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娘達に、オオカミ少年呼ばわりされて、、。

5月ごろからの父は、体調も心も悩める青年のようであります。
なのでここ最近のことは、ちょっとだけ、そっとしておいてあげよう。
その代わりに、半年ぐらい前の父のお散歩。そんなことでも話してみようかしら。
あ、私そんな優しい娘ではないから、話すと言うより暴露に近いかもだけど。
許せよ、父。

多摩川が流れている、父の街。
お散歩コースは、自ずと川までの道のり。父の足で20分くらい。
川沿いの遊歩道や公園にはいろんな人たちで賑わっている。地元の人はもちろん、家族連れ、恋人同士、いぬ友達。お昼休みの会社員もベンチでお弁当を食べていたり。それぞれが街のはずれにある自然を楽しめる、なかなか良い場所である。

近年だいぶ気分屋になっている父は、その時のご機嫌と、お天気や時間帯で、そんな人々の賑わいが心地よかったり、うるさかったり、逆に寂しく思ったりもするようである。

そして、このお気に入りの河原。てくてくお散歩に行こうかやめようかと、毎回心の中で戦っているようである。
行きたい。
だけど、行くまでが面倒くさい。
でも行かなきゃ、体力落ちるからなぁ。
行くか!
いや、面倒だ、、。
いやいや、やっぱり歩かなければ、、。

父は、たぶん毎日がこんな感じの心の葛藤。
そして、
どうせ自転車でスーパーへ行くんだから、それを運動ということにしてもいいのではないか、、?
と言う結果になってしまうようである。

まぁ、それも運動だけどさー、歩かなくなるとすぐ腰にきてしまう父であるし、恐ろしくガマガエルのように太ってきていたし、猫か?と思うぐらいお昼寝侍だし。

糖尿病の心配もあり、鉄板の不死身の膝(いわゆる人工関節ね)にしたのにぜーんぜん歩かないのはもったいないし、ということで、
「とにかくお散歩しましょうよ作戦」
を娘たち(私と姉)が勝手に企画し、あーしろこーしろと毎日声を揃えて言っていたのです。

うるさい娘の口を塞ぐには、父はお散歩に行くしかないのだ。
で、お散歩へ行く。次の日も仕方なく行く。3日目はリズムがついてきて、るんるん行く。良い感じに筋肉痛になって体力もついてきたかな、な〜んて言う4日目に、
恒例の三日坊主になり、なんだかんだ言い訳して、居眠り侍と化する。
娘はまた口を酸っぱくして言う。お散歩へ行きましょうよ。
そして数日後、父はやっと散歩を開始、1日目2日目は仕方なく、3日目は打って変わってるんるん!で四日目は、、。
そして、娘達がまたドヤドヤと言い出す、お散歩お散歩〜〜!
この繰り返しなのであーる。

こう毎週繰り返していると、私たちはなんでこんなに散歩へ行けと言っているのか、なぜ父の散歩に執着しているのか、これは父の問題じゃなくて私たちの問題か? 私たちは散歩に行け行け病になっているのか? はたまた、これは、父への虐待なのかーー?!
と、訳がわからなくなってしまうほどに。

散歩に行きましょうよ、え、散歩へ行かないの? ちょっと、行ってくれよぉ〜、なんで行かないのぉぉ?

私が父だったら、絶対にやだな、こんな娘たち。
でも、私は父じゃないのだ、娘なのだ。
と、訳のわからぬ言い訳で、また口を尖らし散歩の押し売りをしてしまうのである。
それにさー、椅子に座りっぱなしで徐々に膨らんだ餅のようになっていく父を、ほっとけないのだ。まぁ、ほっといてあげればいいんだけど、、。

実家から自転車で30分ほどのところに住んでいる姉は、定期的に父に会いに行く。
でも時々、外でお茶しようと言って駅前の喫茶店まで呼び出す、それも条件をつけて。
「歩いてきてね。自転車で来たら、お茶はナシだから〜〜。」
お茶が大好きな父が、断るはずがない。

河原より近い距離だけど、行きと帰りにしっかり歩いたら、まぁまぁの運動量。
喫茶店の大きな窓ガラスから、向こうから杖をついてしっかり歩いてくる父を姉は確認し、散歩作戦成功!とほくそ笑む。
そして2人は、よもやま話をしながらコーヒーとデニッシュだったり、たまにランチセットだったりをする。

こんなふうに週一ぐらいの「喫茶店まで呼び出すけど本当は散歩作戦」があったある晩に、姉はふと、ある疑問が頭によぎったそうだ。

父は毎回、家から歩いてきているのだろうか、、と。

急に疑いの気持ちがむくむく、、。
うーむ。これは検証せねばならない。

そして、ある散歩作戦の日。
早めに到着した姉は、待ち合わせの喫茶店ではなくて、交番側の横断歩道がみえる木の影で、こっそりと待ち伏せをしたらしい。待つ姉、じりじりじり。
そうしたら、、あらまぁ!
なななんと、電動自転車に乗った父が、嬉々とした顔をして突っ走ってくるではないか。
フライデー雑誌のカメラマンよろしく木陰に隠れながら、姉は横断歩道をかっ飛ばす父を激写、カシャカシャ!そしてすぐ私にラインしてきた。

「見て見て!歩いていると思ったら、自転車だよ!」
「えーー!なに!?!?歩くことが条件のお茶なのに!? イケシャーシャーと!」

2人でものすごく大変な出来事が起こったかのように、ライン上で騒ぎ立てるのだ。まるでこれが私たちの仕事かのように。なんてこった、、。
私「あ!そうこうしているうちに父が来ちゃうよ」
姉「だな。急いで喫茶店へ向かうわ」

姉は急いで喫茶店に移動。あたかもずっと座ってました風な顔をして、待つ。
父、杖をついて闊歩闊歩とやってきた。それも、
「家からしっかり歩いてきました!」
な顔して入ってきたそうな。
姉も対抗するかのように、何も知らないふりをして、
「ここだよ〜」
と手を振ったそうだ。
そして2人はいつものように、たわいもない話をしながらコーヒーやらランチやら。

で、そろそろ帰りましょうかのタイミングで、姉はシラ〜っと聞いたらしい。
あのさ、今日も歩いてきたんだよね? って。

そしたら父もシラ〜っと答えたらしい。
そうだよ。って。
でもその後に、こんなことを告白したとさ。
「昨日さー、スーパーで買い物した後、うっかり自転車を置いたまま家に戻っちゃったんだよ。帰りに取りに行かなくちゃ!」 っと。

え!? なにそのウソ。頭がいいような悪いような、、?
咄嗟の嘘というのは、きっとこんな感じなのだな?
気がついたら、辻褄がどうにか合いそうな事柄を、口からポロポロと。
というか、もうすでに歩いて来たふりしているんだから、また重ねて作り話を言わなくてもいいだろうに。
子供じみた嘘だけど、訳のわからないことを塗りたくったが故になぜか同情してしまいそうな嘘。
姉は、思わず苦笑い。

喫茶店を出て、2人はいつものようにバイバイまたね。
父がビルの向こうの駐輪場へ歩いて行くのを見送って、姉はバス停の方へ歩いて行く。 と見せかけて、、なんと、、また交番側の横断歩道がみえるところへサササッと移動し、そこに隠れて待っていたそうな。

しばらくして自転車に乗った父が、姉の前を颯爽と通りすぎる。
盗撮されているとは梅雨知らず、横断歩道をスイス〜イと漕いで家路に向かったそうだ。

もちろん姉は、激写して私のラインに送ってきた。
自転車を漕ぐ、後ろ姿の父。ただそれだけ。
そうなの。写真を撮る必要なんてないんだけど、なぜか証拠写真を取りたくなったのだろう、姉は。
私だったら、、。やっぱ盗撮だな、、。間違いない。
悪い娘達だ。

でも、写真を撮った姉なりに、写真を見た私なりに、
例えば、、それからしばらくたって、暇な時にスマホの写真整理とかをした時に、たまたまその写真が目に入ったら、
父の認知具合と、父の嘘と。いつもお茶を楽しみにしていることや、お散歩イヤだけど頑張りたい気持ちや。いろんなことを、ふと思い出せる。
きっと、そんな思い出の写真になるのだ。

思い出したからって、ただそれだけなんだけど。
でもさ、「ただそれだけ」の中に、なんかいっぱい詰まっていたりするんだ。

あ〜あ、父の暴露のつもりが、心配という名の行き過ぎた娘達の行動を暴露しただけかも。
ま、いいか!

おしまい。

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