「舞台 灼熱カバディ」観劇感想③

 こんにちは、雪乃です。「舞台 灼熱カバディ」、23日のマチネを観てきました。というわけで感想です。前回の感想はこちら↓から。

 まず、オープニングカバディで泣きました。早い。
 オープニングカバディ、レイドとかで拍手が起きるんですよ。それがなんかもう、リアルな試合を思い出してしまって。レイドやアンティが決まった瞬間に起きる拍手と会場の一体感は生観戦の醍醐味なので、それを劇場で体感することができて気がつけば涙ぐんでました。だから早いって。
 オープニングカバディ、もはや20分ハーフでガッツリ試合をやってほしいくらいには本気のカバディです。

 拍手といえば、やっぱり試合が終わったシーン。あの場で起きた拍手は、演劇の区切りに起きた拍手ではなく、間違いなくひとつの試合に対する拍手でした。熱量が、完全にリアルカバディの試合で起きた拍手と同じなんですよ。去年の全国大会の決勝を思い出しました。
 試合が終わって拍手が起きた瞬間、泣き崩れてしまって。漫画やアニメの中にしか存在しなかった試合が目の前にあり、しかもその試合に対して拍手が起きている。今まで神の視点で見つめてきた試合の、その「観客」になっている。観客として試合に参加している。試合の過程を、結果を、選手と共有している。そのすべてが演劇でしかできないことです。カバステは人間が生身の肉体で演じることの意義を追求している作品ですが、自分が「試合を観戦している1人の観客」として、「灼熱カバディ」を作る生身の人間の1人であることに気がついたら、もう涙が止まりませんでした。
 私、初めて生で観たスポーツがカバディなんですよ。初めて試合を生で観て一番記憶に残ったのが、観客である自分も参加している感覚を味わえたこと。参加する感覚はもちろん「灼熱カバディ」の原作にもあるのですが、その感覚を一気に深めてくれた。舞台化されるべくして舞台化された作品だな、と思います。

 オープニングカバディに話を戻します。オープニングカバディでは、キャストが役とかを抜きにして、スポーツとしてのカバディをしています。しかしカバディがある程度進んだところで、宵越のレイドが始まって、次第にリアルなカバディが演劇になっていく。物語が観客の目の前で、ゼロから作り出されていく。競技から演劇へ移行する流れの美しさと、競技カバディの延長線上に演劇を発生させるからこそ生まれるリアリティ。虚構である演劇における「嘘のなさ」を、どこまでも現実であるスポーツが引き出していく。演劇と演劇でないものの、新しい融合の形を見ました。

 今回は後方の席から観たのですが、全体の照明や色彩を俯瞰することができてよかったです。
 彫刻のような舞台セットは、引きで見ると演劇のプリミティブな匂いが立ち上ってくるような質感。人間の原初に立ち返るスポーツであるカバディに非常に合っていました。そして後方から見たことにより、コートのラインがすごくわかりやすくて良かったです。

 照明もしっかり見ることができました。全体の色彩も好きなのですが、驚いたのが序盤の宵越が寮にいるシーン。少し暗めの照明と宵越を照らすスポットライトの対比が、彼の抱えるものを表した心象風景のようにも思てドキッとしました。「灼熱カバディ」といえば美しい心象風景も特徴のひとつなので、そう言った原作の演出的な要素も照明で汲み取られていた気がします。

 音楽の面では、全体を流れるBGMの中に、手拍子など肉体由来の音が入っているのが、肉体というカバステの主旋律と響き合い、カバステならではの劇空間を生み出していました。
 そしてBGM以外の音に目を(耳を?)向けてみると印象深いのが奏和の守備。奏和が守備をしているとき、足音が完全にカバディの足音だったんですよ。もちろんマットは使用されていないのであのザラザラした感じはないのですが、それでも間違いなく守備が出す音でした。

 カバディの動きもさらに進化していました。前回は劇場でカバディをしている印象を抱いたのですが、今回はもはやカバディコートの上で演劇をしているようにすら思えてくるくらいの進化。カバディと芝居の間に一切の切れ目が見えないところもまたすごいです。

 それでは、キャスト別感想。

 まずは宵越!今回も灼熱の主人公でした。「この燃える世界は、気持ちがいいんだ。」という台詞は、宵越が取り戻し始めた熱とともに、サッカー選手時代に味わった痛みすらも思わせる言い方。ばらばらになって、いつしか取りこぼしてしまった心のかけらを拾い集めるような、そんな言い方。割れてしまった心を再構成することには痛みが伴う。宵越が成長する上で不可欠な過去との対峙さえもがこのシーンで完成する、素晴らしい熱演でした。あの台詞に痛みを滲ませるからこそ、その後の宵越の成長に説得力がありました。特に「俺の『最善』を超えていく!!」は、「この燃える世界は、気持ちがいいんだ。」のシーンがあってこそ。燃える魂でどんな壁も破っていく宵越、やっぱり最高の主人公です。
 伴くんの回想で語られるサッカー時代のシーンは、純粋にサッカーを楽しんでいる姿が愛おしくなるほどにまっすぐ。サッカーを楽しんでした頃とスポーツ嫌いになってしまった現在との演じ分けが、宵越の抱える痛みと、そこからの再生を際立たせていました。

 王城さん!!!!大好きです!!!
 緩急のメリハリがついた鋭いレイドは、原作で評された通りにまさに研がれた刃のよう。今回も素晴らしい王城正人でした。
 ステの王城さんのすごいところは、ちゃんと「人生の途上」にいる王城さんであること。人間としても部長としてもレイダーとしても、まだまだ完成形ではない、もっともっと先があると思わせてくれる、不思議なパワーを持った王城さんなんです。出ていないシーンを挟んでも芝居に断絶が見えないところも好き。
 原作の奥武戦のネタバレになってしまうのですが、奥武戦で王城さんは「諦める才能が欠けている」とまで評されているんですね。高崎さん演じるステ城さんは、この「諦める才能が欠けている」面の解像度がとにかく高い。
 この「諦める才能が欠けている」面、原作で誰かの視点を通して言語化されたのは奥武戦なので割と最近なんですけど、奥武戦以前から、当然王城さんには「諦める才能が欠けている」んですよ。色々な描写を積み重ねて、そうして奥武戦でようやく「諦める才能が欠けている」として定義されるんです。ステの王城さんは、そんな原作の先々の描写まで踏まえた演じ方だった印象。
 試合中はアンティをしている王城さんもしっかり観ることができて嬉しいです。「それは無理だ。」の言い方もすごく好き。泥臭くて貪欲でまっすぐな超攻撃的な王城さんを観ることができました。
日常パートの王城さんがとにかく可愛い。伊達くんにお姫様抱っこされているときは本当に軽そうにしか見えなくて、ちょっと不安にすらなります。そんな日常パートから試合に至るまでの流れは、確かに「豹変」と言いたくなるんですけどきっと王城さん本人に豹変しているという意識はないんだろうな、とステの王城さんを観ていて思いました。舞台の上で描かれていないときから続いていて、そして舞台の後もずっと続いていく、王城正人という人間の人生の一部を見ているような感覚を覚えました。

 井浦さん……私のこと何回泣かせれば気が済むんですか……。今回も号泣だよ……。ヤバかった……。あと劇中歌のソロパートもすごく伸びやかな声で素敵でした……。
 1年生と2年生が勝負をしているときの井浦さんは得点板を動かしたりとかしてるんですけど、そのときの井浦さん、すごく楽しそうなんですよ。ああ、この人は本当にカバディが好きで、カバディが楽しいんだろうなあってことが伝わってきて、この時点でもうすでにヤバかったです(早いて)。だからこそ伝わる、6年間の重みと、自分をカバディに誘った王城さんへの思い。中学生時代を思い返す独白は重く、そして何より1人で劇空間を埋める存在感は圧倒的でした。この井浦慶で168話が見たい。


 畦道くんは今回も、人を強く惹きつけるようなお芝居が魅力的。人を寄せ付けなかった初期の宵越との対比も鮮やかで天真爛漫で、まさしく畦道相馬でした。あと相変わらず跳躍力がすごい。

 伊達くん。今回は伊達くんを演じる小早川さんが、通りすがりの部員をされていました。伊達くんとは全く違う、シンプルにただのヤバい人を演じていたので振れ幅に衝撃を受けました。本役に戻ると伊達くんでしかないのに……!水澄くんとの細かいお芝居も筋トレも好きだし、そして筋肉愛が原作そのものです。

 水澄くんは、先輩でもあり後輩でもある2年生感が絶妙。舞台では描かれていない、1年生の頃の「積み」を確かに感じさせてくれるところも好きです。スポーツマンらしい直球の熱さがとても魅力的なだけに、やっぱり伊達くんとぶつかり合うシーンはぜひ見てみたい。

 関くんは相変わらず笑いを取りまくってました。アドリブの対応力の高さも凄まじいですが、高谷ファンクラブの女子役が好きすぎて。ギャグシーンをあそこまで柔軟に、かつ強靭に作れる技術がすごい。各校のスタメン紹介で絶対に笑ってはいけないカバディが開幕してしまうところも、とてつもなく好きです。

 人見ちゃんは、関くんとのやりとりが最高。人見ちゃんは解説役も担うのですが、そこで説明的になってしまうそうな台詞もちゃんと「人見ちゃんの言葉」にしてくれるバランス感覚が、ナチュラルなコメディセンスと合わせて魅力あふれるポイントでした。

 伴くんは、初めて宵越と出会ったシーンが泣きます。そして最後の「お帰りなさい」という台詞を担うことができるのは、宵越を追い続けた伴くんだからこそ。あの台詞を以て物語を完結へと導ける芝居力に痺れました。原作だとサッカー部の監督が担っている台詞を舞台では伴くんが言っているのですが、そこも宵越を見続けてきたからこそ生まれる説得力がありました。

 さて、奏和高校へ行きます。

 六弦さん。レイドもアンティも、そして芝居も確かな重力を感じる六弦さんでした。獣のような本能を表に出せば出すほどに深まっていく深まる人間味を感じることができました。揺らぐものと揺らがないもの。どちらもあってこその六弦歩なんだと思える人物像の描き方が素晴らしかったです。

 高谷煉。どうあっても目で追いたくなる、スタープレイヤーらしさに溢れる高谷煉です。高谷は自由奔放な振る舞いも多いですが、それも確かな実力に裏打ちされていると思える繊細な表現が光っていました。王城さんに駆け寄るシーンは、子供がそのまま高校生になった無邪気さが感じられました。

 木崎先輩。演じていらっしゃる富本さん、2002年生まれって本当ですか……?六弦さんとは同期にしか見えなかったし、高谷や栄ちゃんの先輩にしか見えなかったのがすごすぎる。木崎先輩、そもそも強豪校で3年生になるまでカバディを続けてなおかつスタメンに入っている時点でちゃんとすごいんですよ。そんな「よく考えたらすごい」ところまで掬い上げた表現が好きですね。ちゃんと3年間の「積み」を感じさせてくれます。

 栄ちゃん。栄ちゃん、1年生から見たら「栄倉先輩」なんだよな、ということを奏和のシーンで思い出してグッときました。周りを見ることのできる仕事人な栄ちゃん、お芝居の上でも仕事人なのが解釈大一致。漫画にいた感じと実際にいる感じのバランスもすごく好きです。あとこういう人、各部活に絶対1人は必要だよな……と今回思いました。

 室屋くん。アンティの動きの完成度もアクロバットも凄すぎるのですが、栄ちゃんとともに「こんな人、いる!」みたいな部分を担っている演技力も素敵でした。カテコでは室屋くん役の平野さんが日替わりの挨拶を担当されていたのですが、丁寧な言葉選びをされていて素敵でした。

 キャスト別感想はこんな感じです。最初に観たときよりもかなり進化していて、心の底から楽しいと思える舞台でした。

 千秋楽まで無事に走り抜けられることを祈りつつ、今回はここで終わろうと思います。本日もお付き合いいただきありがとうございました。


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