懐かしのジリリリリン
昭和レトロ喫茶がブームだ。
メトロのフリーペーパーや散歩系の雑誌などでよく特集が組まれるから目にする機会が多くなった。その多くは、フルーツと固めのプリンがたっぷりのったプリンアラモードやフレッシュグリーンに炭酸の泡がぷくぷく上にのぼり、真っ白いアイスがのっかったメロンソーダなどいわゆるインスタ映えするようなメニューを多く載せている。
喫茶店メニューの定番のナポリタンやモーニングトーストも見ているだけで食欲をそそる。
ただ、地元密着型のレトロ喫茶店は、中が見えないし、なんとなくたばこの匂いが染みついたイメージで入りにくい。
しかし、とある日。スタバやドトールといったいつも時間があるときに立ち寄っているチェーン店が見つからないところに仕事でいった。すこぶる寒い日で、こんなときは、暖かい場所でコーヒーが飲みたい。となると、選択肢は一つ。駅前にぽつんとあるいわゆるレトロ喫茶店に入るしかない。
背に腹は代えられぬとばかりに恐る恐る扉をあけた。
チャリンチャリンと鈴の音がなる。
カウンター席には地元のおばさん一人。奥のテーブルではおじいさんが新聞を読んでいる。
コーヒーのいい香りがしているなと思ったら、60歳前後のマスターが丁寧にコーヒーをいれているところだった。
「いらっしゃい」
笑顔も素敵なマスターだ。
そのとき、ジリリリリン~ジリリリリン~とどこかで聞いたことがある音が鳴り響く。
「はいはいはい~」とマスターが向かった先は、なんと懐かしのピンク電話!
まだ稼働しているのか。いつ以来ぶりで見ただろ。四半世紀前?というか現役で稼働している!
恐る恐るカウンターに座り、オリジナルコーヒーを注文する。
目の前で丁寧にハンドドリップするマスター。
お湯が沸騰する音、ドリップにお湯が注がれる音、コーヒーの香り、そしてゆるやかに流れる音楽・・・
レトロ喫茶いいではないか!
ちっともたばこ臭くないし、なんだったらこぎれい。
マスターの後ろの壁には、おそらくマイセンやらウェッジウッドといったヨーロッパ産のコーヒーカップがディスプレイされている。
ディスプレイしているだけかと思いきや、その中からひょいっと一つのカップを取り出し、コーヒーを淹れていく。
「はい、お待たせ。カップを眺めていたから、好きなのかな~と思っておじさん一押しのカップでコーヒー淹れました」
なんと!素敵すぎる演出。
スタバと同じ値段だけれども、高級カップで飲むコーヒーのおいしいこと。淹れる過程も見ていたからか、マスターの気持ちまで入っているようでよりおいしく感じる。
至福のひととき。そして質問した
「あのう、ピンク電話が鳴ってましたけど、10円いれたら発信もできるんですか?」
するとマスターが噴き出した
「コーヒーカップの質問かと思ったらピンク電話? 先代からのもので壊れないからまだ使っているんだよ。電話もかけられるよ」
小さいころ自宅にあった黒電話のジリリリリンとまったく同じ音がするもんだからタイムトラベルした気分になってしまった。
この日を境に、スタバがあっても近くにレトロ喫茶があれば文句なしでレトロ喫茶を選ぶようにしている。たまに、たばこ臭い、古びた喫茶店に入ってしまうこともあるが、それもご愛敬。
そして、いつもピンク電話があるかチェックしてしまうのである。
これが意外や意外、現役で稼働しているのが多いのだ。
いつか10円いれて友人宅に電話してみたい。昔は、仲の良い友達の家の電話番号は暗記していて、いつでもスタンバイOKだった。一番仲が良かった友人の電話番号がなんとわたしの実家の番号の下一桁が1番違いという偶然。
なので、今だに実家とその友人の電話番号だけは忘れない。
次こそは10円いれて、ダイヤル回して、実家に電話をかけてみたい。
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