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【挑戦者への応援歌】2023 J3第5節 松本山雅×ガイナーレ鳥取 マッチレビュー

スタメン

松本はスタメンを少し変更。不動だった滝裕太をベンチに置き、村越凱光が右ウィングで先発。前節ベンチ外だったパウリーニョが復帰したのは朗報。菊井悠介が左ウィング、鈴木国友がトップ下という布陣を継続して臨む。ベンチには大卒ルーキーの國分龍司が名を連ねておりデビューに期待がかかる。

対する鳥取は、GK糸原が先発に復帰し、戦列を離れていた富樫がいきなりスタメンに入ってきた。共に途中出場ながら2得点を挙げるなど好調を維持している小澤・田村は変わらずベンチスタート。開始からフルスロットルなスタイルは継続しつつ、試合途中からもエネルギーを補充して90分間ハイテンションなサッカーを続けられるメンバーが揃っている。リーグトップの得点力はもちろんのこと、松本のペースが落ちてくる時間帯にギアを上げてくるスタイルは要注意だ。


ボランチが捕まらない問題

試合を通してプレッシングは良かった。2トップが相手のセンターバックに寄せ、ウィングがサイドバックに寄せる、ダブルボランチが相手のボランチを潰すという仕組みも整理されていたと思う。小松蓮がプレッシングのスイッチ役になり、村越凱光や鈴木国友に身振り手振りで指示を出していた姿は印象的だった。

ただ、ハマっていたように見えたプレッシングも、鳥取ならではのポジショニングに苦しめられた箇所があった。まず取り上げたいのはボランチ。鳥取のボランチはボール保持では普光院がやや上がり目、世瀬が下がり目という縦関係になる。特に世瀬はかなり低い位置で配給役を担っており、最終ラインからボールを引き出してターンさせると厄介な存在だった。

松本はボール非保持では4-4-2のようなシステムになるので、鳥取とはガッチリ噛み合うようになる。2トップがGKまでプレッシングをかける勢いで前に出ていくので、鳥取のボランチを捕まえるのは住田将とパウリーニョの役割。スタートは右がパウリーニョ、左が住田将という配置だったので、普光院をパウリーニョが見る形になったのは自然だろう。住田将は世瀬を見なければいけなかったのだが、ここが大変だった。前述の通り世瀬の位置がかなり深いので、3列目から寄せていくのにも距離が遠い。住田将も2トップのプレッシング開始に連動してスタートを切っていたが、物理的に間に合わない場面が多かった。寄せ切れないことで、世瀬にターンされ前を向かれてしまったり、巧みなボディフェイクで逆を突かれて剥がされてしまうこともしばしば。

プレシーズンマッチの神戸戦から感じていたが、今季のプレッシングにおいてボランチのカバー範囲はかなり広い。神戸はアンカーを置くシステムだったこともあり安東輝が大変そうだったが、鳥取も下がり目のボランチはアンカーのような位置だったので住田将が苦しめられた。アンカーを置く相手や意図的に低い位置から組み立てる相手には同様な苦労が待ち構えていそう。とはいえ今季のコンセプトの代名詞である前からのプレッシングを止めるとは思えないので、なにか別の対応が必要になる。
現状のベストプラクティスは、ボール非保持でチーム全体をより縦にコンパクトにすることだろうか。最終ラインがもっと押し上げて、2トップとボランチの距離を縮めていく。思えばYS横浜戦でも、菊井悠介がプレッシングのスイッチを入れる際にボランチ・最終ラインに「もっと連動して押し上げろ!」と激しい身振りで指示を出していた。後ろの選手からしたらキツイことは間違いないしリスクも伴うのだが、勇気を持って数メートルラインを押し上げることがプレッシングの完成度も数段押し上げることに繋がるはずだ。


厄介だった田中恵太

もうひとつ苦しめられたのは田中恵太。攻撃性能が持ち味の選手だけに、常に高い位置を取ってきた。それはもう極端と言っていいくらい高い位置。左サイドの文がバランスを取って自重していたのと対象的だったのはチームとして意図したものだろう。

この位置取りに悩まされていたのは菊井悠介。ボールが逆サイドにある時も大外に張っている田中恵太が気になってしまい、内側にもしぼりきれない。最も迷ったポイントは『俺ってどこまで付いていっていいのだろうか?』だったと思う。なぜなら菊井悠介が田中恵太に付いていってしまうと、かなり低い位置まで守備に戻らされてしまう。攻撃の起点となる菊井悠介が自陣深くまで戻ってしまうと、いざボールを奪ってカウンターを繰り出すタイミングで驚異が半減してしまう。菊井悠介に預けても自陣低い位置だと起点にならないし、FWに預けたとしても距離が遠すぎてサポートに入ることが難しい。なにより、カウンターの局面でフィニッシュまで絡む機会が減ってしまう。

試合後の監督コメントで、鳥取戦のテーマは「まずは奪って速く攻めよう」「奪ってカウンターに行こう」だったと明かされていたので、カウンターの起点となる菊井悠介の位置取りは非常に大事。田中恵太を放置すれば下川陽太が数的不利になってしまうのでマズいが、守備に戻りすぎると攻撃が機能しなくなる。菊井悠介は試合中ずっと迷っていた。

リスクとリターンを天秤に掛けたとして、菊井悠介が戻らざるを得なかったと思う。カウンターの場面では鈴木国友・小松蓮ができるだけ時間を作って菊井悠介の上がりを待つというのが現実的だったか。

唯一気になるのは、菊井悠介が下がることは霜田監督の思想と反しそうなこと。守備のことを第一に考える人ではないと思うし、攻撃のためであれば必要なリスクなのかなと思ったり。ここは監督の頭の中を覗いてみないと分からない。笑


理想と現実の狭間

苦しんだ面もありながら、前半はシュート0本に抑えるなど一定の手応えを得ることができた守備に対して攻撃面では課題が残った。シュート19本(うち枠内14本)を放ちながら無得点に終わった事実が象徴している。決定力が足らないと言ってしまえば簡単だが、それでは何を改善すればよいかしっくりこないのでもう少し噛み砕いてみたい。

個人的には枠内シュート14本を放ちながら、ゴール期待値は2.0にも満たなかった点が気になった。シュート本数に対して期待値が低いという解釈をすると、シュートは打っているが得点への期待が薄い、つまり得点に繋がらなそうなシュートしか打てていないと言える。期待値が薄いシュートとは、遠目からのミドルシュートだったり、角度のない位置からの強引なシュートだったり。

ここから個人的に課題だと思っているのは、シュートに至るまでの崩しの部分。押し込んでいる割に決定機を作り出せていないのでは?という疑問である。
霜田監督の思想に立ち返ると、「得点確率の高いチャンスをなるべく多く前線の選手に供給する仕組みを整え、個人に依存せずどんな相手にも再現できるようになること」が理想であるはず。そう考えると、サイドバックがアーリークロスを上げるという攻撃の形は果たして得点確率が高いと言えるだろうか。おそらく答えはNO。最前線に長身で空中戦に長けたFWがいるなら多少アバウトなクロスを放り込んでも決定機になるだろうが、今季の松本には絶対的な選手はいない。強いて言えば榎本樹が該当するかもしれないが、彼は左ウィングとして計算されている。

キャンプ中からペナルティエリアの左右のスペース、いわゆるポケットを攻略すべくトレーニングを積んできた。なぜならペナルティエリア内まで侵入してグラウンダーのパスを折り返せば、フィニッシャーは押し込むだけ。高い確率で得点に結びつく形を作り出せるからだ。

前置きが長くなってしまったが、鳥取戦でポケットを攻略する形が見られなかった点が個人的な不満ポイントである。そして原因と思わしき部分は、下川陽太の試合後コメントで言及されていた。

――左サイドハーフの菊井選手は中を取る形が多かったですが、そのあたりの連携はいかがでしたか?
中を取ってくれることが多くて、外のレーンを空けてくれるのはありがたいですが、そこにFWが流れてきたりだとか。中のコースというのは相手は締めてくるので、そういうところできょうはすごく距離を感じましたし、入れられそうにもないと思いました。ボランチにつけたとしても相手が後ろや横から来ているので、はめられるパスになってしまうと思って、下げてやり直す選択というのを何回かしていました。それでも状況は変わらなかったので、何が正解だったのか。振り返ってみないとわからないところはあります。

ヤマガプレミアム 試合後選手コメントより

左ウィングに入った菊井悠介との距離が遠すぎて、なおかつ中のコースを締められてしまってパスが出せなかったと言っているが、具体的には下図のようなシーンだろう。菊井悠介は鳥取の最終ラインとボランチの間でフリーになっているが、彼へのパスコースは切られており、下川陽太は孤立してしまっている。苦しくなった下川陽太は後ろに下げるか、強引に縦に突破して苦し紛れにクロスを上げるくらいしか選択肢がなかった。下川陽太や藤谷壮のクロスが引っ掛かっていた点については、たしかにもう少し精度は上がってほしいと思う一方、クロスを上げざるを得ない状態を作っていたチーム全体の問題でもあると思っている。

では、どうすれば良かったのか。下川陽太のコメントにヒントが隠れていると思う。菊井悠介が中に入って空いた外側のレーンをFWが流れてきて使うというアイデアだ。断片しか語られていないが、キャンプでの取り組みや様々なコメントから考えるに理想となる解決策はこんな感じだと思う。

菊井悠介が内側に絞り、空いた外側のレーンに斜めのランニングで鈴木国友が流れてくる。大外で受けた下川陽太は鈴木国友が走り込むスペースへ縦パスを流し込む。鈴木国友が受けるのと連動して、内側に絞っていた菊井悠介はペナルティエリア左のポケットに突撃、鈴木国友からの折り返しをもらって一気に鳥取の最終ラインを攻略する。最後は菊井悠介のラストパスにマークを外した小松蓮が合わせてゲット。

中央から大外へレーンを跨いで流れてくる鈴木国友は4-4の守備ブロックを組む鳥取からすると非常に捕まえにくい。同時に、2列目から最前線に列を跨いで飛び出してくる菊井悠介の動きも捕捉しにくいはずだ。鈴木国友がサイドに流れてセンターバックの注意を釣れていれば尚のこと良い。

この形はあくまで盤面上の話で、実際に相手がいる状態でこんなにうまくいくとは思わない。ただ、試合を通してこういった形にトライする場面も見られなかったのは残念だった。


総括

得点確率の高いチャンスを創出する、そのためにペナルティエリアのポケットを攻略するというチームコンセプトをどれくらいの選手が体現できていただろうか?

今回厳しい論調で書いてきたのは、霜田監督の掲げるチームコンセプトが試合を重ねるごとに見えなくなっている点に危機感を覚えているから。なんなら開幕戦が最も色濃くコンセプトが反映されていたし、シーズンが進むに連れてキャンプの記憶が薄くなり、段々とブレてきてしまっている気がする。

新しいことにチャレンジしようとする時、失敗はつきものだ。

しかも、新しいことを習得するまでの猶予期間は長くない。並行して結果も出さなければならないとなれば、通常の何倍もの速度で歩を進めなければならない。

速く走ろうとすれば転ぶことだってあるだろう。

でも最初のうちはそれでいい。思いっきり走って、盛大に転ぶからこそ得られる学びもあるだろう。転ぶことを恐れて中途半端に走っていては、得られるものも中途半端だ。

長いシーズンを走りきった後、大きな成果を手にするために。
今は思いっきりチャレンジして、何度でも失敗して、諦めずに何度でもトライし続ける姿を見たい。
前向きな挑戦に対して背中を押せる存在でいたいと心から思った試合だった。


俺達は常に挑戦者


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