢が抱える課題のひとつだ。プレスに出るか否かの判断ミスは、特に藤枝のようなチーム相手には致命傷となりかねない。

内山のスペシャリティ

もう一つGK内山がビルドアップに加わるメリットが有る。それは、内山自身がプレスの回避策を持っていることだ。そして並のGKなら出来ない芸当でもある。

それは正確なミドルパス。もっと言えば、プレッシングに出てきた相手の頭上を越す中距離のフィードである。プレスに出てきた相手の戦意を削ぐには最も効果的。だって、勇気を持ってプレスに出ても、自分の頭の上をボールが通って背後の選手へ繋がれてしまうのだから。そんなの出ていくだけ無駄と思ってしまう。

しかも面倒だったのは、藤枝が内山のフィードを組織的に利用しようとしていたこと。内山の個人戦術ではなく、チームとしてビルドアップの仕組みの中に組み込んできていた。

ロングフィードの発動条件になっていたのは、インサイドハーフの最終ライン落ち。頻繁に行っていたのは左インサイドハーフの鈴木淳で、彼が川島の左隣に落ちてきて、左センターバック鈴木翔太をタッチライン際に押し上げる。
インサイドハーフの監視役である佐藤和弘が鈴木淳に付いて出ていくと、内山からタッチライン際でフリーになった鈴木翔太へパスが通される。佐藤和弘は自分の頭上をボールが通って絶望感を味わうことになる。

内山のロングパス

ここまで松本のプレッシングのネガティブな点を書き連ねてきたが、結果的には前半をスコアレスで折り返す。守備が崩壊しなかった要因は、2トップの我慢であったり、インサイドハーフの懸命なカバーリングであったり、最終ラインの身体を張った守備だったり。

粘り強い守備で耐えていたがゆえに、前半に迎えた数回の決定機を仕留めきれなかったのはものすごく悔やまれる。特に小松蓮のラストパスから佐藤和弘が迎えたビックチャンスはモノにしたかった。この場面に関してケチを付けるとすれば、小松蓮のラストパスの精度だと思う。もっと速いパススピードで、もう少し前に出してあげるべきだったかなと。右利きの佐藤和弘が走り込んでダイレクトで合わせやすいような配慮のあるパスが出ていれば、切り替えしてDFのタックルを受けることなくシュートに持ち込めたはずだ。


想定外のアクシデント

決定機を決め切れないというマイナスポイントはありつつも、0-0で推移するという最低限の試合運びを見せていた松本。想定外だったのは大野佑哉の負傷交代だ。このアクシデントによって、名波監督はゲームプランの変更を余儀なくされたはず。

ハーフタイムを除けば1試合で3回しか使えない交代回数を、前半のうちに1回消費してしまうというのは拮抗したゲーム展開を考えると痛い。ベンチメンバーに試合の流れを変えられる選手が多かったことを考えると、おそらく3回の交代機会のうち2回を使って攻撃のギアを上げつつ、リードしたら橋内優也や宮部大己を入れて逃げ切るプランが理想だっただろう。

ところが後半2回しか交代機会がないとなれば、2回とも攻撃のカードを切るのか、1回は守備固めに温めておくのか判断が難しくなる。ハーフタイムにも交代は可能だが、前半の出来を見ている限り、交代が必要な選手はいなかった。むしろ交代することによりバランスが崩れてしまうリスクのほうが大きかっただろう。

さらに追い打ちをかけたのが、パウリーニョの不調だ。この日の彼は普段より運動量が乏しく、守備でもあっさりとかわされてしまう場面が多かった。アンカーを務めるパウリーニョが奪いに行ってかわされてしまうと、残された最終ラインが相手の攻撃をモロに受けることになる。スピードに乗った相手を真正面から止めるのは至難の業で、松本の最終ラインの選手は敏捷性に優れたFWとの相性は良くない。そういった事情から、防波堤としてのアンカーが機能不全になるのは即守備の決壊に繋がるリスクが大きい。名波監督が安東輝の投入を急いだ理由はここにある。

こうして攻撃のカードではなく交代回数を2回使ってしまい、もう3枚替えを敢行するしか手は残っていなかった。


刺すか刺されるか

ここでひとつ疑問が浮かぶ。

なぜ名波監督は、60分の安東輝とセットで攻撃のカードを切らなかったのか?

個人的な回答は、チームのバランスを攻撃に傾けるには早すぎたからだと思っている。
ベンチに控えていた攻撃的なカードは、ルカオ・榎本樹・田中パウロ淳一。たしかに攻撃面でのインパクトは抜群だが、一方で守備に関してはやや課題を抱えている部分も否めない。この日のFWに求められていたのは、プレッシングに行かず我慢するという役割で、3人ともガンガンプレスに出ていきたい選手たちなのでなおのことハードルが高い。

攻撃的なカードを切ることはつまり、守備で綻びを生むリスクが増すことと紙一重。名波監督は、どれくらいの時間なら藤枝ゴールをこじ開けられて、かつ耐久度の下がった守備で耐えきれるかを考え続けていたのだと思う。リスクとメリットを天秤にかけて、収支が合う時間帯を見極めていたはず。

その回答が75分だった。残り時間はアディショナルタイムを含めて20分弱。

たしかに松本は決定機を作った。しかし仕留めきれなかった。
逆に藤枝にも決定機を与えてしまい、決めきられてしまった。

松本が昇格争いをリードしていて、この試合が引き分けでもOKであればゲームプランは全く違うものになっただろう。
しかし松本の置かれている立場は真逆で、勝利が絶対条件だった。

勝利するためには得点が必要で、得点を奪うためには試合のバランスを崩す必要があった。それが失点のリスクを高めるとしてもだ。
まさに、刺すか刺されるかのギリギリの戦いを挑み、競り勝てなかった。

シンプルに実力不足だ。


総括

試合内容は決して悪くなかった。藤枝にボールを握られるのは想定内で、粘り強く対応しながら決定機では上回っていた。だがスコアは0-1。あまりにも厳しい現実を突きつけられることとなった。

昇格争いも佳境を迎えている中で、3試合勝利なし。無得点。
文句のひとつも言いたくなる気持ちはわかる。僕もそうだ。

ただ、まだ6試合も残っている状況で、昇格圏内と勝点差5という状況で、まるで今シーズンが終わってしまったかのような雰囲気には正直嫌気がさす。
名波監督に失格の烙印を押し、今シーズンの責任の所在を探し始めるのはどうかと思う。

まだ可能性が十分残っているのに諦めてしまうのか?
選手たちは諦めていないのに?

最後まで何が起こるかわからない
だからこそサッカーは面白いんじゃないか?

俺達は常に挑戦者
今、最高に挑戦者としてのポジションに立たされているんだから、これ以上に燃えるシチュエーションってある?と思ってしまう。
逆境を楽しんでこそ挑戦者でしょ

サポートする形は様々、負けを消化する方法も様々。
僕は淡々と試合を振り返って敗因を探し、スペースで喋って整理して、最後に文字にすることで自分なりに消化している。

僕は可能性が1%でも残っている限り諦める気はさらさらない。
諦めないことが最大のサポートだと思っているし、信じ続けることが選手の後押しになると考えているから。
100%僕の考えに賛同しろとは思わないけど、ちょっとでも心が揺れた人がいるなら、もう少しだけ懸命に頑張っている選手を監督をチームをクラブを信じてみてほしい。
言いたいことはシーズン終了後に、結果を見ながら言うってのでどうでしょ。


俺達は常に挑戦者

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