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連続小説 毒親からの解放ストーリー (1)


 コロナウイルスのパンデミックの第七波が落ち着きを取り戻した九月のある日、私は吉田先生からランチのお誘いを受けた。横浜にある会員制ホテルの最上階の、横浜港が見渡せる個室で中華料理を食べながら、吉田先生に相続に関する相談に、乗ってもらっていたのだった。 
 先生と私は四国にある国立の医学部の同級生だった。年齢は吉田先生が私より十歳以上年上だ。私は現役生だったが、先生は結婚して子供を産んで程無くして、ご主人を御巣鷹山の飛行機事故で亡くしてしまったのだ。
 そんな吉田先生とは、同じ医学部の人生経験を積んだクラスメイトとして、長い間お付き合いをさせてもらっている。 
 先生は今年の春にお母様を亡くされて、相続手続きが終わったそうだ。私の父はこの夏の初めに亡くなったので、今まさに相続手続が始まったところだった。しかし相続を巡っては、家族間で相続争いが勃発してしまったのだった。そんな訳で、先生に助言を頂きたくて、相談したのだった。
すると先生から横浜でランチでもしましょうと言う返事をいただいて、こうしている。
「先生、お久しぶりです。お元気でしたか、今日はお招き頂き有難うございました。しかもこんなに素敵なレストランに」  
 中華料理に舌鼓をうちながらお互いに近況報告をし、本題に入ろうとしながらも、私はなかなか口が開けずにいた。先生には相続の話の前に是非、知っておいてもらいたい事があるのだ。それで意を決しって話し出すことにした。
「実は、私の母は毒親なのです。毒親という言葉を聞いた事ありますか?母は今七十六歳になっているのですが、今も私に毒を吐き続けているのです。こんなことは恥ずかしくて今まで誰にも話したことは無いです」
 こう話し始めた私に、黙って耳を傾けてくれている先生がいる。おかげで、私は気を取り直して、話し始めた。
『毒親』とは子供の人生を支配し、子供に害悪を及ぼす親を指す言葉だ。
アメリカのスーザン・フォワードという心理学者が作った言葉だ。

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