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映画と写真の近くて遠い関係

94年に銀座ニコンサロンで個展をやったとき、まだ会社勤めをしていたけれど、お客さんが「お兄ちゃんの役に立つかもしれないから」と言い添えて本をくれました。息子が翻訳しているんだよ、と言っていたと思います。
それが「マスターズ・オブ・ライト」で、20世紀の映画を支えた伝説的な撮影監督たちのインタビュー集。これが素晴らしい。


写真にそのまま役立つことは少ないけれど、映像のスペシャリストたちがどんなこだわりを持っているのか、あの名作がどう生まれたのか、インタビューから解き明かしていきます。まず「プロってすげえ」と驚き、自分の好きな映画の秘密が知れることがすごく嬉しかったです。
しかもフィルム時代の伝説の記録としても最高に楽しめます。超おすすめ。


映画のグルメ化

映画を好きになると、たぶんジャンルか俳優を追って掘るようになると思います。サスペンスの名作をまとめて見るとか、イーサン・ホークの映画を順に見ていくとか。
そこで作風のようなものに気づき、監督で見るという新しい視点を持つようになります。ここからちょっとオタクっぽくなりますね、映画のグルメ化が始まる。その
あとで撮影監督というさらなる深みに入ります。

ショーシャンクの空に、をどんなふうに好きになるか考えてみて、今だと「見ずに死ねない名作リスト」などで知ることが多いのでは。海外の有名な映画サイトでもよく一位になっているので、日本だけの人気ではないようです。
ティム・ロビンスが好きで・・・という人は少ないでしょう。こんなに有名で人気がある映画なのに、監督もあまり多くの作品を残していません。
でも撮影監督のロジャー・ディーキンスはハリウッドの生きる伝説。21世紀の最も偉大な撮影監督という記事で、この人の名前がないことは考えられない。バナーになっているレベルの存在。

その映画が面白いかどうかは最後まで見ないとわからないけれど、始まった瞬間にこれなら最後まで楽しめそうというムードがあって、エッセイや小説の最初の一文を読むような感じで、これ好きかもと思わせてくれます。映画のルックとは文体なのだ、と僕が考える理由のひとつ。物語に引き込んでいく。
内容は好みに合わなくても、見終わって嫌な後味は残らないです。シャマランの新作を見るたび「金はともかく時間を返せ」と思い続けている僕ですが、好きな撮影監督の映画だったら内容はスカスカでも最後まで楽しめます。

完璧主義者で知られるデヴィッド・フィンチャーの「セブン」、ダニー・ボイルの「ザ・ビーチ」、今は色々あって微妙かもしれないけれど映画の世界でこの人から声がかかったら断る人はいないと言われたウッディ・アレンの「ミッドナイト・イン・パリ」、ポール・トーマス・アンダーソンがトム・ヨークと作った「ANIMA」、カルト的でありながら高い評価を受けているミヒャエル・ハネケの「ファニー・ゲーム U.S.A.」、プレ「パラサイト」とも呼べる「Okja」、どれも超がつく名作ですが、みんな同じ撮影監督が撮っているってすごくないですか? でも名前をすぐ言える人は少ないのでは。

2016年のCP+だったと思いますが、サンフランシスコで撮った写真を上映しながら、「この旅に向かう飛行機で見た映画がすごく良くて、座席についた小さなモニターの見え具合に悩まされつつ、似たトーンにしようと頑張ってみたんです」と話しました。
その映画が「完全なるチェックメイト」だったのですが、ブラッドフォード・ヤングという撮影監督が撮っていたことと、デジタルとフィルムを使い分けていたことを最近になって知りました。大好きなSF大作「メッセージ」もこの人が撮っているようです。

完全なるチェックメイトの、本国でのトレイラーがこちら。
チェスのルールが全くわからず、世界史が苦手だったから物語の背景もイマイチよくわからなかったけれど、映像は最高で、映画としてもすごく好きです。
このサムネイル映像からして、ティールとオレンジの組み合わせのセンスが!


映画のかっちょいい映像と、かっこいい写真は、どう似ていて何が違うのか

ときどき考えてみることがあります。
最初に書いた94年の頃に「映画みたいな写真だね」と言われたら、間違いなく褒め言葉でした。演出したくらい決まっていてドラマティックだよって意味。
でもそのあとで「映画みたいだ」と写真に言うとき、自然さがなく大袈裟すぎるという批判的な意味を含む時代がやってきます。
いまはシネマティックという言葉で、どちらかといえば褒める使い方が多いのではないでしょうか。そこに悪意はないと感じます。

逆に映画の世界で写真的だと言われる人もいます。さっき名前をあげたロジャー・ディーキンスはプライベートでライカを使うようですし、明らかに写真の構図とレンズ選びから強い影響を受けています。どこで一時停止しても写真として成立するようなタイプ。
ここちょっと掘り下げていく機会があったら楽しそうですね。でも長くなったので、とりあえずここまでに。



最後に、縦位置だけれどシネマティックな写真を一枚。
シネマティックは、ライティングがされたようにドラマティックな写真を指すことが多いけれど、個人的には前後の物語が感じられるような写真もシネマティックだと思っています。
ブレイク・ライブリーやナオミ・ワッツみたいな、超キレイな人が、転落した人生からの再起を描く映画みたいな雰囲気あるのでは。
今の映画だったらカラリストが頑張って、鏡に映った部分だけは外の光の色に近づけるかもしれませんね。

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