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#013 ソニーさんが注目している「リカーリングビジネス」とは

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こんにちは。中小企業診断士見習いの多田と申します。

先週 5/21(火)、ソニーさんの2019年度経営方針説明会が開催されました。

Sony Japan | ニュースリリース | ソニー株式会社 2019年度経営方針説明会
https://www.sony.co.jp/SonyInfo/News/Press/201905/19-045/index.html


個人的にとても興味があったので資料を読んでいたのですが、
文中、

音楽:高い市場シェアとライセンス型のリカーリングビジネスモデルで安定した収益の拡大

という一文に書かれていた「リカーリングビジネス」という言葉、恥ずかしながら初見だったので調べてみました。

(ちなみに、上記の絵、本文の内容とは特に関係ありません)

「リカーリングビジネス」とは

「リカーリングビジネス」とは、英語の"Recurring(循環する、繰り返す)"から来ている言葉で、製品売り切り型のビジネスではなく、売った後も、サービスや周辺機器などで継続的に収益を上げるビジネスモデルのことだそうです。

よく知られているところだと、プリンタを売った後トナーやインクで継続的に収益を得るモデルや、一度携帯電話を契約すると、使った通話量に応じて毎月その代金を継続的に支払うモデルなどが該当すると思います。

「サブスクリプション」と「リカーリング」との違い

リカーリングに良く似ている収益モデルに、「サブスクリプション」があります。
サブスクリプションとはもともとは雑誌の年間購読という意味で、ある一定期間定額のお金を支払うことでそのサービスや製品の使用権を買うモデルです。
具体的な例としては、アドビのソフトウェアが使い放題になる Adobe CC、音楽が聞き放題になる Spotify や Amazon Music、雑誌が読み放題になる dマガジン、等があります。

サブスクリプションもリカーリングも定期的・継続的にお金を支払うという点では同じですが、サブスクリプションの方は「一定額」を支払うことで「利用権」を得るモデルで、リカーリングの方は「使った・購入した価値に応じた金額を都度支払う」モデル、という点が違うようです。
(ちなみに、ソニーさんはこのような区別はしていないようです。後述します。)

ソニーさんの考える「リカーリングビジネス」とは

さて、冒頭のソニーさんの経営方針説明会資料に書かれていた、

音楽:高い市場シェアとライセンス型のリカーリングビジネスモデルで安定した収益の拡大

という部分のリカーリングビジネスというのは、おそらく、Apple Music や Spotify、YouTubeなどでのストリーミング配信から得られる収益のことを言っているのだと思います。
以下の資料の76ページには、これら配信業者に支払うロイヤリティを適正化していく、という戦略が説明されていたりします。

プレゼンテーション資料(スライドのみ) [PDF:2.52MB]
https://www.sony.co.jp/SonyInfo/IR/library/presen/strategy/pdf/2019/presen_J.pdf

ただ、ソニーさんの場合、音楽のストリーム配信以外にも様々なリカーリングビジネスをやられているように思います。
・PS4プラットフォームの上で、継続的にゲームソフトを販売する
あたりはすぐに思いつくと思いますが、他にも、
・デジタル一眼カメラαシリーズをプラットフォームとし、Eマウントレンズを売る
といったビジネスもリカーリングビジネスと呼んで良いと思います。

また、今年の CES では、以下のような技術展示・発表もされていました。

Sony Japan | ニュースリリース | 全方位からの音に包まれる新たな音楽体験「360 Reality Audio」を展開 https://www.sony.co.jp/SonyInfo/News/Press/201901/19-002/index.html

こうした新しいフォーマットを提案し、コンテンツの生成から流通、再生環境までを押さえることで、また新しいリカーリングビジネスを生み出すことができるように思います。

ちなみに、以下の記事によると、ソニーさんはサブスクリプション型ビジネスもリカーリングビジネスの一部として捉えられているようです。

ソニー、今期の営業利益5000億円に強気なワケ | NewsInsight
https://biz.news.mynavi.jp/articles/-/891

リカーリング型ビジネスは、保険などの金融ビジネスのほか、ネットワークサービスやテレビチャンネル運営などによる「サブスクリプションモデル」、デジタル一眼カメラのレンズやゲームソフトなどの「追加購入モデル」、音楽制作やテレビ番組制作などの「コンテンツ事業」の3つに大別できるという。

「リカーリングビジネス」に必要なもの

さて、こうしてみていくと、リカーリングビジネスに必要な要素が見えてきます。

(1) 大きなプラットフォーム
継続的にお客さんにお金を払ってもらうためには、そのサービスを支えるプラットフォームが必要です。
音楽なら Apple Music や Spotifyゲームなら PS4 や Nintendo switchカメラならソニーのEマウントやキヤノンの EF マウントなどが代表的なプラットフォームです。
大抵の場合、そのプラットフォーム上で個々のコンテンツやサービス、商品を提供する側より、プラットフォームそれ自体を握っている側の方が力が強くなります。
冒頭でもソニーさんが音楽コンテンツのロイヤリティ交渉を行っていく計画があるという話を取り上げましたが、そのプラットフォームを利用するお客さんが多くなればなるほど、プラットフォーマーに支払うロイヤリティはどうしても高額になります。

(2) 継続的にリリースされる強いコンテンツ
一方、お客さんにとってのそのプラットフォームの魅力は、そのプラットフォームを使う事でどういった体験が可能になるか、で判断されます。人気のある映画・音楽・ゲームソフトを持っているコンテンツプロバイダは、配信プラットフォームに対して強気な交渉が可能になるでしょうし、どのカメラを使うかは、ユーザーの多さももちろんですが、カメラ本体やレンズの性能で選ぶことも多いように思います。

(3) 日々の生活に欠かすことのできないサービス
ちょっと視点を変えると、コンテンツの魅力とは違うところが競争軸になるようなリカーリングビジネスもありそうです。
例えばソニーさんの例で言うと銀行や保険などの金融関連ビジネス。これらも、一度契約したお客さんから継続的に手数料や保険料を受け取ることのできるリカーリングビジネスだと思います。
こうしたビジネスにおいては、プラットフォームの規模(顧客数や保有している資産金額など)やサービスの質ももちろんですが、営業力やブランドイメージであったり、許認可への対応力なども差別化要素になってきそうです。

いずれの場合も、一度成功したプラットフォームを手に入れることができると、継続的に安定的な収益を得ることができるようになります。
今あるプラットフォームが今後どのように変化していくのか、今後どのような新しいプラットフォームが生まれるのか、時代を先読みしてその流れに上手く乗るこのできる経営センスが重要になってきているのだと思います。

「リカーリング」という視点で自社のビジネスを考えてみると、何か新しいビジネスのアイデアが見つかるかもしれません。

まとめ。

(1) 「リカーリングビジネス」とは、売りきりではなく、継続的にサービスや製品の利用料金から収益を上げるビジネスモデルのことです。英語の"Recurring"(繰り返し、循環)といった意味から来ています。
(2) 良く似たモデルに「サブスクリプション」がありますが、サブスクリプションは「一定額」を支払うことで「利用権」を得るモデル、リカーリングは都度それぞれの商品やサービスに対してその対価を支払う、という点が違います。ちなみに、ソニーさんは、サブスクリプションもリカーリングビジネスの一部である、という言葉の使い方をされているようです。
(3) ソニーさんでは、金融ビジネスやテレビチャンネル運営などによる「サブスクリプションモデル」、デジタル一眼カメラのレンズやゲームソフトなどの「追加購入モデル」、音楽制作やテレビ番組制作などの「コンテンツ事業」といったリカーリングビジネスを展開されています。映像機器やオーディオ機器などの売り切り型ビジネスに加え、こういった様々なビジネスを組み合わせることで、経営リスクを下げ、安定した成長を目指すことができます。

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(ここに書かれている内容はいずれも筆者の経験に基づくものではありますが、特定の会社・組織・個人を指しているものではありません。)


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