見出し画像

「みちこのみたせかい 2023」

先日、アクタリウムのちぃちゃん(岩﨑千明さん)が出演された、演劇企画カンパニー・Studio K'zの11月公演「みちこのみたせかい2023」を観劇いたしました。
これまで、同じアクタリウムのみかりん(福尾美佳さん)ときょーこさん(荒井杏子さん)が出演された舞台は、それぞれ観劇していたのですが、ちぃちゃん出演の舞台だけスケジュールが合わずに観ることが出来ていませんでした。
それがようやく念願叶って、今回観ることが出来ました。
今回はこの「みちこのみたせかい 2023」を観劇した感想を書きたいと思います。

あらすじ

本公演のフライヤーの内容を引用させていただきます。

町でいちばん頭の良い少女、みちこは病弱。
だけど、今日も放課後の学園でクラスメイト達と将来の話に夢中。
ひとつだけ気がかりなのは、いちばんの親友きぬえと、いつも通りに話せないこと。
優しい転校生のアイは、悲しむみちこを慰める。

そんなある日、不思議なことを言う幽霊が、みちこの前に現れる。

「私、ユイだよ、おぼえてないの?」

みちこだけに見える幽霊たちは「本当のこと」をみちこに教えようとする。
でもそれは、とても悲しい「本当のこと」

ユイとカイは、いったい何者なのか。
みちこは、きぬえに想いを伝えられるのか。
きぬえは、みちこを救うことができるのか。

いま、
誰も知らない世界の片隅で、
みちこのみた
世界が
消えようとしている。

演劇企画カンパニー・Studio K'z 11月公演「みちこのみたせかい2023」フライヤーより

感想

とても考えさせられる内容で、生きるとは何なのか、幸せとは何なのか、死とは何なのか、記憶とは何なのか…。
とても深い作品でした。

これ以降には「みちこのみたせかい」の根幹部分のネタバレに関することがあります。


認知症と介護——今作のテーマになっている部分ですが、認知症というものを扱っているからこそ出来る表現手法が用いられていました。
主人公の未知子が、学校の保健室で学友達とのなんとはない会話が描かれている一方で、未知子のことを「おばあちゃん」と呼ぶ解と結。
認知症によって、未知子の自己認識は学生時代のものになってしまっているのです。
そんな未知子の学校の保健室でのシーンと、介護を受けているシーンとが行ったり来たりするのですが、未知子役の森本栞菜さんの衣装がずっと学生服のままなので、今、描写されているものが、現実に未知子が学生だった時なのか、未知子の記憶の回想なのか、VRで再現されたものなのか、それが初見だととても難解でした。しかしながら、これこそがこの作品に欠かせない仕掛けのひとつだと気づくと「なるほどなぁ」と感嘆の声を出さずにはいられません。

散りばめられた伏線についても、初見では気づかなかったことに、配信で見返したり、台本を読んだりすると、後々になってそれに気づいたりもします。
この伏線の塩梅が絶妙で、気づかなくてもストーリーを追うのにはなんの支障もないけれども、それに気づくとストーリーや人物の奥行きが広がって見えるという感じのものになっています。

ちぃちゃん演じる加山あけびですが、後々にアクタリウムのライブの特典会でちぃちゃんと話した時に「実は車谷さんと関係があったり、なかったりするんですよ〜」と教えていただき、台本見ながら配信を観てみると、それに気づくことが出来ました。
加山が所属していた「冒険部」を廃部にするキッカケとなる記事を書いたのが、何を隠そう車谷だったり。
車谷や加山の人間性に深みが増す伏線だなと感じました。

奥行きを持たせるという意味では、登場人物のひとりひとりに「好きな食べ物」が設定されているのも興味深い点です。
作中で言及されるものから、全く触れられていないものまで、細かく設定されているということを、台本を読んで初めて知ることが出来ます。
作中で触れないのであれば不要とも思えるものですが、登場人物をひとりの人間と捉えると、人間なのだから好きな食べ物はあって然るべきだと思います。
したがって、役者さんが演技に活かす活かさないに関係なく、あって然るべき設定だと思います。

今作のエンディングは、観劇した私たちが如何様にも解釈できるようなものになっています。明確な結末というものが描かれていないのです。
これは、観た人の立場や境遇で解釈が変わるのではないかなと思いました。
身内に認知症の人がいる方。
認知症の方との間柄。
認知症の方を「見送った」経験など…。
そういった方々の解釈・感想と私のそれは、異なるものになる可能性があるのではないかと、そう私は考えます。

エンディングで言うならば、ラストシーンでの未知子と絹江のやりとり。

絹江「思い残すことはない?」
未知子「私、絹江さんさんに言おうと思っていたことがあるの」
絹江「あら、何かしら?」
未知子「ふふっ…忘れてしまったわ😁」

笑顔から一瞬躊躇いを感じさせる表情をするも、アイに手を取られ、しっかりとした眼差しで前を見据え、一歩を踏み出す。

未知子の最後のセリフ。
これが私にとっての、この作品の「救い」だと感じました。

同じものが二度とない舞台演劇で認知症をテーマとすること、これはとても意義のあるものだと感じました。
小劇場のあのサイズ感だからこその成立感もあると思います。
改めて、素敵な作品を観せてくださった、演者のみなさん、スタッフのみなさんに感謝いたします。

最後にこの作品のテーマ曲の歌詞を紹介して、この感想の結びと代えさせていただきます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?