見出し画像

【二兎を追う者のジレンマ】2023 J3第20節 松本山雅vs愛媛FC マッチレビュー


スタメン

連敗を止めた松本は、前節を体調不良で欠場した小松蓮が復帰。また、得点を挙げるなど好調をアピールした鈴木国友が引き続きスタメンに名を連ね、菊井悠介は今季初めて右サイドからスタートになった。

対する愛媛は6試合無敗(5勝1分)と絶好調。富山・鹿児島にも勝利するなど上位陣にも勝ちを重ねており、首位を走っている。
曽根田、疋田が負傷していることは懸念点だが、層が薄くなった2列目に柏から升掛を補強。戦力は十分に整っている。


主導権を握れた理由

試合序盤から松本がボールを保持して主導権を握る。前回対戦に引き続いて愛媛は2トップがボランチへのパスコースを消しながら、センターバックがボールを持った時にプレッシングのスイッチを入れる形。機動力に優れる2トップ起用だったこともあり、よりプレッシング色の強いふるまいになっていた印象。

対する松本のビルドアップは前節と同じような形。センターバック+ボランチの4枚だけでなく、右サイドバックの藤谷壮も低い位置をとってビルドアップをサポートする。
前節はボランチがターンするか、藤谷壮がドリブルで1枚剥がして突破するか、センターバックから2列目への楔のパスを成功させるか。大きく分けて3つの手段でプレッシングラインを越えようとしていた。
今節の変更点は、メインとなる手段にサイドチェンジが含まれていたこと。代わりにボランチのターンが選択肢から消えていた。それもそのはず、愛媛のプレッシングの構造として松本ボランチには常に誰かが付いており、ターンすることはほぼ不可能だった。

松本が愛媛のプレッシングラインを超えられていた場面の1つが、浮いた常田克人による持ち運び。右サイドでボールを持ったとき、2トップが野々村鷹人と安永玲央を抑えに動き、マークがズレて常田克人が空いている。深堀が安永玲央に付いていく場合は、茂木が気を利かせて常田克人に寄せていくのがセオリーだろう。ただ、下川陽太が高い位置を取っているので茂木は自分の持ち場から離れることができず、フリーになった常田克人がドリブルで持ち運ぶシーンがしばしば見られた。
常田克人は、ドリブルでの持ち運びだけではなく、小松蓮への楔のパスや、滝裕太の裏抜けに合わせるロングフィードなど多彩な選択肢を披露できていて、攻撃の起点として機能していたと思う。左サイドの攻撃がうまく回っていたのは常田克人の貢献が大きい。

司令塔として機能していた常田克人を放置しておくはずもなく、茂木がちゃんと常田克人に寄せていく場面もあった。
ただ、そこは松本側も想定内。今季よく見せているサイドチェンジの出番である。
茂木が常田克人まで出張ってくるということは、愛媛の陣形が全体的に松本右サイドへ偏っているということ。逆サイドには広大なスペースがある。藤谷壮からの大きなサイドチェンジで一気に下川陽太へボールを届け、左サイドを駆け上がるシーンも何度もあった。

こうなると茂木としては安易に常田克人へ寄せることができなくなる。出ていけば下川陽太へサイドチェンジを通されるし、出ていかなければ常田克人から正確なパスが出てくる。相当に厄介だったはずだ。
逆に松本としては左サイドでは優位に立つことができていて、前半作り出したチャンスもほとんどが左サイドが起点だった。


右サイドの機能不全

試合を通して松本が主導権を握っていたことは間違いないが、ところどころでショートカウンターを受けるなど危ない場面もあった。前半特に原因となってしまっていたのが右サイド。
機能不全と言うと言い過ぎ感もあるが、右サイドでのビルドアップを引っ掛けられてカウンターを食らってしまう時はしばしばあった。また、菊井悠介がなかなか良さを発揮できていなかったという点も踏まえて機能はしていなかったかなと思う。

前節も同様だったが、松本のビルドアップにおいてサイドバックが左右非対称になっている。下川陽太は高い位置を取るが、藤谷壮はかなり低い位置まで降りてきてビルドアップに参加する。チームが意図して行っているかはわからない。個人的には、それぞれの選手の個性による自然発生的なものがだと考えている。下川陽太は縦への推進力だったり、とかくサイドで前を向いた時に力を発揮する選手なので、できるだけ高い位置に押し出してサイドライン際で勝負。一方、藤谷壮は自分がボールを触ってなんぼの選手で、低い位置からのビルドアップにも積極的に参加して攻撃の起点になれる。
2試合前の試合後の監督コメントでも「選手の個性を活かしていきたい」というような旨が語られており、前節から必ず高い位置を取らせていたサイドバックが自由に振る舞い出したので、ベンチからも型にはめすぎず自由にやっていいと言われているのかもしれない。

しかし、この試合においては藤谷壮の立ち位置が悪い方に転んでしまっていた。人を捕まえに来ていた愛媛のプレッシングを、むしろ自陣深くまで呼び込む格好になってしまっていたからだ。
藤谷壮・安東輝が下がってくるとき、彼らをマークしている愛媛の選手も一緒に連れてきてしまう。松本自陣右サイドで、野々村鷹人を含めた松本ビルドアップ隊と愛媛のプレッシング隊で3対3のような局面になっていた。当然3人の中でパスを回しても、相手に寄せられているので余裕がないし、自陣深くなのでスペースもない。
野々村鷹人がボールを持った時に危ういシーンがあったのも、右サイドでもパス交換において選手間の距離が近すぎて、じわじわと寄せられていたからである。

野々村鷹人・安東輝・藤谷壮でのビルドアップが詰まった時に脱出口となるのが菊井悠介。右サイドハーフの彼に対して楔のパスを入れるというのがチームの原則となっている。
しかしここでも右サイドのビルドアップが低すぎることが問題になってくる。菊井悠介との距離が遠すぎるのだ。菊井悠介は自分が下がっていくと、ビルドアップに人数を割きすぎて後ろに重たくなってしまうことを理解しているので、我慢して高い位置を取り続けていた。
野々村鷹人や藤谷壮と菊井悠介の距離が遠いので、パスの球足が長くなり、パススピードも落ちてしまう。当然相手も狙いやすくなるので、菊井悠介が受けるときには常に相手を背負った厳しい体勢で受けざるを得なくなり、相手を背負うプレーが得意ではない彼はフリックやワンタッチでの抜け出しなど試行錯誤していた。前半、菊井悠介のところでボールロストする場面が多かったのは、彼のスキル問題ではなく右サイドのビルドアップの構造的な問題である。

右サイドの組み立てからボールロストすると何がまずいかと言うと、前述の通り下川陽太が高い位置を取っている左サイドに展開され、背後のスペースを突かれてしまうリスクが高いからだ。実際に何回もこの形を再現されていた。

右サイドが低い位置でビルドアップすることに関しては、前節効果を発揮していたし、その是非を判断するには早すぎるかも知らない。
気になるのは、リスクマネージメント。選手の個性を活かそうとするあまり、全体の連動性や組織がトレードオフになるのは避けたい。霜田監督も昨季のような個に全振りする戦い方ではなく、あくまでチームとしての枠組みの中で個を活かしたいといったニュアンスだったので大丈夫だと思うが。


ラスト9分

88分に小松蓮のゴラッソで先制すると、松本は篠原弘次郎を投入して守り切る方に舵を切った。しかし、結果としてはアディショナルタイムに石浦にこちらもスーペルゴラッソを沈められてドロー決着。
最終盤の振る舞いについて考えていきたい。

篠原弘次郎を送り出したこと、試合後コメントで守り切りたかったと明言していることから、守備を堅めにいったのは間違いない。
今季の松本を見ていると、要所要所の試合でリードを守り切るような采配を見せている。

特に
・2連敗で迎えたダービー前のFC大阪戦
・昇格のライバル今治とのアウェイ
が顕著だった。

この試合は絶対に落しちゃいけない!というシーズンを占うような一戦ではスタイルを貫くことよりも結果に全振りする傾向にある。

もちろん今節も、後半戦のスタート、首位愛媛を直接叩くチャンス、散々攻め立ててようやくもぎ取ったリード…。と落としたくない要因は多分にあった。

霜田監督の采配には一定理解できるところがある一方で、個人的な感想としては攻め続けて欲しかった。
そもそも今季の松本は自陣でブロックを敷いて守備を固めるような戦い方を想定していない。シーズン中に守備の練習をしたと報道されていた時も、大抵はサイドの1vs1だったり、中盤のセカンドボール争いだったり。クロスに対して跳ね返し続けるトレーニングはあんまりしてないのではないかなと。

今季のスカッドも、現在試合で使われている選手たちも、多くは前向きにプレッシングに行くプレーを好む選手が多い。今季のチーム方針に合わせているのだから当然なんだけども。
選手の嗜好とも若干ズレている気がするし、守り切る戦術は耐え続けるメンタルが大事になってくるが、そういったメンタリティを積み上げてきた選手たちでもなかったりするのでプレーしていてのストレスも大きそう(自分のプレーヤー時代の経験をもとにしたあくまで予想)。

なにより、リードを守り切る戦術は結果を得られないと地獄だ。守り切れれば万々歳だが、追い付かれたり逆転された時に失うものが大きかったりする。野球で言えばクローザー登板させて失点したような感じ。勝利に対する期待値を上げてしまっている分、落差が大きい。

これがもとより守り切ることを信条にしているチームならいざしれず、攻撃的なスタイルを掲げているチームがスポットで守り切ろうとしているので余計にガックリくるところがある気もする。
一時的な落胆だけで済めば良いが、巡り巡って監督不信に繋がるケースを見たことがあるので、攻め続けてリードを広げることで試合をクローズする方が良いのでないかなぁと思う。


総括

非常に悔しさの残る一戦となった。
後半戦の巻き返しに向けて弾みをつけるにはもってこいの試合だったがドロー。

首位を走る愛媛相手に、アウェイで主導権を握り続けてギリギリまで追い詰めたのは誇って良い。新しいスタイルを構築している道半ばということを考えればポジティブな部分だ。
ただ、チームが目指しているのは昇格であり優勝。そう考えると、首位に立つチームと自力で勝点差を詰められるチャンスを逃したのは痛恨に違いない。

今後も後半戦の最初に立て込んでいる上位陣との対戦で芳しい結果が得られないと、早くも昇格レースから脱落する可能性すらゼロではない。

内容は良かったが結果が伴わない試合。

よくある現象をどう評価するか?は、
スタイル構築と昇格という二兎を追っている今季、ここまでもそうだが、今後もずっと付きまとうジレンマになってくるだろう。

1試合で何かを総括することは難しく、全体感のまとめは別記事にて。

シーズン折り返しを迎え、選手の移籍や順位表が気になってくる時期ではあるが、改めてピッチ内に集中し、挑戦する選手を後押ししていきたいと思う。



俺たちは常に挑戦者




筆者のアカウントはこちら↓


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?