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#063 プロマネのお仕事(補遺編3) - 誰を見て仕事するのか

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プロジェクトマネジメントについて書いてきたシリーズも今回で最後。

プロマネには PMBOK という教科書があることはこれまで書いてきたとおりですが、同じ教科書を使ってもプロマネのポリシーによってプロジェクトの進め方は全く違ってきますね、というお話です。

プロジェクトを進める上でジレンマは避けられない

「ジレンマ」とは、2つの選択肢のどちらを選んでも何らかの不利益が発生する状態のことを言います。

例えば、
・プロジェクトの途中で新しい仕様の追加を要求された。 → 仕様を追加すればコストとスケジュールが計画に収まらない。仕様を追加しなければお客さんに嫌な顔をされる。
・納品前のテストで原因不明のバグが発見された。→ 目をつぶって出荷すれば丸く収まるが、後で大きな市場クレームになる可能性がある。バグの究明をしようとすると納期に間に合わない。

といったトラブルは、プロマネさんなら何度となく経験したことがあるでしょう。

こうしたジレンマをどういうポリシーの元に解決していくかで、そのプロマネの良心や矜持(プライド)といったものが問われると思っています。

プロマネは優先順位を自分で判断しないといけない

プロジェクトというのは独自性の高い業務です。ルーチンワークとは違い、それまでの業務の進め方が役に立ちません。
同じ会社で過去に同じような問題があった場合は、それを参考に、「あの時はこうしたから今回もこうしよう」と逃げることもできますが、最近は世の中の変化が激しく、まったく初見の問題に遭遇することも多いでしょう。
結局、自分の判断でAかBかを決めないといけません。そして、自分で決めるということは、その後に起きる事柄に対する責任も自分で負うことになります。

会社生活において、責任を負わされるというのは非常に重いです。特に大企業の場合、いかにその失敗の責任を回避できるかがその後の昇進に大きく影響します。

誰の言うことを優先するか

プロジェクトには様々な人が参加しています。

#053 プロマネのお仕事(本編3) - ステークホルダー・マネジメント(偉い人の本音を聞き出そう)
https://note.com/yukio_tada/n/n48b237793e64

で書いた「ステークホルダー登録書」に名前が載るような影響力の大きい人もいれば、
一緒にプロジェクトを進めていくプロジェクトメンバーや社外の協力業者さんとの関係も重要です。

これらの関係者は、大きく以下の4種類に分けることができます。

(1) 社外のステークホルダー(お客さん)
(2) 社内のステークホルダー(会社の偉い人)
(3) 社外のプロジェクトメンバー(協力業者さん)
(4) 社内のプロジェクトメンバー

私は社会に出てからもう30年近くになりますが、以前は、社内のステークホルダー(会社の偉い人)を一番に考える人が多かったように思いましたし、そういう人が出世していったように思います。
これは、前項で書いたように、こうした方々が自分自身のキャリアを決定することが多かったためではないでしょうか。

しかし、近年この傾向が崩れはじめているように感じています。

特に、最近は (4)のプロジェクトメンバーを中心に考え、上司に無理を言われても自分のプロジェクトのメンバーを守るためであれば、無理なことは無理とはっきり進言するマネージャが増えたように思います。

また、(3)社外のプロジェクトメンバーとの関係を大切にする人も増えてきたように感じています。
その理由としては、社内外の人材流動性が高まり、自分が今所属している会社へのコミットよりも、社外のパートナーとの継続的な関係作りの方が重要視されてきたからではないかと思っています。
この傾向は、これからも拡大していくのではないでしょうか。

もう、単純に上を見て仕事をする時代ではなくなってきたように感じます。

「戦略は組織に従う」ことを意識して、プロマネの知見を事業戦略にフィードバックする

とはいえ、会社の偉い人に対して「それは人が足りないのでできません」と言うばかりでは、さすがに自分の将来が心配です。
しかし、できないことをできると言ってプロジェクトを混乱させるのはもっと問題です。

今の時代、プロマネとしては一体どうふるまうべきなのでしょうか?

その答えの1つとして、

#006 経営戦略を立てる上で SWOT 分析が重要な理由
https://note.com/yukio_tada/n/n9115b0b1becd

から、経営に関するフレームワークを抜き出してみたいと思います。

経営者の視点

上の図の「商品開発」における、ある開発プロジェクトのプロマネを任されたとします。プロマネは、与えられたリソースの中で最大限の成果を出すべく開発業務を進めます。

しかし、上で述べたように、与えられたリソースだけでは期待通りのアウトプットが出せない状況は往々にして発生します。我々は魔法使いではないので、できないことはやっぱりできません。

その場合、1段上の視点に立って、「そのリソースで実現可能な事業戦略は何か」まで立ち戻ることが必要なのではないかと思います。

例えば、技術力が足りなくて差別化戦略がとれないのであれば、
(1) まずは身の丈に合ったフォロワー戦略で市場に参入し、
(2) 並行して技術開発を進め、
(3) 十分な差別化技術の獲得と経験曲線効果が得られたところで本格的に事業拡大を仕掛ける、

などの提言ができれば良いのではないでしょうか?

これは、アンゾフの「組織は戦略に従う」という考え方に他なりません。

#011 日本企業の組織について考える(その4) - アンゾフ「戦略は組織に従う」
https://note.com/yukio_tada/n/nd5339f25a63d

このような提言ができるようになるためには、プロマネは自分のチームの開発だけを見ていれば良いのではなく、マーケティング・販売や技術開発、場合によっては財務や人事戦略にも口を出せる能力が必要になってくると思います。

まとめ。

(1) プロジェクトにはジレンマがつきものです。プロマネは、自分の意思でそれらの事象に優先順位をつけ、自分の責任で意志決定をしていかなければなりません。

(2) 意志決定にあたっては、誰の意向を重要視するかが鍵になってきます。これまでは社内の偉い人の方を見て仕事することが多かったように思いますが、最近は、社内のプロジェクトメンバーや、社外のパートナーとの関係を重視することも増えてきたように思います。

(3) 今後、プロマネとしてこうした状況を上手く解決するためには、一段上の視点から、そのプロジェクトが関わる事業の事業戦略を見直すことのできる能力が必要になってくると思います。そのためには、自分のプロジェクトを管理できるだけでなく、マーケティングや販売、技術開発、財務、人事などの広範な知見が必要です。

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(ここに書かれている内容はいずれも筆者の経験に基づくものではありますが、特定の会社・組織・個人を指しているものではありません。)

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