取材に悩み、書店へ行ったら出会った本
自分の取材にモヤモヤしていた。モヤモヤの原因は何かわからないでいた。
最近読んだ本に「何かに悩んだら本屋へ行くと解決する」とあったのを思い出し、大型書店へ足を運んでみた。
企画のヒントを得られたらという思いもあり、2600坪ある本屋さんをぐるっと一周してみた。でも、何も見つけられなかった。
こんなにたくさんの本があるのに何も見つけられないなんて、私はもはや取材ライターに向いていないんじゃないか?
諦めかけたそのとき、取材やインタビューに関する本を集めたコーナーを見つけた。棚差しの中でもひときわ分厚くて目を引いた本をめくってみると、頭に雷が落ちてきたような衝撃に包まれた。
偶然めくって目が釘付けになったページには、こう書いてあった。
素材……集め……?
いやいやそんなわけない。そんな失礼極まりないことするわけない。一瞬本を閉じたくなったが、やっぱり気になって読み進めた。
著者は「就職面接」を例に挙げ、相手の話を常に「これは原稿に使えるか」「使えないか」と「評価」しながら聴いていると、知らず知らずのうちに就職面接と同じような空気感をつくりだし、息苦しくなったインタビュイーは本音を話してくれるどころか、あたりさわりのない受け答えしかしてくれなくなると語っていた。
「これかも……」
私は、あることを思い出した。
*
1年前に公開された上記の記事は、私にとって、ほぼ初めての対面取材記事だった。このころはオンライン取材が主だったため、対面取材の常識を一切知らず、ライターの友人にもらった「雑談のように楽しく話せばいい」というアドバイスだけを胸にインタビュイーの元を訪れた。
「取材時間」への意識も皆無だった私は、インタビュイーの話をただ楽しく聴いた。脱線してもおかまいなしに会話を続けて、取材は4時間近くに及んだ。インタビュイーは「いやぁ、うれしいなぁ」と喜んでくれたうえ、記事の内容も、編集者さんのお力添えもあって本当に素敵なものになったと思う。
このときは、「このまま経験を積めば、もっと取材が上手くなるんだ!」とわくわくしていた。けれど、何十件と取材を経験した今、なぜか自分の原稿に納得いかないことが増えた。インタビュイーは間違いなく素晴らしいので、問題は自分にあるはずだ。
なんでなんだろう?
どうしてあのときみたいな記事が書けないんだろう……?
その答えが、古賀さんの本には書いてあった。私は、経験を積むにつれて
「予定時間に終わるよう進行し、なおかつ聴きたいことを引き出すのがプロ」
「原稿に使える・使えないを判断しながら」……
といった、よく語られるノウハウばかり頭に焼きつけてしまい、肝心な、インタビュイーとの会話を楽しむことを忘れていたのだ。本当にいいインタビューをする人は、そのほかにもさまざまな工夫や苦労をされていることも忘れて。
なんて失礼なことをしていたんだろう。無意識だったとはいえ、私はインタビュイーの話を素材(打つのもはばかられるくらい冷たい単語…)だと思っていたんだ……。これまでの取材を思い返し、落ち込んだ。
*
取材のことだけじゃなく、記事の構成や、「書く・書かない」の選別法についても、目から鱗の話ばかりだった。私は感覚的に書き進めるくせがあるので、心臓にぐさぐさと刺さった。
著者によると、選別力を磨くには「絵本」が役立つという。絵本ならうちに100冊以上ある。さっそく私は絵本での勉強を始めた。
たとえば名作『花さき山』。貧乏な家に生まれた「あや」がある日、山に山菜を採りに行くと、山中で山んばに会った。山んばから、生きていくうえで大切なことを教わる——という物語だ。
花さき山の冒頭は、いきなり「山んばのセリフ」から始まる。1ページ目の時点ですでに、あやは山んばに会って話をしているのだ。
本来の冒頭はこうなはずだ。
「昔むかし、あやという女の子がいました。あやの家はびんぼうで、あやは、小さい妹の世話と、家の手伝いを一生懸命していました。ある日、あやは、おっかあに頼まれて山へ山菜を採りに行きました。すると」……
でも作者は成り行きや前説明を思いっきりカットして、起承転結の「転」から入っている。
古賀さんの本にも、「起承転結」についての、ある重要な考え方が書かれていた。
私はびっくりした。固定概念をくつがえされるとはこのことかと思った。
以来こうして、ずっと放置状態になっていたnoteも再開し、実践してみている。
『取材・執筆・推敲 書く人の教科書』、私のように「なんか自分の取材にモヤモヤする……」という人がいたらぜひ読んでみてほしい。
▲普段「本」を買うのには躊躇する額でも、本格的なライター講座が何万円、何十万円とすることを考えたら安すぎるくらい。いつもは(節約のために)図書館と書店を使い分けている私も、レジへ直行した
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