PLAN75を観て

ベイビー•ブローカーと並び今期観たかった映画だったが、いかんせん上映会場が少ないことが不思議だった。カンヌ映画祭であんなに注目されたのにはて何故と思いながらも観賞しに行ったらその理由が両手で膝を打つほどよくわかった。

これはとにかく辛い。

観賞中最初から最後までひたすらに絶望しかなかった。若者の気づきが希望という考え方もあるが、その気付きだって気づいたところでその思いは回収されていない。完全なるディストピアだ。誤解のないよう言うと、非常に重要なテーマであり、このテーマを映画にした監督の心意気には拍手大喝采だ。近未来が舞台なのにその給湯器?そのラジオ?とか、その娘さんなんで一緒にボーリング行ったん?などという突っ込みを言うのも憚られるくらい、1秒1秒が苦しく劇場から逃げたくなる。この絶望感は日本国内が舞台なだけにダンサーインザダークをひょいと凌ぐ。1800円でこの観後感を買ったかと思うとこれはあまりに悲しすぎる。上映前に楽しそうにお喋りしていた4人組のマダムが上映後一言も口を開いていなかったのが印象的だ。お、重い。重すぎる。

だが決して目を背けてはいけない内容であり、故にこれは是非学校の授業などで活用してもらうとして、日々齷齪働くサラリーマンが決して休日に観てはいけない。お口直しが早急に必要だったが、子育て中の身にそんなに時間があるわけでもなく、とりあえず近くの商業施設でグラスのシャンパンと砂肝をぐいっと胃に入れてリアルな口直しをしてトボトボと家路を急いだ。

安楽死とか尊厳死とか、一時調べたことが頭をよぎる。このテーマに関しては必ず是も非も意見が分かれ、答えがない分野ではある。だがそれは自身の主義主張や考え、選択の問題であって、日本の高齢社会とはリンクしない。しかしこの作品はもろにそういった個人の選択の自由が国家が抱える高齢社会問題と隣接して描かれており、それは非現実的ではあるのだがあまりにこの国が絶望に満ちているのでいやに現実味も帯びており、振り向きざまにぬめっと何か嫌なものを塗られたような気持ちになる。「こんなん非現実的〜ありえないし〜」と言えるような国であってほしかった。

この国は既に色々と成長しきってしまった。まだまだ改善の必要はあるが、それをする費用対効果を考えるとこのまま引退していくしかないよねというハイスペック故に早期の引退を余儀なくされた小田急ロマンスカーVSEの運命と重なる。ロマンスカー史上最も細部にこだわり最も快適な作りにした故に部品交換が間に合わずロマンスカー史上最も早く引退したアイツだ。こだわりが強すぎて自滅するなんぞ弱肉強食の生物界では最も下層階に位置する弱者だ。どうも日本はそれを多方面で積極的に選択しにいくきらいがある。成長の仕方がガラパゴスすぎる。故に次世代は生まれず高齢者で溢れ、こんな映画が出来てしまう。監督自身が、きっとこんな映画本当は作りたくなかっただろうなあとお察しせざるを得ない。今宵もまだ酒が足りない。

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