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【詩】酒瓶の底にうつつ

わたしは狂信しないが
わたしは常に酔っていた

ただ生きることは乗り物に乗るように
いささかの、不快さをはらみながら
酔い止めも、持ち合わせないまま
わたしは酔いながら生きていた

何にも狂うことができないということは
酔いつぶれるほどの現実を呑むことであった

そうして現実というものはよく揺れる
車に乗るように、電車に乗るように、
飛行機の離陸のように、着陸のように
船の絶え間のない荒波とのたたかいのように
わたしの三半規管はつねに鋭敏に現実を感じていた

狂えぬ苦悩、見つめる苦悩、甘んじる苦悩、
免許を取らず、ハンドルは握らないままに、
行き先だけを信じては、知らぬ街に降り立つ

その時は既に千鳥足である
ご機嫌は無い、悲しみに暮れる、千鳥足である
気は小さいまま、常に怯えて呑む酒は、
わたしの脳を冷やすばかりで、一時の救いもない

狂信する人々の中に入っても
わたしはいつまでも寂しかった

鳥の声が聞こえて、時折り慰められる
みずからの足で歩く時、たよりのない足元
行き先のわからぬ行脚、わたしは酔う、
狂信できぬがゆえに、わたしは酔うほかない

ただ目の前の景色に酔う
常々の、徒然の、酔っ払いは、
たかだか、ふつうの、苦しさを肴に、
盲信を捨て、信仰を捨て、生身のくるしさに
今日も酔う、明日も酔う、昨日も酔う、

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