#002掌編小説 : 夢と現実の”あいだ”の世界で
交差点の真ん中を通る時、人の流れがスローモーションに感じる時がある。前から後ろへ、右から左へ進んでいく人たち。ぶつかりそうでぶつからない、急ぎ足だったはずの人々が、そこにいる。
ここは海の中だろうか。太陽の光が線を描いて”ここ”を照らしている。
鳥は透明な海を泳ぐ魚になり、アスファルトの隙間から伸びる植物は海藻へと変わる。太古の昔はこの場所も海の中だったと聞いたことがある。そんなことを思い出していると、電線はクラゲの触角へと変わり、雲は小さな魚の群れへと姿を変えていた。
早すぎて追いかけることもできない、普段見ているあの人は、残像だったのだろうか。
海は波を残していなくなる。波は砂浜に影を残し、海へと帰る。
スローな世界に驚き、立ち止まったわたしの前を通り過ぎた、大きな亀。ハッとして、目で追いかけるともうそこにはいなかった。
ゆっくりゆっくり進む時間。なんだか今日はおかしいぞ。きっとコーヒーを飲みすぎたからかもしれない。
確信なく、原因はコーヒーに押し付けて、そんな日もありかと思っていた矢先、聞こえるのは鳥の声。そろそろこの時間もおしまいか。
目の前には点滅している信号と、わたしを呼ぶ友の声。いつかみた大きな亀は、夢か現実、はたまた”あいだ”の世界の出来事か。
「空と海の色は同じ」fin
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