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犬の威張り合い

犬の威張り合い
 
 我が家のソラ(犬)は犬が嫌いだ。
自分も犬なのにだ。

 犬を見かけては激しく吠え、
そのたびに私は
「すみません」と謝ったり
それ以上迷惑にならないように
足早にその場を立ち去る。

 まだソラが幼い頃ドッグトレーナーさんに相談したが、どうも治らないらしい。
ドッグトレーナーさんもお手上げ状態だった。

 他の犬と仲良くなれないのはもう慣れっこで、お散歩もなるべく他の犬さん達とかち合わない時間にしている。

 なのにである。
敵は突然やってくる。

 いつも通りの川沿いの散歩道。
小高い丘の上にある家の庭に中型犬くらいの黒い犬がいた。

 黒い犬はいち早く私たちの存在に気付き
既に戦闘態勢でかなり唸っていた。
そして繋がれていないらしくて縦横無尽に激しく駆け回り
「俺のテリトリーに何入ってきてやがる!」
と言わんばかりに唸っている。
ソラはパニックだ。
今まで自分から先に吠える事はあっても、お利口な犬が多いこの地域ではあまり吠えられる経験がない。

 ソラは震えていた。
しかし彼の名誉にかけて
この戦いは負けられないのである。

「ここ一帯では俺が一番強いんだぞ!」

ソラも震えながら唸り始めた。
しかし両者吠えることもなく
ずっと唸っているのだ。

 いつもなら犬同士喧嘩になりそうになると
足早にその場を離れようとする私は、
唸りながら一向に喧嘩が始まらない2匹をみて
思わず笑いがこみ上げてきて
「ププッ」と笑った。
そうしたら川沿いのベンチで座りながら
一部始終を見ていたお爺さんも
「ププッ」と笑った。

 私とお爺さん2人が「ププッ」と笑うものだから、2匹は拍子抜けした顔をしていた。

 そのうち、笑われているのがバツが悪いと思ったのか、2匹ともそそくさと威張り合いをやめてしまった。

なんだか悪い事をした。

 あれは男同士(相手の性別は分からないが)のプライドを賭けた戦いであったはず。それを笑ってしまい本当に悪い事をした。
彼らのプライドを深く傷つけてしまったに違いない。

 でも、もしシリアスな場面に出くわしたら「ププッ」とまでいかなくても、人間もニッコリするだけでも場の空気が変わって争い事が起きないのかな、なんて考えたりした。

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