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【歯並び日記③左側の抜歯】

新年度が始まった。
我が家では、夫の異動、私の開業準備(超絶マイペースでまだ影も形もない)、子どもたちの進級にあわただしい4月。
誰よりもブルーな顔をしていたのは夫。
目をかけてくれる上司に恵まれて、今回の異動なのだけど。
新しい部署は休みがとりにくい上に、休日出勤上等!長時間残業上等!な雰囲気が濃厚なところらしく。
どうなる夫、どうなる我が家。そんな春。
だけど。なるようにしかならない。起こることことすべてに意味がある。
そう言い聞かせて今日もみんなを送り出す。

【3月末 抜歯】
前回のカウンセリングのあと、私の心は揺れていた。
なんだかやる気にはなったけど、本当に踏み切ってしまってよいのだろうか。このお金は子どもたちに必要な時に使った方が良いのではないか?主に経済的な理由で盛大な揺り戻しが生じていた。
この期に及んでぐじぐじ・ぐずぐず言っている最高に面倒くさい私に、夫の一言が効いた。
「やると決めたら最後までやりきってみたら。その代わり、今度はマウスピース作った時のように途中で投げ出せないよ」
はい。その通り。今、歯列矯正をやめたら「やっておけばよかった」と一生後悔することは目に見えている。
今までやりたかったことに取り組むチャンスがあり、パートナーも賛成してくれている。感謝して前に進もうではないか。

こうして、私は抜歯当日を迎えた。
右からいきますか?とたずねられて、私は「左からで」と答えた。
右は犬歯が内側に引っ込んでいてただでさえ歯抜けフェイス。さらにその奥の小臼歯を抜いてひと月近く過ごすのはリスキー。目立ちにくい左から、という算段だ。

10時ぴったりに名前を呼ばれる。
ガーゼにしみこませた薬を歯茎にあてること数分。麻酔の注射、うがい。追加の麻酔。上の歯から抜く。
ぐぎぐぎ、ちょっと左右にふって、ぐぐんとあっさり抜けた。
下の歯は少し手間取る。ぐぎぎ、ぐぎぎ、ぎごぎご、ごごん。
ガーゼを詰め込み終了。
歯を記念にもらって帰ることに。根が長い。健康な歯を抜くことの間抜けさを思いしばし沈黙(ガーゼ噛んでいるのでそもそも沈黙)。
受付にて鎮痛剤と抗生剤を渡される。
ここで時計を見る。10時15分。驚異の早さだ。
帰宅後ガーゼをとりかえる。真っ赤。まだまだ血が出てくるので新しいガーゼを噛む。同じく支給されたもの。

11時。1時間経ち、麻酔が弱くなってきたのか、上下ともに痛痒さらしきものを感知。まだ耐えられるレベル。鎮痛剤を飲むか迷う。
迷った末に飲んだ。
唇の左半分の感覚はまだはるか天空の城にあるよう。
新しいガーゼにとりかえる。出血は減っている。鏡にはぽっかりと赤い穴が映っている。早く傷が癒えますように落ち着きますように。南無。
そして時間はランチタイム。お昼に何を食べようか、いや、何なら食べられるのか思案。

そうこうしているうちに鎮痛剤が効いてきて楽に。
12時30分。お昼ご飯に困る。おにぎりと昨晩の残りのからあげとエビフライを前に沈黙(ガーゼはもう噛んでいない)。お腹は空いているというのに、怖くて食べられない(メニューが悪すぎる)。
ぽっかり空いた傷跡に米粒がダイブするイメージが拭えない。まだ麻酔も完全にはとれていない。しばしがまんすることに。

15時。空腹に耐えかねてサラダのレタスを右頬にそっと送り込む。右だけで噛むことに成功。痛みもない。でも米粒だけは食べる気になれない。

16時。子どもたちのおやつのポテチを食べてみる。前歯で少量削りとって、右だけで噛む。広がるスッパムーチョの味、最高。傷口にはひとかけらも刺さることなく、一枚を食べきることができた。無意識にスッパを唾液でふやかしていたようだ。我が口腔内本能、ポテチの鋭利さを制す。
そこで気がつく。まともな食事をとり損ねていたため、抗生剤を飲むタイミングを完全に逃していた。夕食後に飲もうと決意。

18時。痛み止めの効果は切れているはずなのだが、鈍痛なし。おなかが空いた。
このあと、右の頬は(右ばかりで咀嚼するため)筋肉痛になるのだけど、特段患部の痛みもなく、追加で鎮痛剤を飲む機会はやってこなかった。
こうして、抜歯初日をのりきった。さらに数日で傷口も徐々に落ち着いた。抗生剤はきちんと飲み切った。
まずは一歩前進。

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