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【跳ね返せなかった圧力】2023 J3第22節 松本山雅×カターレ富山 マッチレビュー


スタメン

鳥取に敗れた松本は昇格争い生き残りをかけた上位直接対決3連戦に挑む。初戦の相手は前回対戦で完敗を喫した富山。コンディション不良と思われる安東輝がベンチ外となり、米原秀亮が今季初スタメン。負傷明け練習試合を経由せずにいきなりの先発抜擢となった。他には滝裕太が先発を外れ國分龍司が3試合ぶりのスタメンに名を連ねた。
注目だったのはベンチメンバー。橋内優也・篠原弘次郎とセンターバックが2人入っていたことから、3バックへのシステム変更を視野に入れていると推察された。逃げ切りの5バックになるのか、追いかける展開で苦しい3バックになるのか。

一方の富山は、累積警告で出場停止の大畑に代わって今津がスタメン。またマテウスに代わって吉平がサイドハーフに入っている。好調を維持していた法政大学在学中の特別指定、高橋馨希が前節で負傷してしまったのは痛手。ただ右サイドバックの柳下、直近5試合で4得点の大野など絶好調の選手もおり、チームとして波に乗っているのは間違いない。


ペースを握れた理由

立ち上がりからハイテンションに入った松本がペースを握る。
林堂・今瀬・田川を小松蓮と菊井悠介が追い回し、ビルドアップのサポートに降りてくるA・シルバと碓井には米原秀亮と安永玲央が前に出て行って潰すいつもの形。ハイテンションと書いたのは、米原秀亮・安永玲央のダブルボランチが勢いを持って前に出ていたから。ハイプレスを無駄にするまいという気概が見て取れた。
何本かA・シルバのところで引っ掛けることができていたが、決定機までは持ち込めず。

対する富山は、松本が前から食いついてくることを見てGK田川からロングフィードを蹴って回避するように。大野をメインターゲットとしながら、セカンドボール争いには松岡や吉平も絡んでくることで盤面をひっくり返そうとしていた。

ハイプレス対策としておなじみになった展開なので、松本も織り込み済み。球際の強さと前に出ていく迫力がある安永玲央が潰しの主体となり、米原秀亮は碓井を監視しながらもセカンドボール争いに加勢する役割を担うようになる。特徴的だったのは、田川がボールを持ったときの米原秀亮の振る舞い。前線がハイプレスを掛けた際は碓井まで出ていくが、GK田川にボールが渡りロングボールを蹴るそぶりを見せた瞬間、全力で野々村鷹人や常田克人の近くまで戻ってくる。DAZNにはあまり映っていなかったが、やるべきことを愚直にやり続ける姿勢は素晴らしかった。

対する松本のボール保持について。富山は戦前の予想通りハイプレス。
大野と佐々木でセンターバックにプレッシャーを掛けつつ、松岡と吉平がサイドバックを、碓井とA・シルバでダブルボランチを監視するというシンプルに人を捕まえる形。

プレッシングの強度自体は高かったが、松本はかいくぐって攻め込むことは出来ていた。
というのも、松本のダブルボランチが同サイドに2人寄ってサポートしたり、縦関係を作ってみたりしてプレッシングを撹乱。また、ボランチを経由して大きなサイドチェンジをした時に富山の寄せが間に合わず逆サイドのサイドバックが空くことがしばしばあった。
サイドチェンジ、プレッシングラインを超えるセンターバックからサイドバックへの長いレンジのパスは今季継続して練習している形。藤谷壮がフリーになる場面を作り出すことは出来ていた。

悔やまれるのは、ショートカウンターでも藤谷壮を絡めた右サイドの攻撃でも、決定機らしい決定機を作り出せなかったこと。安永玲央や國分龍司のミドルはあったが、今季目指しているようなペナルティエリアのポケットに侵入して崩し切るまでは至らず。
富山のプレッシングを受け流せていた前半飲水タイムまでに先行できていれば試合の流れは違ったものになっていたはずだ。


変幻自在な富山の修正

後半は守備を整理することができ、自分たちの攻撃ができたところもあり、自分たちの時間でサッカーすることできました。

カターレ富山公式サイト 監督コメントより

守備の整理、すなわちプレッシングに修正を施してきた。コメントでは後半からと書かれていたが、ピッチ上では前半途中から修正されていたように見て取れた。

修正内容を少し具体的に見ていく。
前半は4-4-2の配置のまま押し出してシンプルに対面の人を捕まえる形だったが、下図のように修正。
FW2枚でセンターバックに寄せるのではなく、1枚が内側のパスコースを切って外に誘導しながらプレッシャーを掛け、もう1枚は絞ってきてボランチをマークするというもの。碓井とA・シルバどちらも前に出ていたところから、より機動力に優れたA・シルバを前に押し出して潰し役として振る舞わせ、碓井は中盤の底でバランスを取る役割に専念。言ってしまえば、前線2枚+A・シルバの計3枚で、松本のビルドアップ隊4枚を監視する形に変更してきた。

松本が左サイドから右サイドへ展開するときには、ボランチに付いていたFWが野々村鷹人へ寄せ、代わりに常田克人に寄せていたFWが絞ってくる。前線2人のプレッシングをスイッチに、A・シルバが遊撃部隊のようにボランチまで潰しに来る形。

驚きだったのは試合中の修正とは思えないくらいに機能していたこと。富山の試合をすべて追っているわけではないので見切れていないが、オプションとして仕込まれているのかもしれない。

こうなると苦しくなったのは松本のビルドアップ。ボランチの横移動や縦関係といった崩しが機能しなくなってしまい、最終ラインでパスを回していてもパスコースが見当たらない状況が続く。見かねた鈴木国友や菊井悠介が降りてきて引き出そうとするのだが、1枚余っている碓井のチェックにあって自由にさせてもらえない。守備の形が整理されたことで迷いがなくなった富山の圧力は増すばかり。パスコースを探しながら回す各駅停車のビルドアップが捕まるのは時間の問題だった。

案の定というべきか、無理に通した縦パスや苦し紛れの横パスを引っ掛けられてショートカウンターを受ける場面が頻発。これが単発だったらまだ良かったのだが、富山が尽くシュートで攻撃を完結させ、松本のゴールキックからやり直しになる展開だったのが追い打ちとなった印象。富山が前線からのプレッシングをセットした状態からスタートするので、あっさりと追い込まれてロストしてカウンターという悪循環。ロングボールに逃げようにも、最終ラインから繋ぐために全体が下がっているので小松蓮が孤立して起点を作るまでは至らず。

そんな流れが15分ほど続いた後半21分、ついに時限爆弾が爆発する。
松本が村山智彦から攻撃をやり直し、野々村鷹人→常田克人と横パスを繋ぐ。常田克人から下川陽太へパスを出すと、米原秀亮と鈴木国友がサポートに寄ってくる。ただ、2人ともサポートに来たつもりがマークしている富山の選手を引き連れてきてしまったので狭い局面で3対3という状況を作り出してしまう。下川陽太と米原秀亮が試みたワンツーは松岡に読まれておりインターセプトされると、セカンドボールを拾った大野が持ち込んで右足を一閃。ディフレクションしたボールが吸い込まれ先制を許してしまう。

強烈なプレッシャーを受けてビルドアップが不安定だったので、徐々にパスを繋ぐ距離が近くなっていき、相手も守りやすくなっていく。これが狭い局面で細かくパスを繋ぎプレッシャーをかいくぐっていくようなスタイルのチームであればむしろ好都合なのだろうが、今季の松本はそういったチームではない。あくまでボール保持は試合をコントロールする手段だ。苦しさの中で自分たちが不利な土俵に上がってしまい、余計に首を絞めてしまう展開。

先制を許した後、篠原弘次郎・山本龍平・滝裕太を投入してシステムを3-4-3に変更。おそらくは相手のプレッシングの基準点を乱してビルドアップの優位性を取り戻しつつ、前線に人数をかけて攻めに転じる狙い。
しかし3バックにして試合の流れを変えられたとは言い難い。3バックシステムの練度が高くない上に、富山のプレッシングは柔軟性も高く選手交代で強度も落ちない。攻略の糸口を見つけることすら困難だった。

最終的には、引き続き丁寧にパスを繋いでいきたい選手と、残り時間を考えてロングボールを放り込みたい選手とでピッチ内は混乱。近くに味方が降りてきているのに前線にロングボールを入れるという矛盾した場面が散見されるようになってしまった。

富山を崩しきれず、0-1で敗戦。連敗となった。


総括

手痛い敗戦となった。
この敗戦で昇格圏との勝点差は11に広がり、順位は12位に後退。鹿児島・今治との連戦の結果次第では今シーズンの大きな目標を見失ってしまう可能性すらある。

こと試合内容に目を向けると、明確に富山を上回ったと言える時間帯はなかったように思う。序盤も富山のプレッシングがハマらなかったことに助けられてペースを掴んだものの決定機までは作れず終わっているし、プレッシングを修正されてからは自陣から抜け出すことすら難しくなってしまった。

最近観ていて、色々なことをやろうとしすぎて全部40点くらいの中途半端な状態になってしまっているなぁと思う。

低い守備ブロックを敷いてロングカウンター主体で長く闘ってきたチームに、ハイプレス・ボール保持・攻撃的な姿勢を植え付けてほしい、ただ一年での昇格もマストというのが霜田監督就任時に渡されたオーダー。
もちろん分かった上での就任で、結果が出ていない以上は厳しい評価をせざるを得ないが、前提として相当難しいチャレンジをしているのは間違いない。

オーダーに忠実に、すべてを同時進行で進めてきた結果、どれも完成度が低いまま勝負所を迎えてしまった感じ。

残りシーズンをどう過ごすのか、それはチームもそうだし、フロントの動きからも見えてくるところはあると思うので注目していきたい。

俺たちは常に挑戦者


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