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【ターニングポイント】2023 J3第29節 松本山雅×ヴァンラーレ八戸 マッチレビュー


スタメン

松本は野澤零温がスタメンから外れて、滝裕太が入る。後方から丁寧にビルドアップしていく戦い方の場合、サイドハーフには内側に入ってきてライン間で受ける動きが求められるので、大外に張る野澤零温を活かしきれていなかった。試合途中でのジョーカー不在問題と合わせて、スタメンとサブの役割を入れ替えたということかもしれない。
原因不明で不在だった藤谷壮も復帰している。

対する八戸は、徳島から移籍してきたオリオラサンデーが初先発。上背がありパワーも持っているが、動きはしなやかでスピードもあるというポテンシャル十分の大器。まだまだ粗削りで自由奔放、かつプレースタイルもやや掴みどころのない彼をしっかりと抑えられるかがポイントになりそう。


戦略負け、ただし想定内

この試合を迎えるにあたって、松本が振る舞いを変えるかどうかが注目ポイントだった。米原秀亮と安永玲央のボランチが定着して以降、後方からのビルドアップが安定。野々村鷹人・常田克人の両センターバックに村山智彦を加えて自陣深くから繋いでいくことが多くなっていた。
一方で、前線から圧力を掛けられてボランチを消されたり、ピッチコンディションが万全はない場合には苦戦を強いられる傾向も強くなっていた。顕著に出たのはアウェイFC大阪戦。ピッチコンディションとロングボール主体の戦略に後手を踏み、2点ビハインドを跳ね返せなかった。
八戸戦も状況としてはFC大阪戦に酷似している。ピッチコンディションについては八戸の直近の試合映像を見る限り、大阪より厳しいことが予想された。そういった状況で、丁寧にパスを繋いでいくスタイルを貫くのか。ここが注目だった。

果たして松本はスタイルを曲げなかった。
試合前のコイントスでエンドを変えたのは松本で、自陣がより荒れているピッチを選んだのは謎だったが、その中でもGKを使いながらパスを繋いでいく。どうなったかは想像に難くない。

両センターバックが今季成長した部分として、ボールを受ける前に顔が上がるようになったこと、ボールを受けてからピッチの遠いところを見れるようになったことがあると思う。広い視野を確保して、周囲の状況やパスコースを把握した上でプレーできているので、次のプレーに移るスピードが速くスムーズになった印象。ここは試合を重ねるごとに洗練されてきている。
ところが、この試合ではボールがイレギュラーに跳ねたり途中で止まりそうになったりするので、パスを受ける前にボールから目を切れない。トラップする瞬間まで見ていないと、ミスって相手にかっさらわれてしまうリスクがあるからだ。そうすると必然的に目線は下がり、広い視野を確保することは難しくなってくる。次のパスコースも近くの味方に付けるしかないのだが、他の選手も同じような状況になっているので、近くの味方同士で苦しいパス回しを強いられ、最後は苦し紛れにロングボールを蹴るか一か八かの縦パスを入れてみるしかない。ピッチ上ではそんな悪循環が起こっていたように思う。

攻撃の起点となる小松蓮に良いパスが入らなかったり、久しぶりにスタメンに起用された滝裕太へ楔のパスが刺さらなかったりしたのは、パスの出し手である後方の選手に余裕がなさすぎたからだと考えている。余裕がなくなってしまったのは外的要因が大きいので彼らを責めるのは違うと思うし、容易に予想できた展開だと思うので戦略負けだと思う。

逆に八戸は松本を徹底的に研究して臨んでいた。攻撃のキーマンである菊井悠介にはマンマークをつけ執拗に寄せてきた。菊井悠介はターンやドリブルの持ち運びをするときに、足元からボールが離れる癖があるのだけど、それすらも読まれていてタイミングよくタックルを食らっていた。ここらへんは石崎監督っぽいなと思ったり。
攻撃面においても、松本がプレッシングに出てきた時にロングボールを最終ラインに向けて蹴り込んでセカンドボール争いに持ち込むという一連の流れを用意してきていた。先制点に繋がったシーンはまさにそれ。野々村鷹人が人に強く競りにいった背後のスペースをオリオラサンデーに使われてしまった。


勝利への執念

前半ほぼ良いところなく終わってしまった松本。例え選手を変えたとしても戦略自体を変えないことにはゲームの流れを変えられそうになかった。

後半は割り切ってロングボールを蹴ってこぼれ球を拾って、相手陣地に押し込んで相手陣地でサッカーをやる。相手のペナルティエリアの中にたくさん人やボールを送り込む。不格好ですけども、そういうサッカーをやってそれでも勝点3を取るんだという覚悟をハーフタイムに選手たちに伝えて、選手たちも勝ちたいので愚直にそれをやってくれたので、このような逆転劇に繋がったと思っています。

ヤマガプレミアム 試合後コメント

ここで霜田監督は大きな決断をする。どんなに試合展開が悪くても、どんな相手に対しても自分たちが積み上げてきたスタイルを崩さなかったが、目の前の勝点3を手にするためにスタイルを曲げる決断をしたのだ。

積み上げ・精度向上をずっと追い求めてきた今季の松本にとってものすごく大きなジャッジがハーフタイムに下されたことになる。
個人的には、霜田監督は決断したタイミングがハーフタイムだっただけで、こうなることは試合前から想定はしていたと思う。それでも前半を棒に振るリスクを背負ってスタイルを貫いたのは霜田監督らしいし、今季ここまでの戦い方を踏まえると一定正しいアプローチだったと思っている。
ピッチコンディション等を踏まえた時に、自分たちのスタイルで上回ることが出来ないという実感を選手スタッフ含めて全員が体感した中でのハーフタイムだったからこそ、スムーズに割り切ることができたのかなと。”あえて前半苦しい展開にする”というような手法を取るかはわからないし、深読みし過ぎだと自分でも思っているが、結果論としてはギャンブルに勝った。

割り切ってからも相手を圧倒できた訳では無いが、それでも前半苦しんでいた自陣からのビルドアップを諦めたことで敵陣にボールを運ぶ回数は明らかに増えた。そして数少ないチャンスを決めきって勝利という結果を手にしたのはチームに大きな自信を与えたと思う。もし引き分け・負けていたら…と想像するだけで震えてくるが、「自分たちのスタイルに固執せず、優勝に向けて勝点3を獲得するという強い意志のもと戦い、結果を手にした」という納得感のあるストーリーが描けたのは間違いなくプラスに働くはずだ。


おわりに

勝ったことは間違いなく素晴らしいが、割り切った戦い方に変えたからといって内容面が著しく改善したわけではない点は見逃せない。そもそも前線にロングボールを放り込むようなサッカーは今季想定していないし、当然トレーニングもほとんど積んでいないはず。ある程度サッカーとして成立してしまうのは昨季のやり方が少し残っているのと、選手個々の質がやはり高いのだなと思ったり。

これまではスタイルの噛み合わせが悪い試合でも、柔軟にやりたいけど自分たちのスタイルも曲げてはいけないという葛藤に悩まされているように見えた。窮地に追い込まれて、監督自らがある意味タブーを犯し、絶対ではないということを示したのは大きな転機になるはず。

チームとして戦い方の幅が広がったと見ればポジティブである一方、「積み上げてきたスタイル」という名のもとに選手たちに制限をかけて統一感をだしていた部分もあったので、やれることが増えてチームがばらばらになっていくのは避けたいところ。今一度、プランAがうまくいかないときには誰が意思決定してプランを切り替えるのか、ピッチ内外の司令塔を認識合わせしておいたほうが良さそうだ。

残り9試合。
俺たちの夢はまだ終わらない。


俺たちは常に挑戦者


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