「舞台 灼熱カバディ」観劇感想

 こんにちは、雪乃です。今日は「舞台 灼熱カバディ」を観に行っておりました。取り急ぎファーストインプレッションを語っておこうと思います。めちゃくちゃネタバレしてますのでご注意ください。

 いや〜〜めちゃくちゃ良かった。「灼熱カバディ」はまず原作自体が大好きな作品でアニメも見ていて、そして「灼熱カバディ」きっかけでリアルカバディの試合も見にいくようになったのですが、それを踏まえてもなおめちゃくちゃ良い舞台でした。

 原作のセリフ量の多さとカバディという競技が持つスピーディーさの取り合わせには相当心を砕かれたんだろうな、ということが分かる演出。いかにして漫画の中にしか存在しない、漫画ならではのカバディを3次元に引き出すかに重点が置かれていて、すごく見応えのあるものに仕上がっていました。

 そしてカバステはアンサンブルがいないので、プリンシパルを演じるキャスト陣がめちゃくちゃバイトのお役をされていたりしてます。まるでレミゼのようなバイト率。本役以外ですと、伴くんの小学校時代の同級生を演じていた室屋くんと栄ちゃんに細かな芝居心を感じてグッときました。奏和高校のシーンでは奏和の1年生を能京高校のキャストがそのまま演じているというカオスな状況だったのですが、演劇ならではの遊び心を感じました。

 演出面で注目したいのが、なんといってもカバディの表現。特に王城さんの使う「カウンター」をこの目で、かつ生身の人間の肉体を通して見られたことは、「灼熱カバディ」を舞台化する大きな意義であったと思います。
 カウンターは現実世界のリアルカバディには存在しない、「灼熱カバディ」世界のカバディにしか存在しない技。人間の呼吸のタイミングを利用して自分よりも体の大きい選手を倒すというものなのですが、受ける側のアクションを生身の人間で行うことにより、より一層わかりやすくなっていました。

 とりあえずキャスト別感想を。

 まずは宵越!我らが不倒です。ちゃんと生主しているところから始まって一安心。やっぱりナイトエンドあっての宵越ですから。
 宵越の独白では感情を爆発させる傍らで、誰かと関わるシーンでは、宵越が抱く人と関わることに対する恐れすら含んだ繊細を感じさせるお芝居がすごく素敵。漫画上ではテクストとして、文字として心の声として表現されるモノローグは実際に声に出されることによって、より「灼熱カバディ」の主題である「再獲得」を際立たせていました。「バカみてーに喜ぶためにやってんだ!!」は燃え上がる炎がそのまま声になったような、圧巻の熱さ。真っ直ぐで愛おしくて熱くて尊敬できる宵越はやっぱり最高の主人公です。
 練習試合では宵越がルールの解説役を担ってくれるのですが、王城さんの方を振り返って確認するところも可愛かったです。

 畦道くん!まずオープニングでの跳躍が凄まじまかったです。跳ぶ高さ、明らかにやばくない?? 生身だよね??
 舞台上では台詞回しも動きもキャントも「畦道相馬」でしかなかったので、カテコで改めて拝見したらガチの美青年がいて驚きました。ギャップがすごい。
 原作の太陽のような明るさはそのままに、生身の肉体を獲得して舞台上を駆ける姿は爽快感の塊でした。弾けるような笑顔に、体温を感じさせるお芝居にはとても求心力があり、宵越をカバディの世界に引き込むと同時に、観客を「灼熱カバディ」の世界へと誘ってくれる不思議な力をお持ちでした。
 冒頭で着ているTシャツにちゃんと「窯元 畦道」の文字が入っていてテンションが上がりました。

 王城さん!!!!超絶良かったです!!!もう王城さんでしかなかった。座ってるときの姿勢とかサイズ感とかも含めてめちゃくちゃ「王城正人」なんですよ。完全に「王城正人」が目の前にいて感動しました。
 王城さん役の高崎さんの何がすごいって、とにかく舞台が締まる。登場シーンでは退院したばかりでふんわりしたところもあるのに、もう出るだけで舞台が締まる。そして台詞を発すれば芝居が締まる。さすが我らが部長。最強。物語の形を整える巧さがひたすらにすごくて。宵越にレイドを託すシーンを始めとした、手の表現もすごく細やかで良かったです。
 「芝居が締まる」というとやや曖昧な表現になってしまうかもしれませんが、王城さんが登場するだけで、なんていうか物語の密度が高まるんですよ。リアリティを伴った温度を全体の芝居に持たせつつ、「灼熱カバディ」らしさの解像度も上げてくれる。この王城さんだからこそ、終盤まで物語を信頼して観ることができました。
 レイドも、あの重心を低くする瞬間の動きがもう王城正人すぎるんですよ。重さはないながらも深いレイドを表現する、キレのある身体表現も印象深いです。
 試合シーンでは、「カバディへの愛の違いだ」という名台詞ももちろん登場。アニメだとこの台詞は、カバディへの愛ばかりか独占欲すら滲ませた狂気を感じさせるアプローチのお芝居だったのですが、舞台だとまた違ったニュアンスで見ることができて良かったです。レイダーとして、カバディ選手としての誇りと意地。それらを究極的に研ぎ澄ませたゆえに現れる、高潔な本能。これぞ王城正人だ、という王城さんでした。
 舞台版王城さんは魔王というより獣の一面をより色濃く押し出していた印象なのですが、普段のふんわりした王城さんからレイダーになっていく流れに一切の切れ目が見えなくてすごかったです。王城さんの持つ穏やかな側面も、苛烈なまでの愛も、すべてを内包した素晴らしい「王城正人」でした。試合が始まる前に気合を入れるシーンはアニメでカットされてしまったのですが、舞台だとちゃんと入っていて嬉しかったです。

 井浦さん。泣いた。原作からアニメに舞台と、私井浦さんに何回泣かされるんだろう。
 そもそもビジュアルが出た時点で顔が井浦慶すぎて楽しみだったんですけど、どんな表情をしても完璧に井浦慶でした。シンプルに顔面の作画が武蔵野先生のタッチに近いものがあり、ビジュアルの再現度が圧倒的。
 宵越をカバディ部に入部させるために色々やってるときの悪魔感がすごい。しかし舞台版井浦慶の真価が発揮されるのは過去のシーン。原作の神回・168話にも繋がる、中学生時代のエピソードです。カバディ初心者ながらあっという間に2軍を抜き去り1軍へ行った六弦さん。海外遠征へ旅立つ1軍を見送る2軍メンバー。
 ……ここが舞台上で、奏和との練習試合終盤にも繋がっていきます。
 試合終盤、六弦のレイドを止めにいく井浦。「カバディが楽しい」という感情もちゃんと持っていて、でもあのとき1軍を見送ったときの記憶は脳裏に焼き付いていて、だからこそ彼はカバディを続け、学び、そしてまた何があっても選手であり続けた。ここのシーンの井浦さんはアンティなのですが、見せる意地や本能は間違いなく原作168話で描かれた、井浦慶というレイダーのそれでした。
 井浦さんが六弦さんを止めに行くシーンで飛行機の音が入るのが、本当に粋な演出。あの飛行機を見送るシーンが彼の後の人生にどれほど影響を与えたのかが、飛行機の音から分かる。「先輩」でも「副部長」でも「王城の友人」でもない、1人のカバディ選手としての井浦慶の姿が痛いほど胸に刺さって号泣しました。あの日見上げるしかなかった青空を蹴破るような叫びが凄まじかったです。
 練習試合のタイムアウトで王城さんが攻撃に出るのを止めるシーンもすごく良かったです。宵越入部に至るまでの悪魔っぷりが板につきすぎているからこそ響く、井浦さんの熱さ。ここで、原作とは違って王城さんが井浦さんの手を取る描写があるんですよ。ここがすっごい良くて。2人が積み重ねてきた時間を、短い時間でぎゅっと凝縮して確かに感じさせるシーンでした。

 水澄くん&伊達くん!脳京の守備の要で、セットで登場することが多くて嬉しかったです。欲を言えば、やっぱり2人が1年生のときのシーンも見たかった!!!原作の時系列でいえば1年生のときのシーンは練習試合の後なので仕方ないっちゃそうなんですけど、このシーンは生身の肉体で見たかったです。
 2人とも髪型の再現度が高すぎる。冒頭の学ランを着ている水澄くんの程よいやんちゃな感じも好きですが、宵越たちの前で見せる姿はちゃんと先輩でした。軽やかなイケボも水澄くんらしくて好きだし、伊達くんの低音ボイスは伊達くんそのもの。この2人で見たいシーンが多すぎるので、切実にカバステ続いてほしい……。

 そして要所要所で登場した1年生3人。人見ちゃん、関くん、伴くん。人見ちゃんはナチュラルにピンク髪が似合いすぎる圧倒的美少年。優勝。原作でもツッコミ役を担っていることもあり、ギャグシーンも安定感があってバランスの良い人見ちゃんでした。関くんは抜群のコメディセンスで笑いを取りまくっていたし、とにかく振り切った芝居心が素敵。伴くんは、かつて宵越に憧れを抱いたシーンをやってくれて嬉しかったです。あのシーンの伴くんは、もうキャラではなく「伴伸賢」という人間が存在していました。どの方も解像度の高いキャラクター像を限られたシーンで拝見することができて楽しかったです。

 続いて、奏和高校。

 六弦さん。重みを感じさせるレイドもアンティもさることながら、彼もまた揺らぎを持つ人間であり、そしてまだ高校生であることを感じさせてくれる六弦さんでした。強豪校の部長を務めるに足る圧倒的な説得力。その一方で、中学生時代のシーンでは「六弦歩、そういうとこだぞ……」ってなります。中学生時代の王城さんとの1対1のカバディは、2人のプレイスタイルの違いが明確に出ていて。あのシーンは短いながらも、生身の肉体が入ることによって一層プレイヤーとしての輪郭は明確になっていて、とにかくあのシーンを入れてくれてありがとうございますの気持ちでいっぱいです。

 高谷煉。顔がいい〜〜〜!!!!顔面の強さが完全に「高谷煉」そのものでした。どう見ても「高谷煉」でした。本当にありがとうございました。
 高谷煉らしさは顔だけでなく、言動すべてで表現されていました。試合シーンは楽しそうなんですけど、その「楽しそう」な表現の中にも確かに燃えるものが感じられて。高谷らしくカバディに本気で向き合っていることが明確にわかって、すごく信頼できる高谷煉でした。敵味方問わず、誰かと関わるときに見せる無邪気さは、彼の純粋さや透明さゆえ。「高谷煉」であること、「高谷煉」を演じる芝居に嘘がなく、一貫性を持った高谷でした。高谷といえばレイドに入るときに自分の脈を感じながら敵陣に向かう癖が印象的なのですが、このときの指の角度に至るまで原作を完璧に再現されていてすごかったです。

 木崎先輩!!!等身大の高校生らしく、そして何より原作だと奏和戦のファイブレイドで描かれた一面まで見せてくださって、すごく良かったです。六弦さんとの間で見せる同期らしさも好き。
 室屋くんは、とにかくフィジカルが凄すぎました。ガチの選手かと思った。アンティをしているときの重心の取り方や足の動きが、本当にカバディの動きなんですよ。芝居がベースにあるカバディではなく、リアルな競技カバディそのもの。マジでカバディやってほしい。アクロバットも見応えがありました。てかパンフレット見たらモンスターボックス世界記録保持者って書いてあって驚きました。フィジカル激強じゃん……。カバディしてほしい(2回目)。
 栄ちゃん、アニメでも舞台でも変わらぬ美少年感。ふわふわした髪の揺れ具合まで栄ちゃんだったんですよ。原作だと3年生と奔放な同期(高谷)との板挟みになっている栄ちゃんらしいナチュラルなお芝居も素敵。

 そして演出的なところも書いておこうと思います。

 私は「灼熱カバディ」で好きなのが、リプライズ的な演出。19話「STRUGGLE」が、168話「STRUGGLE2」に繋がっていたり、7話「灼熱の世界」と176話「燃える世界」対称性を持った台詞を持っていたり。驚異のロングパスによって描かれる、まるでミュージカルのリプライズような演出が本当に好きなんです。

 カバステで驚いたのが、このリプライズ的な演出をやってくれたこと。宵越の「この燃える世界は、気持ちがいいんだ。」という台詞のリプライズなるのが、原作だと「この灼熱が、俺の世界だ!!!」になるのですが、さすがにここまでは舞台ではできません。その上でリプライズにどこの台詞を持ってきたのかというと、「最後は勝って、バカみてーに喜ぶためにやってんだ!!!」のコマの台詞。リプライズ的な演出を、原作とは異なる台詞を使いながらもきっちり押さえたところには思わず唸りました。このリプライズの巧さによって、宵越がスポーツの世界に戻ってくる「再獲得」の物語がより明確になっていたと思います。

 原作でのもう一つの重要なリプライズはやはり19話からの168話。舞台だと井浦さんが1軍を見送るシーンを試合から完全に独立させたことによりここが原作19話に当たるシーンの伏線としてうまく機能していました。何よりあの飛行機の音を入れる演出がが本当に好き。井浦慶を演じた岩崎悠雅さんの熱演が素晴らしかったのはもちろんのこと、演出も含めて原作168話に匹敵するレベルの感動を生み出していました。マジで168話をマンガワンでリアルタイムで読んだときと同じくらい泣きました。このシーン、実は嗚咽がヤバくてあんまり見えてなかったことが悔やまれます。

 「灼熱カバディ」の主題は「戻ってくる」ことだと思っています。そしてこの「戻ってくる」という主題が、カバディの持つ自分の陣地に戻ってくることで初めて点を獲得できるというルールと共鳴することで生まれるドラマこそが最大の魅力です。
 「戻ってくる」のは、宵越がカバディを通じてスポーツの世界に戻ってくるのもしそうだし、一度は怪我で入院していた王城さんがコートに戻ってくることにも当てはまります。井浦さんがレイダーとしての本能に立ち返ってファイブレイドに持ち込んだのも「戻ってくる」ドラマと言えるし、最近の展開だとヴィハーンはまさしく「戻ってくる」物語。
 カバステは、そんな「戻ってくる」ことをすごく大事にしてくれていた印象です。それは、物語を締め括るのが、カバディ部への入部を決意し宵越の前に現れた伴くんの「お帰りなさい」という台詞であることに象徴されていました。あの終わり方、すごく好きです。

 語っておきたいのが試合のシーン。この練習試合、原作を読んだりアニメを見たりしていれば結果は知った状態で観るわけじゃないですか。この試合で勝つのは奏和だということを知りつつ観るんです。実際どんな感じなんだろうな、と思ってたんですよ。
 実際に観たら、試合展開にハラハラするのはもちろんのこと、すごく胸を抉られるような思いがしました。
 勝って欲しかったんです、能京に。主人公をそう簡単には勝たせない「灼熱カバディ」のシビアさが私は大好きだし、原作の試合結果をそのままやるのは当たり前で。でも、やっぱり能京に勝って欲しかった。「ああ、私はやっぱりこのチームが好きなんだな」ということを、生身の肉体を使った試合を観ることで再確認することができました。私はどこまでも能京を応援したいので、原作の展開も覚悟を決めて追っていこうと思います。今後待ち受ける英峰戦と星海戦がマジで怖いですが。

 練習試合は能京の敗北に終わりますが、後味が悪くならないよう爽やかな終わり方にしていたのがすごく記憶に残っています。結末を知っていたらいたでしんどくなる展開なので、試合の終わり方の描き方にはすごく救われるものがありました。宵越の「大会はいつだ?」という台詞も、原作だとサッカー部の監督に「呪い」とまで評されているのですが、舞台だとより宵越の本能ゆえに発された台詞のような感じで良かったです。

 王城さん推しの身としては、推しが存在していたことに感動。「推しに厚みがある〜〜!」みたいな感動の仕方をしました。北斗の拳のミュージカル版で推しが存在ごと全カットされて涙を飲んだので、推しが舞台上にいるありがたみが身に染みてわかります。

 王城さんといえば、やっぱり「闇」。舞台では物理的な制約もある中でどうやって闇を表現するのかな、と思ってたら、真っ赤な照明で痺れました。舞台の奥に設置された赤い2つのライトが、まるで王城さんの目のように見えて。あの真っ赤な照明が、内側から燃え上がる本能が周りを焼き尽くすように見えて、舞台ならではの「闇」の表現でしたね。

 照明で言えば、高谷のレイドでは舞台上を青い照明が充していたのも印象的です。沈められるという感覚がよくわかりました。

 とりあえずマジで良かったのでBlu-ray注文しようと思います。うちにはBlu-rayを再生できる機器がないのでそもそもプレイヤーを買わなきゃなんですが。あと劇中曲のCDが欲しいですね。

 あんまりまとまってないので、もしかしたら後ほど改めて感想を書くかもしれません。

追記:感想の続きを書きました。

 本日もお付き合いいただきありがとうございました。

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