見出し画像

音楽劇「ライムライト」観劇感想

 こんにちは、雪乃です。今日はシアタークリエで「ライムライト」を観てきました。今年シアタークリエ行くの何回目……?

 今回が3回目の上演となる「ライムライト」ですが、私は今年が初「ライムライト」です。原作はチャップリンの同名映画ですが、映画で予習はせずに舞台を観ました。

 「ライムライト」はミュージカルではなく「音楽劇」と銘打たれているだけあって、主役は音楽よりも芝居、という感じ。しかし原作でチャップリン自らが手がけた「エターナリー(テリーのテーマ)」や「いわしの歌」「Spring Song」などの楽曲と、荻野清子先生作曲による舞台版のためのオリジナル曲が、時に歌として、時に劇伴として見事に芝居と溶け合い、ミュージカルとはまた違う、濃密で繊細な「音楽劇」の世界に浸ることができました。

 ヒロインのテリーがバレリーナということもあって、劇中劇のバレエシークエンスはテリーのソロもパ・ド・ドゥもあり見応えがありました。「ナビレラ」の時も思ったけど、やっぱりバレエ観るの好きだな~!

 初演、再演に引き続き老芸人カルヴェロを演じるのは石丸幹二さん。舞台で拝見するのは「スカーレットピンパーネル」以来7年ぶりです。「仮面ライダーガッチャード」を見ているのであまり久しぶり感がないのですが、家でスカピンのプログラムを確認して「石丸さん最後に舞台で見たの7年前?!」と驚いております。
 かつて劇場を沸かせた人気の喜劇役者だったもののトラブルから人気を失い、酒浸りの生活を送るカルヴェロ。名声を失い、人生の終わりに向かいつつある、それでもなお舞台陣としての本能や渇望を身体が、魂が覚えている──まばゆくて儚くて、でもどうしようもないくらい人間らしい。一人の人間の生涯を愛おしく思える、最高のカルヴェロでした。
 あとやっぱり声が好きすぎる……。名曲「エターナリー」はもちろんのこと、舞台版限定の締めとして使われた「You are the song」が石丸さんの深く真摯な声にぴったりで。この曲はカルヴェロ最後の舞台のアンコールのシーンで歌われるのですが、この曲を歌っている間、カルヴェロの衣装の袖に縫い付けられたスパンコールが舞台の照明を受けてキラキラと輝くんですよ。それがもう、カルヴェロの、舞台人としての最後の命の輝きのように思えて。命を削りきった瞬間の輝き。今年ハマりにハマったミュージカル「CROSS ROAD」のパガニーニの人生最後の1曲とも重なって、それはそれはもう泣きました。
 物語のラストシーン、スターになったテリーが舞台で照明を浴びて踊る姿を眺めながら人生の幕を閉じたカルヴェロ。人生の最後に照明と喝采を浴びたカルヴェロが、テリーという新たなスターに、舞台の輝き──ライムライトを引き継いで終わる。舞台人から舞台人への継承の物語としても美しい結び方でした。

 ヒロインのテリーを演じたのは朝月希和さん。トゥシューズを履いて踊るバレエシークエンスも、しなやかで純粋な歌声も、芯の通ったお芝居もすべてが素晴らしかったです。
 テリーは姉が自分にバレエを続けさせるために街娼をしていたことにショックを受けて足が動かなくなり、ガス自殺を図ります。そんな折りカルヴェロに助けられたところでカルヴェロと出会うのですが、カルヴェロに助け出された直後の、深い絶望に染まった声からテリーの台詞が始まるのが印象的でした。そんなテリーがカルヴェロの励ましで生きる力を取り戻すと、次第に声も絶望から希望に染まっていく。そんな声の変化が素晴らしかったです。再び踊ることができるようになりプリマとなった彼女がカルヴェロに求婚した、その根底にある感情は何なのか──感謝や尊敬といった感情を描写しながらもどこかに余白を残しているのも良かったなぁ。

 テリーがかつて思いを寄せ、やがてスターとなったテリーと再会する作曲家のネヴィルを演じるのは太田基裕さん。1幕の「テリーとネヴィル」の時点でめちゃめちゃ良い声すぎて心を掴まれました。また太田さんはネヴィル役の他に新聞売り役もされているのですが、この新聞売りは第一次世界大戦へと突き進んでいく劇中の世界情勢を観客へと伝える役割を担っています。そんな新聞売り役と同じ役者が、第一次世界大戦で徴兵される若者の役も演じる。この配役が、ネヴィルのような若者が戦争に飲み込まれていくことの重みをより際立たせていたように思います。

 カルヴェロが住むフラットの大家であるオルソップ夫人役が保坂知寿さんだったのですが、1幕冒頭の「ロンドンの夕暮れ」というナンバーがとにかく素晴らしくて、もっと歌声を聞きたかった……!
 保坂さんの歌声は「コーラスライン」のヴァルや「夢から醒めた夢」のピコ、「キャッツ」のジェリーロラム/グリドルボーンなど音源では何度も聞いているのですが、実は生で聞くことができたのは今作と「ヴェローナの二紳士」の2作品だけ。もっと歌を聴きたかったな~と思いつつも、今作で聞けて嬉しかったです。
 あとカジモドとエスメラルダが共演していることにこの感想を書きながら気づきました。石丸さんと保坂さんといったら映画の「ノートルダムの鐘」のカジモドとエスメラルダだよ!!!現地で気づきたかった!!!大好きな映画なのに!
 「ノートルダムの鐘」から時を経て、この2人の息ぴったりのコミカルなやりとりが観られて楽しかったです。

 劇中バレエ「コロンビーヌの死」では、テリーが死の床にあるコロンビーヌを、カルヴェロがそこに寄り添い彼女を笑わせようとする道化師を演じています。しかし一転、カルヴェロに最期のときが迫ると、テリーが彼に寄り添い、そして人生という舞台から消えゆく彼に踊る姿を見せる。劇中劇と劇中で、カルヴェロとテリーの立場が反転するのも興味深い演出でした。

 驚いたのがカーテンコール。ラストシーンでカルヴェロが息を引き取った後音もなく照明が消え、舞台セットもそのままに、音もなくカーテンコールが始まる。果たしてどこまでが舞台という虚構で、どこからが現実なのか?「舞台」そのものを題材としているからこそ、虚構と現実の境界線をおぼろげにする演出に、一瞬脳の動きが停止しました。どこまでが……物語だったんですか……?

 カルヴェロが喜劇役者ということもあってか笑うシーンもたくさんあり、最後は泣きながら笑っていた気がします。喜劇も悲劇も、おかしみもかなしみも、すべてがないませになったそんな混沌すらも飲み込み、美しく輝かせ、時に愚かしさすら愛おしく思わせることこそが舞台の世界の魅力を詰め込んだ音楽劇「ライムライト」。最高の人間讃歌であり、舞台人讃歌であり、舞台讃歌でした。

 音楽劇「ライムライト」、今年観ることができて良かったです!楽しかった!

 本日もお付き合いいただきありがとうございました。

この記事が参加している募集