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医療はお気持ちでは成り立たない

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、医療現場は深刻な状況を迎えています。

そんな中で入ってくる話題は

・現場で働く医療従事者を励まし感謝する言葉

・各々事情はわからないですがそこから退く方への批判

・新型コロナウイルスを恐るあまり、医療従事者やその家族へ向けられる差別や偏見

・不安や恐怖に煽られての受診行動の変化

・各所から注意喚起を受けながらも自分とは関係ないと無関心な人への批判

・若者が感染拡大を助長しているという決めつけ

・経済活動の活性化を促すことと感染拡大の関係について

挙げきれない様々なものがあります。

挙げた中で特徴的なのが恐怖とそれに基づく本能的な、動物的な攻撃性ではないでしょうか。

人間も動物です。未知のものに対して恐怖を感じ防衛本能を最大限働かせることは動物としては理にかなったものです。
防衛本能を全開にしても追いつかない場合、無関心に転じる場合もあります。

ですが、身を守るための防衛本能が、対峙する相手を間違えているのではないかと思う話題が多いと私は思うわけです。

身を守るために対峙すべきは新型コロナウイルス感染症。

目に見えないものを相手に身を守ろうとして、既知のものを攻撃するのはお門違いです。
医療従事者やその家族へ対しての差別や嫌がらせは、「怖いから」といって許されるものではありません。

攻撃対象を間違えないで欲しいと強く思います。

いったん立ち止まって、【本来の自分はこんな事する人間だろうか】と考えてみてほしいのです。
今は非日常の恐怖がそばにあり本能で行動しがちだと肝に銘じて、日常であった頃の自分の姿をどうか少しでも思い出してください。

緊急事態宣言がでた事があるように、今は【非常時】なのです。

今すべきは、ひとり一人ができる「感染予防対策」。

「ひとからうつらない、ひとへうつさない」です。

これだけ感染が拡大していますし、無症状の方も多いので、大げさでなく誰もが感染していると思って行動することを心がけてほしいのです。

また「友達の知り合いが言っていたこと」や「試験管の中で見られた現象」に食いつかず、信頼できる情報を得て予防に努めましょう。

医療現場や介護に携わる方々は慎重に行動しています。

医療に携わっていなくても、健康優良児と言われていたあなたも、家から出ないから関係ないやと思っているひとも、ぜひ厚生労働省の新型コロナウイルス感染症の予防に関するHPを確認してみてください。

見て損はありません。

不安になっていることや気になることが書かれているかもしれません。何より、又聞きの話よりしっかりと根拠のある対策が具体的に書かれています。

知ることは1つの安心材料になりますので、ぜひ正しく怖がる人になってください。

今回話題にしたいと思っているのは標題にした通りです。
先程挙げ連ねた中で見られる、医療従事者への相反する反応です。

医療従事者に感謝する言葉と相反する、差別だとか退職することへの批判。同じ人達が相反する言葉を発しているかどうかはわかりません。ですが全く被らないということも無いでしょう。

SNSで見かけた看護師が退職するというニュースへのコメントには【看護師なんて大した仕事もしていないくせに】【医療への気持ちはそんなものなのか】というものがあり、たくさんの人が同意の意を示していました。

看護師なんて大した仕事もしていないくせに??

みんな看護師の仕事がどんなものなのか知っているのでしょうか??

患者さんから見れば、血圧を測ったり、点滴や注射をしたり、診察の前に問診をしたり、具合の悪そうな患者さんに声をかけて個別に対応したり、呼び止められて対応したり、医師の診察の介助をしたり、事務処理をしたり、クレーム対応したり……

って!充分大変でしょ!!

何人の患者さんに対応してると思ってるんでしょう。

実際、看護学を学んでみるとイメージは大きく変わります。私も看護学生になり学ぶようになって初めて奥深いことを知りました。
小学入学頃から病院に定期通院していたプロ患者でしたが、傍から見ていてもわからないのです。

これは看護師に限らないことだとは思います。
どの専門職も傍で見て何をどう考え行動してるかなんてわかりません。

看護学に興味を持たれた方はまず、ナイチンゲール著「看護覚書」を手にとって見てみてください(実際学生時代に使ったと記憶しているものをリンクづけしています)。
ナイチンゲールはお気持ちで看護をしてはいません。ナイチンゲールは統計学者でもあり、統計学を用いた手法でクリミア戦争で感染症を予防し、細かな洞察から看護実践を行った現代看護の母です。

看護師は患者さんと一番近くで長く接する仕事をしています。入院患者さんは24時間交代制で間に空白がないよう看護します。
入院生活の細々とした介助、医療行為、そして重要なのがその介助や医療行為の中での患者さんに変化がないかの観察です。

入院しているということは何がしかの病気の治療をしているわけですから、様々な合併症のリスクがあります。

入院生活の中で「患者さんのいつもと何か違う」をいち早く見つけて、経過を見るのかすぐ様医師に報告しないと命に関わるのかを見定め行動することは看護師にしかできません。

それは学校で学んできた知識だけでは到底対応できるものではなく、働く診療科毎に専門的な勉強をし、その科独自の観察眼を磨くだけではなく、全身を見ます。

普段から医療行為にミスがないようダブルチェック、必要ならばトリプルチェックもして、人・物(薬剤や処置)・経路(静脈注射なのか筋肉注射なのか、経口経腸なのかなど)・方法等々、細心の注意を払い、複数の患者さんの対応をします。

病院では、感染症に対しては元より感染症対策を行っています。今回の新型コロナウイルス感染症に限ったことではなく、院内感染を起こさないよう大きな病院には感染症対策委員会もあります。

感染症対策は、
ウイスル陽性者や保菌者を隔離することが行われますが、それ以外にも隔離が必要な場合があります。
無菌室やクリーンルームという言葉を聞いたことがありますか?感染症に弱い免疫が低下している患者さんを守るための部屋です。

このどちらとも、入室や退室のルールが事細かに決められており、患者さんを守り、感染拡大を防ぐためにそれに従って慎重に医療従事者は行動します。

感染症を持ち込んだら大変なことになる、感染症を運んだら大変なことになる、こういう緊張状態が普段の業務に更に上乗せされ、緊張状態も高まります。

普段からかなりの緊張状態で医療従事者は働いていますので、そこに新型コロナウイルスへの対策が重なり、更には感染拡大に伴い重症肺炎の患者さんが次々に入院してくるという事態です。

医師不足、看護師不足で、それまで勤務していた科とは異なる重症肺炎の方、人工呼吸器の患者さんをみることになれば、今までの専門性では対応しきれません。
状態が安定し退院を目標とした患者さんが中心に入院している療養病床を受け持っていたなら、命が危ぶまれる人工呼吸器をつけた患者さんをみることがすんなりできない場合もあります。

人工呼吸器の見方がわからないから、見たことがない、触ったことがない看護師はたくさんいると思います。

この緊張状態の中で、また人手不足でゆっくり休むこともできず、気晴らしに外出することや家族と合うことまでもが危険を伴うならば自ずと自粛するでしょう。

慣れない仕事の中で、いつ終息するかのめども立たず、自粛で孤立し、自分自身も常に感染のリスクがつきまとう中で、
心身の体調を崩して働けなくなることや、動けなくなる前に辞めようとすることがそんなに悪いことでしょうか?

ひとり暮らしの方だけでなく、家族と暮らしている方もいらっしゃいます。家族の身を案じることは自然な感情でしょう。

医師を含め看護師や医療従事者は出来高制で働いているわけではありません。
どんなに大変でも給料として金銭で大変なことが評価される仕事ではないんです。

コロナ禍においては、病院経営の赤字化(国からの保障がないのか大変疑問に思います)の影響から、給与削減、ボーナスもなし、というところも多くあると聞きます。

通常業務の外科・整形外科病棟で働いていたときでさえ、ろくに休憩も取れず、ごはんさえ食べる暇もなく低血糖になって倒れる寸前まで(血糖値40台は危険な数値ですがそんなでした)になったことは一度ではありませんし、

連続日勤中家に帰って、コンビニのお弁当を食べながら寝てしまっても、朝起きてまた日勤に行く日々もある程でした。

その上乗せが新型コロナウイルス感染症への対応なのですから、その勤務の中で過労死が出ているのではないかと大変危惧しています。

そんな状況で頑張ってきたけれど、もう続けられないと退職する看護師をどうして責められましょうか。

心配した家族から働くことを辞めるよう強く希望されて退職した方も沢山いるだろうと推測されます。
働いてる身内の看護師の身体を案じたのか、それとも風評被害により傷つけられたのかは不明ですが、それも十分にありえるでしょう。

命がけて働いている、働いてきた病院関係者を責めたり蔑むようなことはやめませんか?

あなたも看護を受けてきたのではありませんか?
もしまだだとしても一生涯関わらないということはまずありません。

たくさんのストレスや責任を抱え、危険を承知で今尚医療に関わってくださっている方にもっと配慮を。

また、忘れていけないのは
人には職業を自由に選ぶ権利があるということです。

退職するからといって、ひとに批判されるようなことは何もないのです。

人の命に関わることを専門知識と技術と経験を駆使しながら、自らも危険な状況に身を起き仕事をしている医療関係者はプロの職業人です。

ボランティア精神や博愛精神で患者さんや自分達の命は守れません。

いつまでも奉仕の精神を強要する考えは如何なものでしょう。これは立派な悪習です。

できるだけ早期の新型コロナウイルス感染症の終息と、治療や介護に関わり危険に見をおいている方々の身の安全と、仕事内容や量に見合うだけの報酬が支払われることを切に願っております。

皆様どうぞご自愛くださいませ。

※12/8 読みづらい部分や言い間違いなどを修正しました。

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