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【苦しい時こそ前を向け】J3第18節 松本山雅×ヴァンラーレ八戸 マッチレビュー

苦しいチーム事情

7月20日に選手4名の新型コロナウイルス陽性判定がリリースされると、22日には選手5名とスタッフ1名の陽性判定リリース、加えてトップチーム活動停止が発表された。その後、選手3名とスタッフ2名の陽性判定が追加リリースされていたので、発表されているだけで選手12名・スタッフ3名の陽性者が出てしまったことになる。

活動停止の期間は、各選手が誰とも接することが出来ない状態で生活らしい。急に決まった活動停止なので、映像を使ったチーム戦術の落とし込みや、個人へのフィードバックをして思考させる時間に充てるということも難しかったはず。リーグ戦の期間中、しかも首位攻防戦を近々控えている中で、何も出来ずじっとしているというのは相当ストレスだったはずだ。

大野佑哉が試合後コメントで触れていたが、陽性判定が出なかった選手たちも決して万全な準備をして臨めたわけではなかった。非常に難しい1週間だったと思う。

個人的な意見になりますが、コンディションのところは言い訳にするつもりはないですが、難しい1週間でした。クラブハウスが使えずケアが受けられないですし、浴室も使えないので交代浴もできませんでした。加えて活動停止の期間もあったので、僕の意見ではありますがコンディションは難しかったですし、他の選手も多かったのではないかなと思います。

ヤマガプレミアム 試合後選手コメント


スタメン

そんな苦しいチーム事情もあって、大幅に選手変更。
前節の福島戦からはスタメン6名が入れ替わった。GKにはプロ初先発となるルーキー神田渉馬、2トップにはユース所属で2種登録されている田中想来が入る。左ウィングバックで輝いていた外山凌を右に回して、住田将を左ウィングバックで起用するというスクランブル体制。

八戸は4連敗中だが、鹿児島戦を見る限り試合内容は悪くなかった。コンパクトな守備やプレッシングの部分では、松本との前回対戦時から明らかに改善されている。メンバーを見ても、守備の要である藤井と攻撃の核である萱沼が戻ってきているのは注目ポイント。


リスクを負わないスタンス

ベストメンバーが揃っていないことに加えて、まとまったトレーニング時間が確保できていないので、選手個々のコンディションはバラバラだったはず。そうなると、今季の松本が目指す強度の高いプレスや、鋭いロングカウンターで仕留める戦い方は難しくなってくる。

プレスのキーマンとなっていたのは菊井悠介で、トップ下・シャドー・サイドハーフどこに配置されても、適切なタイミングでプレスに出てこれる彼の存在は大きかった。2トップでのプレスは大概数的不利になるが、そこを埋めるための役割を彼がこなしてくれていたからである。

ロングカウンターの起点となっていたのは、常田克人と横山歩夢。多少アバウトなボールでも追いついてマイボールにしてしまえる横山歩夢の快速はもちろんのこと、前線のスペースに正確にボールを届けられる常田克人も替えが効かない存在。

この試合では、菊井悠介・常田克人はメンバー外、横山歩夢もコンディション面からかベンチスタートとなった。この3人がピッチ上に揃わないと、松本は翼をもがれてしまっている状態。

苦境を乗り切るために、チームはできる限りリスクを掛けない選択をした。守備時は両ウィングバックを最終ラインまで下げて5-3-2でブロックを組む。両翼が下がってくるので、八戸の4バックに自由にボールを握らせることになったが、そこは切り捨てた部分。2トップと佐藤和弘が頑張ってスライドしながらカバーしていた。

攻撃面でも、ある程度敵陣に入ったらペナルティエリアへアーリークロスを放り込む場面が目立った。名波監督が要求する3バックの両サイド(この日で言えば下川陽太、宮部大己)のオーバーラップはほぼなし。これは選手判断なのかもしれないが、攻撃に厚みを持たせることよりも、選手の配置が崩れてカウンターを防ぎきれないリスクを高く感じたのだろう。

後方からの援護が少ないので、2トップには難しい体勢でボールが回ってくることが多かった。相手を背負いながらのポストプレー、エリア内で数的不利になりながらの競り合い。若い2人には、やや酷な気もしたが、本当によく奮闘してくれていたと思う。


苦境から見えた現状

前提が前提で、戦術的に面白そうな部分が見つからなかったので、少し個人やユニットにフォーカスした話をば。

この日、小松蓮・田中想来・佐藤和弘のプレッシングはすごく良かった。今季リーグ戦で見たユニットの中では最高の出来だったと思う。

小松蓮は常に首を振って周囲の状況を確認し、身振り手振りで他の選手を動かそうという意図も見えた。自分がプレスに出る時に、背後の安東輝に出てこい!と指示を出していたり。相手のビルドアップの流れを把握して、そこに対して自分を含めた選手がどうプレスを掛けたら効果的なのか?。状況把握ができていて、チームとして狙っているプレッシングの形が理解できているからこその指示出しだろう。

田中想来には正直驚かされた。相手のセンターバックに寄せる際に、コースを限定してサイドに誘導。中盤が不利だと思えば、躊躇なくプレスバック。プレッシングでも無謀に出ていくのではなく、あくまでコースを限定するという目的を忠実に遂行していた。
FWの守備というのは一朝一夕で仕込めるものではない。何度も繰り返し練習を積んで来たのだと分かるし、ユースで相当鍛えられているのだろう。
もちろん迷いなくシュートを打つ積極性、両足を遜色なく使える万能性など、攻撃面でも魅力たっぷりなプレーを見せてくれた。

佐藤和弘は流石としか言いようのない渋いプレー。2トップがプレスに出た時に、必ずボランチへのパスコースを消せていた。消し方も、相手にベタつきするのではなく、センターバックとボランチの間に立ってコースを消すというやり方。いわゆる”カバーシャドウ”の動き、”背中で消す”動きがめちゃくちゃ上手い。このプレーはチームでもダントツである。

逆にちょっと気になったのは左センターバック。宮部大己が悪かったというよりは、常田克人がスペシャルな存在だと改めて思ってしまったという話である。ビルドアップの時に、浜崎拓磨が大野佑哉と宮部大己の間に下りてサポートすることが多かったのだけど、これを見て少し納得してしまった。左サイドのパス出しは常田克人ありきで設計されているんだなと。背後に落とすロングフィードも、短距離のパスも然り。

左利きで、短距離も長距離も正確なパスが出せて、狙っているパスコースのセンスも良い。おまけに高さもある。そんな選手がチーム内でスペシャルでないはずがない。

名波監督が作り上げてきた今季のチームは、基本的に守備面で組織的にやりたいことが前提にあって、そこに選手をハメていくような作り方をしている。
ただ、チーム内で替えの効かないスキルを持っている選手は特殊能力枠。横山歩夢・常田克人・菊井悠介あたりが該当すると思っている。
特に攻撃面は、どうしても個人任せになることが多いので、特殊能力を持っている選手に依存しがち。そして特殊能力なので、替えが効かない。

シーズン前半にも常田克人が外れた試合があり、その時にも左サイドのビルドアップが詰まるのは確認していたが、根本的な部分は改善できていなかったようだ。いや、改善の仕様がないので、ボランチを1枚下げることでダメージを軽減していると表現するのが正しいか。

今後もコロナだったり、負傷や出場停止で選手を欠く試合が増えてくるだろう。長いシーズンを戦い抜く上では避けては通れない壁である。その時にどんな回避策を見せられるのかは大事になってくる。


総括

なんかほとんど試合の中身に触れないマッチレビューになってしまった。前提の事情が事情なので、戦術がーとか、xx選手のプレーがーなど言いづらいところは正直ある。ベストな状態だったら、気になることはめっちゃあったけども。

幸いにも、このレビューを書いている時点で、陽性者がさらに増えてしまったりというリリースは出ていない。チーム内での感染拡大には歯止めがかかったということだと思うので、あとは無事にコンディションがもどってくることを祈るばかり。欧州サッカーも追っていると、後遺症に苦しんでシーズンを棒に振ってしまった選手もいたし…。

このタイミングで首位攻防となるいわき戦を迎えるのは本当に苦しい。ただ、チームとして出来ることがはっきりしているので、変な色気は出ないはず。プレー強度勝負に持ち込まれたら苦しくなるので、できるだけボールを取り上げて自分たちのペースに引きずり込みたい。


俺達は常に挑戦者


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