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中国の顔認証ユニコーン Megvii Technology #AI銘柄の目論見書 vol.4

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目論見書分析シリーズについて

本シリーズは、起業家向けに海外DeepTech/AIスタートアップの上場目論見書を日本語で簡単にまとめるものになります。事業仮説を立てる際のご参考になれば幸いです。
1~2週間に1回更新予定です。しばらくはアメリカ、中国交互にまとめていきたいと思います。

(*本記事の画像は基本的にMegvii Technology上場目論見書またはMegvii Technology HPからの引用です。日本語表記の図表は筆者が翻訳、一部再構成しています。crunchbaseのリンクはこちら

Megviiについて

世界最大の顔認証技術プラットフォームであるFace++を開発、AI監視カメラを含む顔認証ソリューションを提供しています。2017年時点で5000人以上の容疑者の逮捕に貢献しており、大手配車サービスDiDiの乗客認証にも活用されています。
中国の少数民族に対する人権侵害に加担している企業としてアメリカのブラックリストに登録されていますが、その発端となったレポートを発表したNGO Human Rights Watchは、Face++が使用されている事実は確認できなかったと後に修正しています。
2019年に香港でIPOを申請しましたが、香港当局からの追加精査、米中摩擦、香港でのデモにより中止しています。直近のバリュエーションは$4Bです。(CB insights)

Megviiは中国預託証券(CDR)により、約60億元(約1020億円)の資金調達を行う予定です。253,415,828株のB種普通株式を発行し、転換比率は1株1CDRとなっています。

創業者

創業者3人は清華大学トップクラスの学生が集うコンピュータサイエンスクラス「姚班」のクラスメイトで、全員エンジニア人材です。

印奇(取締役会長、CEO)
清華大学コンピュータサイエンス学士号取得
コロンビア大学コンピュータセンシング修士号取得
2016年Forbes Asia「30 innovators under 30」
2018年MIT Technology Review「Innovators under 35」
2019年世界経済フォーラム「ヤング・グローバル・リーダー」
唐文斌(CTO)
清華大学コンピュータサイエンス(知識工学グループ)の修士号取得
Google Chinaエンジニア、Microsoft Research Asia研究員インターンを経験2005年中国国内のNational Olympiad in Informaticsで金メダルを獲得
2011 European Conference on Machine Learning and Principles and Practice of Knowledge Discovery in Databases最優秀学生賞を受賞
杨沐(上級副社長)
清華大学工学修士号取得。
2007年国際情報技術オリンピックで金メダルを獲得

コア技術

顔認証プラットフォーム「Face++」

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Face++は、Megviiが開発した画像認識オープンプラットフォームであり、画像による顔認識、文字認識、データ解析などの機能が利用可能です。サードパーティーがAPIを接続し自社の製品やサービスに組み込むことも可能です。

AIプラットフォーム「Brain++」
Brain++は、独自アルゴリズム、強力なマシンパワー、データ統合機能を併せ持つAIインフラストラクチャです。 MegviiはBrain++をベースに、プロダクト群を構築しています。
特にBrain++の中核をなす深層学習フレームワーク「MegEngine」はMegviiが独自開発したものです。(GoogleのTensorFlowやFaceBookのPytorchと同じイメージ)

プロダクト

コンシューマー向けIoT事業(2012年開始)

モバイル・ターミナル・ソリューション
1)顔認証、指紋認証によるロック解除、決済ソリューション
-SDKの形でスマートフォンメーカーに提供
2)写真高画質化ソリューション
-スマートフォンメーカーから出荷台数に応じたライセンス料を受け取る
クラウド型SaaSソリューション
-Face++(上記「コア技術」参照)及び美容ソリューションを提供
-基本的にAPIで提供しており、サービスコール数に応じて課金

都市IoT事業(2015年開始)

都市空間全体のデジタルデータ化・管理を行います。2020年末時点で国内の100以上の都市、10以上の国と地域で導入実績があります。「都市」「建物」2つのオペレーションシステムを開発。それぞれのレイヤーでデジタルツインを作成します。両者は統一されたデータモデルを用いて、監視カメラなどのセンサー端末やエッジデバイスへのアクセスと管理を行い、データの一元保存、管理、分析を行います。

スマートシティ事業(昆仑)

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-路上営業、違法駐車、ゴミの放置、違法屋外広告、車の荷重積載、公共施設の破損などの問題をリアルタイムに発見、報告
-公共の監視、容疑者の追跡など。2017年時点で5000人以上の容疑者の逮捕に貢献
-交通量の計測、予測、対応の提案などを行う

スマートビルディング事業(盘古)

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-オフィスビルのカードレス入館、エレベータアルゴリズムの最適化。
-人や車両の識別による施設への侵入者の特定などを行う。
-銀行でのオフライン本人確認業務。

サプライチェーンIoT事業(2017年開始)

AI物流オペレーティングシステム「河图」を立ち上げ、AMR(自立協働)ロボット、SLAMナビゲーションの無人フォークリフト、AIスタッカーなどのハードウェアを自社開発してきました。2020年末時点で約30のパートナーと100件ほどのプロジェクトを行なっています。
特徴は、データをもとにワークフローのデジタルツインを作成し、高度なシュミレーションを実施できる点、シュミレーションにより導かれた最適オペレーションを実行するソフト/ハードをソリューションとして提供できる点です。

スマート物流・倉庫ソリューション

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-自動格納システムソリューション(倉庫の空間利用率の最適化)
-ピッキングシステムソリューション(ロボット(AGV/AMR)の群知能化を実現し、ピッキング作業の効率を最大化)
-自動搬送システム ソリューション(入庫・出庫・保管からコンベヤラインまでのトータルソリューションを開発し、柔軟で効率的な自動化オペレーションを実現)
-自動仕分けシステムソリューション(店頭や倉庫での迅速な仕分けを実現)
-AI画像認識システムソリューション(文字、バーコード、体積、数量、損傷などの情報を取得して、商品のチェーン全体のデジタル管理を実現)

スマートインダストリーソリューション
ーインテリジェント品質検査システムー
AI画像認識ソリューションにより、製造ライン上の不良品を検出します。検査結果を元に自動で原因を追跡し、リアルタイムにフィードバックするとともに、AIプラットフォームを通じて散在するデータを集約し、意思決定を支援します。
従来課題であったネガティブデータが少ないという点に対しては、データオーグメンテーション技術を活用して合成学習データを拡張することで克服し、学習データ作成のコストを削減します。 
不良品の漏出率と誤検出率は1%未満まで抑えられています。

特徴と成長戦略

ローンチ時系列

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サービス展開の流れ
-コア技術である画像認識技術を磨き込む
-ソフトウェアのみによる精度向上の限界を認識し、ハード(カメラ)に進出。ソリューションとしての精度向上と利用機会の拡大を目指す
-各ハード機器から取得したデータを統合し管理するプラットフォームを形成
-データ取得、プラットフォームでの処理、ハードによる作業実行を一気通貫で提供
-ハードの内製化を進め、原価低減、AI最適化されたハードの開発体制を整備

都市IoTではパブリックセクターとのPoCを通じてノウハウを蓄積しました。一方、サプライチェーンIoTではハードを含めたスマートファクトリーソリューションを提供する会社を買収し、自社の画像認識技術を載せて競争力を高める形で参入しました。

Face++でホリゾンタルに展開後、事業機会(都市・物流)を発見、バーティカル展開
画像認識技術とオペレーションシステムに求められるケイパビリティは大幅に異なります。前者は創業事業であるFace++であり、後者はBrain++及びその上に構築された管理システムです。後者の開発は深層学習フレームワークを独自開発するほど注力され、積極的な投資が行われていました。(研究費内訳では「プラットフォームとアルゴリズムの基礎研究費」が別立てで計上されている)

AI・ソフトウェアに最適化されたハードウェアの開発
AIの能力とソフトウェアの特性を最大限発揮できるハードウェア製品を開発し、ソリューションとして販売しています。ソリューションはセンサーモジュール、センサー端末やエッジデバイス、ロボットやオートメーション機器などから構成されています。2018年にはロジスティクス倉庫向けインテリジェントロボットを開発するBeijing Ares Robot Technologyを買収しました。

販売モデル

Megviiの販売モデルは直販となっています。2020年には販売代理店と連携した販売を試験的に開始しました。上位取引先にSierが入っている点も特徴です。 目論見書に記載された報告期間にわたり、販売費における人件費が毎年2,3倍のペースで拡大しており、シニアセールス担当者の採用にも注力しています。

研究開発費の配分

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クラウド(Face++のSaaS提供)の投資額が特に大きく伸びています。また、プラットフォームに関する基礎研究に対する投資も事業とは別立てで計上されています。

調達資金の使途

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IPOで調達した約60億元(約1020億円)により上記投資を計画しています。
特に、センサーR&Dプロジェクトは、データ取得精度の改善に留まらず、Megviiの使用するネットワーク帯域幅の改善までも対象としています。

市場環境

中国のコンピュータービジョン市場規模(単位:億元)

市場

中国のコンピュータービジョン市場構成

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中国Computer Vision市場のアプリケーション別シェア(2019年)

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2019年、国内のコンピュータービジョンアプリケーションの市場シェアは、SenseTime、Megvii、CLOUDWALK、YITU Technologyの4社が51.40%を占めています。

中国国内AI企業の研究開発費比較

無題のプレゼンテーション (25)

Intellifusion:画像認識アルゴリズム、ビッグデータプラットフォーム等を提供
YITU Technology:顔認識、画像認識、等を活用したセキュリティ製品を提供
CLOUDWALK:画像認識アルゴリズム、ビッグデータプラットフォームを提供
Cambricon:AIチップ設計、販売を行う
Goodix:タッチスクリーンコントローラ、 指紋認証チップを提供
ArcSoft:イメージングソフトウェアを提供

Cambrionについてはこちらをご覧ください。

財務と株価等

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-ハードを含むパッケージソリューションの提供が拡大したため、粗利率が低下しています。
-販管費、研究開発費は共に過半が人件費となっています。
-営業利益と税引前純利益が大きく異なる理由は、過去発行した転換型償還可能優先株式によるものです。ご参考↓

原価内訳

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2018年は、売上の急拡大、新規事業(サプライチェーンIoT)の開始に伴い、より多くのサポートデータやソフトウェアが必要になったことから、アウトソーシング費用の金額と割合が上昇しました。 2019年以降、プロジェクト経験数の増加に伴いソフトやデータの自給率が上昇し、アウトソーシング割合が低下しています。

売上構成

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持分比率上位株主

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過去資金調達

無題のプレゼンテーション (26)

Crunchbaseより筆者作成

参考記事

以上Megviiでした。

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