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【へし折られた翼】2023 J3 第10節 松本山雅×AC長野パルセイロ マッチレビュー

スタメン

直近リーグ戦5試合で2勝2敗1分、信州ダービーとなった長野県サッカー選手権大会決勝ではPK戦の末敗れてしまった。相手の松本対策が進む中、チームの調子は思うように上がらない。とはいえ信州ダービーでは言い訳無用。何よりも結果が求められる。1週間前の悪夢を自らの手で振り払うべく敵地に乗り込んだ。

天皇杯からは3枚変更。パウリーニョ・鈴木国友・榎本樹が先発に復帰している。また、ベンチに宮部大己・渡邉千真が帰ってきているのは朗報。一方で天皇杯に続いて藤谷壮と下川陽太というサイドバックの主力がメンバー外になっているのは不安要素である。霜田監督が天皇杯の試合後コメントでサイドバックの人選については口を閉ざしたが、不安が的中してしまった格好だ。

対する長野は現状のベストメンバーに近い布陣。天皇杯に出ていたメンバーはリーグ戦では控えに回っている面々で、池ヶ谷・秋山・宮阪・進と主力がズラッとスタメンに名を連ねる。実質2チーム分の戦力を確保できているところにシュタルフ体制2年目の充実を感じさせる。最も警戒すべきは宮阪だろう。天皇杯ではコーナーキック10本、フリーキック14本を与えており、同じ轍を踏むようなことがあれば失点は時間の問題になる。


天皇杯を経て両チームの変化は?

この試合が単なるリーグ戦の1試合でないと捉えるべき理由として、信州ダービーという特別なエネルギーを持つシチュエーションであることはもちろんのこと、1週間前に対戦していることも大きな要素。互いにある程度の手の内を見せあった中で、どういった対策を施してくるか、また相手が施してくる修正・対策をいかにして上回っていくか。そんな部分にも楽しさを見出すことのできる一戦である。

分かりやすく修正を入れてきたのは長野。特にボール非保持の振る舞いに関して整理をしてきた印象だった。前がかりにプレッシングをかけてくる姿勢は変わらないが、天皇杯よりも効率的かつ組織的な連動を見せる。進・近藤・佐藤・三田の4人でビルドアップを試みる松本の6選手をマークするという仕組みだ。

進と近藤は中央へのパスコースを切りながらセンターバックの2枚に寄せていく。インサイドハーフの三田と佐藤は初期位置を松本のボランチ付近に取ってボランチへのパスを牽制。そこからサイドバックにパスが出るとボランチへのパスコースを背中で消しながら寄せていくという動きをしていた。インサイドハーフが松本のボランチとサイドバックの実質2枚をマークするというハードタスクだが、これが絶妙に機能していたのも事実。

前線の4選手が機動力に優れ、かつ戦術理解・サッカーIQに長けているという特徴ありきのプレッシングであるが、彼らはほとんどの場面で判断を間違えなかった。むしろ松本は2枚も多い人数でパスを回しているのに、パスコースをうまく消されてしまって出しところに困る場面が多かったと思う。松本のビルドアップと長野のプレッシングで成熟度の差が顕著に出てしまった部分と言っていいだろう。

長野の効率的なプレッシング

この「4枚で6枚を監視する」という非常に効率的なプレッシングは、長野に副次的な効果ももたらしていた。それはインターセプトの増加だ。松本の前線4枚を6人でマークすれば良い長野は、マンマークにつけても2選手が余ることになる。この2人は中盤でインターセプトを虎視眈々と狙い続けるスナイパーへと姿を変え、安東輝・パウリーニョ・鈴木国友・菊井悠介といった面々がゴールに背を向けてパスを受けようとした瞬間を息をひそめて待っていた。この試合、やたらとインターセプトされてショートカウンターを受けることが多かった理由の一つはここにある。松本のビルドアップが拙かったのも事実だが、長野にインターセプトしやすい構図を作られていたことも大きな要因だった。

対する松本はどうか。霜田監督のもと新たなスタイルを積み上げている最中であり、たとえ信州ダービーといえどもプロセスの一部であるという考え方にブレはない。特別なことはせず、自分たちが積み上げてきたやり方を少し長野用に整理してきたくらいの変化にとどまった。
具体的には、長野の3バックに対して小松蓮・鈴木国友・菊井悠介の3枚でプレッシングをかけることをルール化。4-4-2でプレッシングかけていた形から、全体をやや右にスライドさせて長野のボール保持の並びに合わせるような修正を入れている。

ただ、長野側からしても松本の振る舞いが大きく変わらないことは想定の範囲内だったはず。プレッシングへの対抗策もしっかりと用意されていた。
前から前からハメにいく松本をGK金のロングボール一発でひっくり返した27分のシーンが象徴的。松本のプレッシングはハマっており、宮阪からGK金に下げさせたところまでは理想に近かった。ただ、金は山本龍平と船橋でミスマッチが起こっている右サイドへ正確なフィードを供給すると、船橋が競り勝ったセカンドボールを長野が拾ってカウンターが発動。決定機まで持ち込まれてしまった。

安東輝とパウリーニョがともにポジションを上げてハメに行っているので、当然中盤はがら空きになってしまう。そこを埋めるのはセンターバックの役割になるのだが、三田・近藤・進が執拗に背後へのランニングを繰り返したこともありラインを上げきれず生まれたスペースを使われてしまった格好だ。これは決して偶然ではなく、ビルドアップが詰まった際の出口として船橋と山本龍平のミスマッチを利用すること、FWが松本の最終ラインをジリジリと押し下げて中盤を間延びさせること、長野が狙って作り出した決定機だ。

前半27分のシーン

松本からすればこの形は直近数試合でずっとやられているものだし、霜田監督からも度々「全体をコンパクトに保つこと」「センターバックが怖がらずにラインを上げて中盤のスペースを埋めること」は要求されていた。要するに自分たちのやるべきことをやれていれば起こり得なかったシーンで、長野がどうこうではなく自分たちが招いた事象である。チームとしての完成度を上げている最中であるというウィークポイントを的確に突いてくるあたり、さすがの嫌らしさ。


自陣からの脱出方法

せっかくプレッシングをかけても、前述のようなロングボールだったり配置の妙でかわされて自陣に押し込まれてしまう場面が時間経過とともに増えていく。前半30分辺りからは本当に松本陳内から抜け出すことすらもできなくなっていた。

ボールを奪った後の松本は、まず小松蓮にボールを預けようとしていたが相手が悪かった。体格差で優る佐古や空中戦に強い秋山を相手にボールをキープして起点を作るのは至難の業で、正直分が悪かったと言わざるをえない。自陣からショートパスを繋ごうにも長野の即時奪回プレッシングを前にミスを連発し、かえってショートカウンターの機会を献上する結果になっていた。

まさに踏んだり蹴ったりという状況だった中で、個人的にはチームがビルドアップにこだわりすぎていたのではないかと懸念している。この試合に限らず、ここ数試合ずっと感じている部分。

思い返してみると、今シーズン始まる時にチームが掲げていた目指すべきサッカーは「前線からハイプレスを仕掛け、クリーンなインターセプトでボールを奪ってショートカウンターを完結させる」というもの。実はビルドアップ・ボール保持とは言っていない。もちろん、試合の流れの中で縦に急ぎすぎると消耗が激しいのでボールを握れる時間があったほうが良いとは考えているが、軸となるのはプレッシングなのだ。
ところがどっこい、中断期間前後からチームはビルドアップに関してなーバスになりすぎており、後ろに重たくなって自陣から抜け出せなくなっている印象。

個人的にやってみてほしかったなと思ったのは、味方をターゲットにするでもなく、とにかく敵陣深くにボールを蹴り込むというもの。自陣でこねこねするのを潔く諦めて、まずは敵陣からプレーを再開するという点にフォーカスすべきだったかなと。大きくボールを蹴り出して相手を背走させている間に最終ラインを数十メートル押し上げて、自分たちが能動的にボールを奪いに行けるような体制を立て直す。プレッシングから始めるために、あえて相手にボールを返すような解決策があっても良かったのかなーと。

いずれにせよ、ちょっとビルドアップの部分に気を遣いすぎているきらいがあるので、もう一度原点に立ち戻ってほしいなと思っている。


ロングボールのご利用は計画的に

そんなこんなで試合の流れは完全に長野に握られながらも、なんとか1点差を維持し続けることで試合の興味を繋ぎ止めていた松本。残念ながら78分の2失点目が試合の行方を決定づけることになってしまった。

ハイライトで抜かれるような失点シーンだけを見ると、村越凱光がマークにつけていないとか、宮部大己がクロスを上げさせているとか、野々村鷹人や安東輝が奪いきれなかったとか原因と思わしき部分は浮かび上がってくる。ただ、正直なところペナルティエリア右で1対2の構図を作られた時点で勝負ありだったと思う。

僕が思うに、この失点に関して大いに反省し見直すべきはもっと前。村越凱光がロングボールを蹴り込んだプレーにある。
正確にはロングボールを蹴ったことが悪いのではなく、チームとしてロングボールを活かせなかった部分に課題があるし、その副作用で失点したと思っている。ロングボールを放り込む、そこにチームとしての意図はあったか?という部分。

ロングボールで中盤を省略するということは、全体が縦に間延びしてしまうことを意味する。このシーンでもロングボールを池ヶ谷に拾われ、反対に秋山から山本大貴にロングボールが入った瞬間にはセカンドボールを拾える位置に松本の選手はいなかった。森川や近藤はいち早くセカンドボールに反応していたし、杉井はスプリントを開始していた。

ただ何となくロングボールを蹴り込んだ松本と、セカンドボールを回収するところまで設計してロングボールを活用していた長野。
2失点目に繋がった一連のプレーは、両チームの間にある大きな差を象徴しているような気がしてならない。


前提のすり合わせは出来ていたか?

内容もスコアも完敗と言っていい一戦を終えて、厳しい言葉が並んでいた。中には霜田監督を解任しろ!との言葉も…。

もちろん、試合内容は全く褒められたものではないし、信州ダービーという特別な意味合いの試合で披露して良い姿ではなかったのは自明だ。僕も心底腹が立っているし、めちゃくちゃ悔しい。

厳しい意見が出るのは当然として、監督解任まで加熱してしてしまっている原因は前提のすり合わせに失敗していたからではないか?と思っている。
ちょくちょく見られたのは、『霜田監督は信州ダービーの重要性を分かっていない』というもの。試合後のコメントで、長野がやってくることは分かっていたが対策をしなかったとか、大事な一戦に負けたのに普段と変わらない温度感の言葉が並んでいたことが拍車をかけてしまったと思っている。

おそらく霜田監督からすれば、もちろん信州ダービーが特別な一戦とは認識しつつ、あくまでチームとクラブが追い求めているのは『J3優勝』であり『J2昇格』という前提でチームづくりをしている。信州ダービーに勝ったとしてJ2昇格を逃すようなことがあれば元も子もない。今は自分たちのスタイルを磨き込んでいる真っ只中で、信州ダービーだからといってわざわざスペシャルな戦術を仕込んだり、ガチガチに長野対策を敷くようなことはしない。むしろ緊張感のある高強度な試合を経験することで、積み上げのスピードが加速すると考えていた節もある。

一方でサポーターからしたら、信州ダービーで連敗は許されないし、天皇杯で負けている以上引き分けすらも受け入れがたい心情だった。J2昇格も必達だし、信州ダービーは負けてはいけない。サポーターとは欲張りな生き物なのである。
そう思っている立場からして、試合後に長野対策をしなかったとか、次頑張るとか言われたら、感情的になる人が出るのも無理はない。

さて、こうして整理してみると、この試合の持つ意味合いについてサポーターと霜田監督の間で少しばかしギャップがあったのではないか?と思えなくもない。少なくとも、勝たないと解任論が出るほどとは考えていなかったのではないか。ここらへんのギャップを上手く埋めたり、無用ないざこざを避けるために事前に認識を揃えておく作業って誰の役割だっけ…?というのが僕が最も気にしている部分。

監督とサポーターが対立して良いことなんてマジでひとつもない。お互いに不信感が募って、スタジアムに微妙な雰囲気が流れて、選手のプレーにも影響するとか最悪すぎるし見たくない。
ただ、今の松本はそんな最悪のスパイラルに片足を突っ込みつつある。
これって未然に防げたくない?まだ何とか手当できるくない?と思っているのは僕だけだろうか…。


総括

偉そうなことを書いている僕自身、もっと出来たことがあったのではないかと悔やんでいる。文句ばっかり言っても仕方ないので、ピッチ上で起こっている事象からチームが前に進んでいる部分・課題として抱えている部分を読み解いて、できるだけ分かりやすく発信できるように精進するだけである。

さて、話をピッチ内に戻すと、思い描いていた中で最悪に近い状態で2週間の中断期間に入ることとなってしまった。少しずつ積み上げてきた自信を失ってもおかしくないような敗戦をいかにして乗り越えるか。
自分たちはまだ何者でもないと改めて自覚し、選んだ道を正解にすべく再び歩を進められるか。
その時、チームを鼓舞し先頭に立っている選手は誰なのか。

新しいスタイルに挑戦しているシーズン、最初の大きな壁にぶつかっている。
乗り越えた先にある大きな成果を信じて、もうしばらく見守っていきたいと思う。


俺達は常に挑戦者


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